第3話 ▼仲間を手に入れた!


次の場所は、スライムがわらわらと群がっていた。猫の集会のように互いに戯れている様子に、幸福感にも似た感覚が広がっていく。何体も死体を作っておいて、今更ではあるが、やっぱり、この生き物たち、かわいいのである。テイムとかできないのかな。いや、魔法はイメージである。一体ぐらい、テイムお持ち帰りしてもいいはずである!知らないけど!


そう、なれば、一匹だけ残して殲滅させればよい。軽く十匹以上はいるウーズのうち、一匹だけ残して残さないといけない。自動照準という恐ろしいスキル効果があるのだが、スキル効果こいつは私の意図を察してくれるだろうか。


分からんわ、祈るしかないな、これ。


ウーズはこちらに気づくと、怯えて逃げるもの、こちらへと向かってくるもの、その場にとどまるものと様々であった。しかし、その中の一匹がみぃ、と一際高く鳴くとウーズはそちらを向いた。そうして、そのゼリー状の胴体を揺らしながらその一体へとのしかかる。次々とその上に別のウーズが、その上に、その上にとどんどんとのしかかり溶け合っていく。


そうして、互いの境界線が無くなり、輪郭は揺れ、もぞもぞと粘性の胴体は複数体のウーズを溶け合わさり、質量を増している。要するに、でかくなったということである。しかし、その顔はミニマムだったときと変わらず、きゅるりとした円な瞳と小さな口だ。とってもかわいい。みゅい、と鳴き声を鳴らしている。


「合体とか正気かよ……いや、かわいいけど。」


本当に段々と猫と同等の扱いをしてしまうくらいになってきた。脳が侵略されている。


ウーズはもぞもぞと揺れると、魔法陣が胴体に描かれる。その魔法陣の色は、水色だ。そうして、光が収束し、その光に水が纏わりつき、水の玉が集中している。あれ、これ、さっき見たぞう。そうです、さっき、私もした【水魔法】である。え、これは、お礼参りってことですかね?何処かで見たのかな?


唐突な魔法攻撃の兆しに私は、ぐるぐると思考をめぐらしているうちに、ウーズから魔法が放たれた。放出された水は、ホースで水を飛ばしているときのように一直線にこちらへと向かってくる。軌道が見えていることと、その勢いがそこまで早くないということもあり、私は横へと逸れた。先程までいた私の場所に水が命中し、少しだけ地面を抉っていた。その様子に当たっていたらと、血の気が引く。もぞもぞと、その輪郭を揺らしている。


ウーズは、その粘性の胴体を細く伸ばし、こちらへと振り下ろしてきた。細い鞭のようにも思えたそのウーズの腕は、私の腕に当たるものの、あたりどころもあるのか、ぺちりとした痛みしかなかった。だが、伸ばされた胴体はそのまま再度、私を掴みかかろうとしている。しかし、私が横へとそれたこともあり、すかりとその腕のような鞭は空を切った。


さて、どうしたものか。まぁ、的自体はでかくなったことや、自動照準もあり、核を狙うことは問題ないだろうが、果たして、あのゼリーの身体に届くのだろうか。そして、倒したあとは全滅するのか、バラバラになるのか。未知が多すぎる。


だが、ここで戯れていても仕方ないし、新しい魔法を習得したい。あれもこれも手を出し過ぎと言われても仕方ないが、やはり、ここまで来たらやりたいのが事実だ。


とはいえ、土と言ってもイメージが砂の城であったり、土壁と言うよなシールドに近いものしか浮かばない。土のイメージってなかなか難しくないか、と悩んでいると、もぞもぞと粘性の胴体が動く。そうして、今度は、二本、その体から鞭のように細い触手を伸ばした。つまり、三本、こちらに迫ってきているのである。


触手がそれぞれ、こちらへとぶつかってくる。一本は腕に、もう一本は足に、もう一本は頭へと当たった。足はそこまで痛くなかったものの、腕は先程と同じところに当たったこともあり、少しだけ痛みが強くなった。しかし、頭部には、衝撃が走るくらいの痛みが走り、ぐらりと視界が揺らめいた。


俯いて、頭を抑え、痛みから目尻に涙が溜まる。零しこそはしないものの、歯を食いしばり、どうにか悲鳴はあげなかった。ウーズに対して、今まで、一方的に無残な死体を作り上げてきたが、あれはやはり、不意打ちだったことが大きいのだろう。こうやって考える暇が無ければ、イメージが湧かない今では、魔法を発動することすらできない。戦闘などしたことが無い、なんなら、運動すら苦手で、避けてきた人間には当然の末路だと言えよう。だが。


私は、俯いていた顔を上げ、右の手の甲で目尻の涙を拭う。そうして、杖を両手で持ち、その頭部である杖の先をウーズへと向けた。


「こちとら、お前をペットにしたいんだ!負けてたまるもんか!」


私はそう叫び、想像する。土と言うならば、砂──つまり、それをもとに形成される石、そうして、石から形成される岩も含まれるのではないだろうか。ならば、岩で武器を形状し、撃ち込めば、それは土魔法になるのではないか?


ぐるぐると、発想の転換を積み上げていく。口角は自然と上がっていた。砂や泥が固まり、石が形成される。石が長い年月によって、岩となっていく。中学生の時のうろ覚えの科学知識である。だが、昔は打石器や磨石器という石を使った道具があったのだ。武器も当然、作られていた。


イメージしろ、岩によって作られた無数の礫を。そうして、その礫一つ一つが鋭利に磨かれていることを。突き出した岩が、何かを貫くなんて、よく小説でも出ていたのだから。それを、想像しろ。・・・・・


ぐるぐると、脳裏に文字が浮かび上がる。私は、叫ぶように降りてきた言葉を口に出した。


「【ウーナ・ラミナ・テラ】!」


杖の先から魔法陣が描かれ、光が収束していく。その光に寄せられて、地面の土が纏わりついていき、そして、パキパキと塊になり、ゴツゴツとした容貌となる。形成された不揃いの岩は、また、パキパキと音を立てながら、その先端を鋭利なものへと変化させていく。


そして、触手が再度、押しつぶすよりも先に岩は射出され、その勢いによって、粘性のはずの胴体の一部は、千切られた。その残りの無数の岩も、射出され、ウーズの胴体へと向かった。


岩の槍は、まるで弾丸のような勢いでウーズを穿った。それはもう、容赦ないまでに。岩の槍が通ったところは、穴が開き、向こうの風景が見えている。ボコボコの穴ができたウーズはもぞもぞと輪郭を動かし、穴を修復するように、体を動かしていく。明らかに小さくなっていく、ウーズに私は近づくために、地面を蹴った。


今考えれば、ボコボコにされたのに誰がペットになってたまるか、と思うかもしれないが、なんならペットなど、人間のエゴ・・・・・でしかない。正当化する理由など、いくらでも多く見つけてやる。ずっとかわいいと思ってきたのだ、とりあえず、ペットにして、愛でてたい気持ちが強くなったので仕方ないのである。欲には忠実にいたい。なんたって、異世界なんだから。


ウーズの目の前につく頃には、統合される前の大きさとなっていた。よくよく、近くで見れば、ウーズは人の顔ほどの大きさであった。ウーズは、怯えることなく、戦闘態勢を示すように魔法陣を描いていた。


「みぃ!」


威嚇するようにウーズは、光を収束させる。そうして放出された水を顔を逸らすことによって、避けると、ウーズを抱え上げた。持った第一感想は、ひんやりとしていた。第二感想はもちもちとしていた。しっとりと手に吸い付く感触で、まさしく、科学の実験で遊んだスライムを思い返す。子供の頃、お気に入りのおもちゃであった。


唐突に私に抱えられたウーズは暴れて離れようとするが、私はどうにかこうにかと抱きしめている。あちらこちらに触手を伸ばすものの、私は構わずにその力を強くした。DEX対抗であれば、多分私のほうが高いはずだ!知らないけど!


「逃げないで、待って、話わかるかわかんないけど、聞いてよ。」


私は暴れるウーズをどうにか、自分の顔の前へと持ってくる。暴れ疲れたのか、その頃には、ウーズは大人しくなっていたが、つぶらな瞳は、やや怒りに満ちており、口もへの字に曲がっている。怒っていてもかわいいな。こちらを睨みつけているが、顔のせいで全く持って覇気がない。私はそんな気持ちで自然と表情が緩んでいた。そんな私に苛立ったのか、触手が振り下ろされた。痛い、と叫んでしまったが、どうにか落とさずに済んだ。そうして、私は再度、ウーズを見た。


「ね、私と旅をしない?あんなにボコボコにされておいてとは思うかも知んないけれど、それはお互い様でしょ。私も頭ぶん殴られたし。」


ウーズは瞬きを繰り返す。そうして、目を寄らせ、口をあんぐりと上げていた。表情豊かに動くそのウーズに、私は、知能が高いのではないかと感じ始めていた。


「そりゃあ、もちろん、あなたと同類を倒すこともあるけど、約束する。人間に害さない限りは、無益な殺生はしないって。だからさ、お願い!私と一緒に旅をしよう?ね!ね!」


私は押さえ込むようにウーズを抱え込む。ひんやりとした肌触りは気持ちがいい。急に抱え込まれたウーズは再度暴れたものの、お願いと言い続ける私に、疲れたのかわからないが、暴れるのをやめた。


「みぃ……」


その表情は目尻を下げ、口を開けており、触手のような手を双方に伸ばして、胴体を揺らした。それはまるで、やれやれといった様子だった。やっぱり、このウーズ、知能が高いな?


「一緒に旅してくれる?仲間になってくれる?」


「みぃ」


私の最後の問いかけに、ウーズは首を振るように胴体を揺らした。その表情は、やはり、呆れたように目尻を下に下ろしていた。私は、じわじわと広がる充足感に、広角が上がっていく。


「本当に!ありがとう!仲良くしようね!」


私は満面の笑みを浮かべる。その笑みに、ウーズは、面を食らったように瞬きを繰り返していたが、口をへの字に曲げて、視線を反らした。照れてんのか?お?


私がほう?とニヤニヤしていると、ウーズは、くるりとこちらを向いた。そうして、魔法陣が描かれる。私が、え、というよりも前に光は収束していた。


「みぃ!」


びしゃりと水がかかる。頭からかかった冷たい水に、私はぽとぽとと水滴を髪から垂らす。その光景にウーズは胴体を揺らした。目は不等号の小さい方が向かい合うようになっているような形で、触手を口元に当てている。まるで笑っているかのように。


「おいこら。やったな。」


私はウーズを掴むとその胴体を伸ばしてやると、やめろと言わんばかりに触手を顔に伸ばして離れようとするが私は構わずに捏ね回しておいた。


こんにゃろう!



街へと戻ると、昨夜泊まった宿屋へと直行した。朝、見送ってくれた宿屋の女性は私を見ると、おかえりなさいと微笑んでくれた。その女性のいるカウンターへと向かうと、もう1泊、泊まりたいと告げた。


「もう1泊泊まる?いいわよ。それにしても、なんでびしょびしょなの?」


「こいつのせいです。」


私がそう言って、頭に乗っかっているウーズを指差すと、宿屋の女性はあらあらと笑った。どうやら、反応を見るに、モンスターをペット化するのは珍しくないのだろうか。ウーズは私の頭の上からけらけらと笑うように身体を揺らすので、すぐに頭からおろして、捏ねるように伸ばしてやるとやめろと言わんばかりに再度暴れたのであった。


その様子を微笑ましげに見ていた宿屋の女性は、まぁまぁと私達を止めたのであった。



意外にもこの異世界は水道設備がしっかりしている。魔法を使って引かれた水道に熱を与えてシャワーもできているのである。ファンタジーって、すごい。その為、私は汚れた身体を洗い流すことができるのである。まぁ、最も、シャワーは各部屋についているのではなく、ブースみたいな形となっている。


シャワーを浴び、貸出された衣服を身につけると、部屋へと戻ってきた。ウーズはベッドの上で寛いでいる。


濡れた服は、宿屋の女性が洗ってくれると現在預かられている。いたれりつくせりである。好意に甘えることとした。


「ステータスオープン」


私は、ウーズの横に腰を下ろすと、ステータスウィンドウを開いた。その様子にウーズも気になったのか、私の頭の上へと飛び乗って、そのウィンドウを眺めてきた。どうやら、他者にも見えるらしい。


【レイ・ムメイ】

天賦:【勇者】【タイプ:召喚】

職業:【魔法使い】


固定スキル:【夜明けの魔女ルーキス・オルトス

効果:詠唱加速 、魔力向上、魔法威力向上、成長加速、目標自動照準


取得:【火魔法(下位)】【探索魔法(下位)】【水魔法(下位)】【風魔法(下位)】【土魔法(下位)】


能力値

STR:9 CON:7 POW:13 DEX:13 APP:13

SIZ:8 INT:15 EDU:15 MP:463(残:444)



今日一日で魔法をたくさん覚えることができたと、取得欄に浮かぶ魔法の羅列に心が踊る。魔力残量もそこまで減っていないことから、明日、全回復しなくても問題ないはずだ。え、ちゃんと回復するよね?使い捨てとかじゃないよね?急な不穏を感じながらも、私はニコニコとしていると、ウーズが触手を伸ばした。そして、私のウィンドウを触れると、ぺしぺしと叩き始めた。


「え、なんだ、なんだ。どしたよ、君。」


ウーズが叩くのは、私の名前の欄だ。それを何度も叩いている。あ、そういえば、私、名乗ってなかったな。


「あ、名乗ってなかったね。私は、無銘むめいれい。よろしくね」


べしりと顔面を触手で叩かれた。どうやら違うらしい。再度、ぺしぺしとウィンドウを叩くウーズにもしや、と閃いた。


名前・・がほしい?」


私が見上げるようにウーズを見ると、つぶらな瞳と目が合う。頷くように胴体を揺らすウーズに、私は広角が緩む。


「そっか、そっか~。名前が欲しいかぁ。」


私がニヤニヤしていると、べしりと再度、触手で顔面を叩かれた。うるさいと言わんばかりである。ツンデレかな?ごめんごめん、と謝ると、ステータスウィンドウを閉じて、私は頭へと手を伸ばし、ウーズを自分の膝の上へと置いた。


「なんて名前にしようか。」


実はペット化したいと言ってながらも特に名前は考えていなかった。モンスター命名ゲームを昔やっていたが、その時好きなキャラクターの名前をつけたりしていたからなぁ、あんまり、命名に自信はない。だが、自分の相棒のようなペットのような、そんな大事な仲間である。めっちゃかっこいい名前をつけたい。


かといって、ウーズという名前から捩るもあんまり可愛くはない。スライムもどうかと思うし。うーん、うーんと考えていると、ウーズは早く早くと言わんばかりにベッドを叩いていた。少しは待てよ!


水魔法使うし、アクアとか?いや、なんか、普通に嫌だな。あのお嬢さんの名前を聞きそこねたが、明らかに外国ベースなのは間違いないのだから、カタカナのほうがいいのは明らかだ。うーん、と悩んでいるうちにも、ベッドは叩かれている。待ってくれないかなぁ。


でも、水という路線からは離れないほうがいい。他のウーズに比べて、特異な気がするし、普通に考えて、魔法が使えるスライムなんて、絶対特別でしょう。違ったらゴメンだが。そうこうと、考えているうちにぴこん、と閃いた。


「ネレイド!で、長いからネレね。」


さて、どういう発想になったのかといえば、今更ながらも、この世界の魔法はだいたいがラテン語だ。まぁ、詳しくは知らないが、アクアとかイグニスは、それぞれ、水や火を意味していたことは、ファンタジーとかでよく見ている。そして、そのラテン語は元々、ローマのラティウムというところに住んでいるイタリア人が話していたのだという。で、ここからが飛躍したのかもしれないが、イタリアといえばローマ。ローマといえば、コロッセオかローマ神話だ。だが、ローマ神話の神などあまり覚えていない。ということで、更に飛躍して、ローマ神話はギリシャ神話とも通じるところがあるため、ギリシャ神話から水の精霊の名前としてネレイデスという名前があり、ネレイドはそこから取られた海王星の第二衛生の名前である。そこから取った。いやぁ、自分でもよく考えたものだ。何でもイメージだねと、ニコニコとしていると、ウーズは私の膝の上で跳ねた。


「みぃ!」


ぴょんぴょん、と跳ねたこともあり、ぷるぷるとした身体が揺れている。どうやら喜んでいるらしい。喜んでくれたなら、幸いだ。


「これからよろしくね、ネレイド。」


そう私が言うと、ネレイドは跳ねるのをやめて、私を見た。そうして、触手を伸ばして、私へと手を伸ばした。その触手を私は掴む。ひんやりとして、もちもちとした肌触りのよいその感触はとても気持ちが良かった。

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