08
慌てたようにラークが言います。スピカたちもラークが言いたいことは分かりますが、ここは黙っておくのが吉です。
「で、事情を話したら、フェンリルからこの子を紹介されました」
そう言ってソフィアが何かを抱え上げました。小さな犬のような、何か。
「フェンリル・プチ?」
どうやらラークが鑑定したらしく、そうつぶやきました。
「プチ? えっと……。子供?」
「うん。フェンリルの子供。次のエリアキーパーの予定なんだって」
「ソフィアちゃん脅したの!? 子供を脅し取ったの!?」
「違うよ!?」
もちろん冗談です。ソフィアが本気で慌てているので冗談だよと笑いかけると、ソフィアが頬を膨らませました。
「スピカちゃんのいじわる」
「あはは……」
話を戻して聞いてみると、そろそろ野に放ち、人間の様子を見て回るように言うつもりだったとのことです。しかしもちろん、誰かの保護下にいるわけではないので危険があります。
「つまり、危険にさらすよりは、フェルトの保護下に入れておく方が安心ってことかな」
「うん。そう」
「あの……。フェンリルさんはそれでいいんですか?」
フェルトが聞いて、全員の視線がフェンリルへと向かいます。フェンリルが頷きます。
「むしろ渡りに船だ。いずれはもちろん迎えに行くが、人間の寿命程度なら構わん」
「そう、ですか……。君はそれでいいの?」
今度はソフィアが抱いている子犬に聞きます。子犬はわん、と短く吠えました。
「よろしくお願いします、だって」
「そう……。えっと、それじゃあ……」
フェルトが札を取り出して、使役、とつぶやきます。すると子犬が淡く光りました。ソフィアの腕から下りて、フェルトの元へ。フェルトが抱き上げると、嬉しそうにフェルトの頬を舐めました。
「ん……。かわいい」
どうやら無事に友達になれたようです。スピカとソフィアは笑顔を交わして、次にフェンリルへと向き直ります。
「ではお預かります」
「ああ。よろしく頼む。では、失礼する」
言うが早いか、フェンリルはさっさと立ち去ってしまいました。あっという間です。
「お祭りに戻りましょうか」
フェルトの言葉に同意して、一同は王都へと向かって歩き始めます。白虎はせっかくなので、もう少しここで日光浴を楽しんでから戻るそうです。
そうしてスピカたちが帰ってから。その場に残っていた白虎は小さくため息をつきました。
「運営とやらも大変だな」
フェンリルが立ち去った方へと顔を向けて、小さく笑っていました。
・・・・・
王都の入口に戻ると、兵士二人が駆け寄ってきました。どうやら彼らはあの白虎の姿を遠くでありながら見ていたようです。何故四聖獣がと困惑して、次に王女が向かった場所だと青ざめて。すでに王城にも連絡をして、捜索隊が組まれようとしているとのことでした。
「ソフィアちゃん、どうしてあの白虎さんだったの?」
「つい……。もう少し小さい子にお願いしたら良かったね……。反省する……」
しょぼん、と落ち込むソフィアを、慌ててフェルトと一緒に慰めます。助けてもらえたのは事実なので責めるつもりはないのです。
兵士に、王様を安心させてあげてください、と促されて、四人は中へと向かいます。途中、兵士がフェルトの抱いている子を見て目を丸くしました。
「あの、そちらの、犬……犬? は何でしょうか」
「え? ああ、この子ですか。フェンリルの子供です。預かりました」
「はい?」
「私の新しいお友達です!」
「はい?」
意味が分からない、といった様子の兵士二人。まあ今はとりあえず、王様に会うとしましょう。その後王様から報告してもらいましょう。それが確実です。
門を通って、中に入ります。絶句しました。
物々しい雰囲気です。兵士がたくさん集まっています。フェルト曰く、将軍までいるそうです。お父様、つまりは王様もいるそうです。お祭り中の人たちも皆が不安そうです。
その様子に唖然としている四人に、王様がすぐに気が付きました。
「フェルト!」
王様がこちらへと駆け寄ってきて、フェルトを抱きしめました。
「うおおお! フェルト、心配したぞおおお!」
「お、お父様、落ち着いてください! 皆の前です!」
フェルトの言い方から、何となく王様のことが分かります。きっと普段は王様らしく、威厳たっぷりなのでしょう。けれど娘と二人の時は子煩悩を発揮する。つまりは親馬鹿。
「ししょーみたい」
隣で、ソフィアがぼそりとつぶやきました。師匠。つまりは先代銀麗の魔女。どのような人なのでしょうか。
「師匠さんってどんな人なの?」
実際に聞いてみると、ソフィアはんー、と考えて、
「私にとっては優しいお母さんだけど、あまり喋らない無口な人、かな? でも、たまに変なことを口走るけど」
「変なこと?」
「えっと、もえ、とかなんとか」
「え」
ラークが唖然とした声を発します。そちらを見れば、気にしないで、と手を振りました。
「もえって……。萌え? え? もしかして、AIじゃないのか?」
ラークが首をひねっていますが、まあ気にすることはないでしょう。
視線を戻せば、王様がフェルトを解放したところでした。そうして次に、ソフィアへと視線をやります。王様と見つめ合うソフィアは、しばらくそうした後、首を傾げました。
「何か?」
「いえ。貴方が今代の銀麗の魔女ですかな?」
「うん。ししょー……、先代を知ってるの?」
「もちろんです。彼女は国家間の連絡を請け負ってくれておりますので」
「え。なにそれ」
どうやらソフィアの知らない仕事のようです。ソフィアの顔がおもいっきり引きつっています。
「あの、ごめんなさい。それ知らなくて……。定期的に、来ます。必ず」
「いえいえ。年に一回程度の、銀麗様の気まぐれでしたので。あまりお気になさらなくて結構ですよ」
「そう、なの? うん……。師匠に聞いておきます……」
なんだか大変そうです。朗らかに笑う王様と対照的に、ソフィアは頭を抱えています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます