【短編】某県民にターゲットをしぼった幼馴染NTRざまぁ恋愛小説

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】某県民にターゲットをしぼった幼馴染NTRざまぁ恋愛小説





「何、だよ……これ」

『ウェーイ!! オタク君、観てる〜?? 今キミの彼女、うちんく俺ん家のベッドで寝てまーす!!』

 差出人不明のUSBに保存されていたその動画に、俺は呆然とするしかなかった。




 





えっとぶり久しぶりの再会がこんな形でごめんね、リョー君……でも高知センパイ、すっごくいいんだ……♡』

『だってさァ!!! ギャハハハハハハハハハ!!!!』

「これ、、愛生だよな……???」






 PC越しに見る認めたくない現実に、俺―――某県に住む高校一年生・香川かがわ良太りょうたはただただ震えることしかできなかった。

 あまりにも突然のことに、思考が混乱している。

 だが、間違いなく言えること。



 それは、幼稚園以来兄妹のように仲良しで中学に入ってからは彼女にもなってくれた俺の幼馴染―――愛媛えひめ愛生あきが。



 俺の知らぬ間に、別の男―――悪いうわさしか聞かない高校の先輩・高知こうち一彦の女になっていたということだった。






 



「オタク君みたいなしょーたれただらしない男なんかって、俺みたいなおもっしょいおもしろい男と付き合うことにしたんだよォ……」

「そんな言い方しないでください、センパイ……リョー君には、私もいっちょも全然申し訳なさを感じてないわけじゃないんだから……」

「愛生、そんなあんぽアホいらわれん触れるな。それはそうと、丁度なぁ、ツレと東京へ旅行しようって話してるわけ、今」

「ワァ♡ ほんとですかァ? センパイ! どこへ行く予定なんですかァ?」

「そりゃもう最寄りの【電気汽車】でよぉ……【東京のそごう】でおなじみの三越・髙島屋のブランド店とか、【東京のポッポ街】こと秋葉原にも行かせてやっから」

「じゃあ、【東京のインディゴソックス戦】こと巨人戦を観に【東京のむつみスタジアム】こと東京ドームに行ってもかんまんいいですか???♡ 【東京のアスティ】こと日本武道館で今度開催される、【東京の米津玄師】こと、米津玄師のライブに行ってもかんまん?」

「おお、いいぜェ。どこへでも連れてってやるよォ」

「スゴォイ♡ センパイダイスキィ♡」

「そうか、じゃあもう一回抱いてやるぜェ」

「アンッ♡ センパイ、こそばいくすぐったいですゥ♡」





 そこで、その動画の再生時間は終わった。












「………………………………………………………………………………………………………………………………………………う……」










 それから十秒ほどの沈黙。










「……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」










 そう絶叫してから数十分のことは、よく覚えていない。

 気がついたら目の前にあったのは、無惨に破壊されたPCだった。

 それだけ、俺の情緒も、理性も、行き場のない衝撃によって吹き飛ばされていた、ということだ。

 棚に置いてある【すだち君】のフィギュアの笑顔が、この夜は逆に痛かった。








 そうして、俺達の恋は、一瞬で終わりを告げることになった。








 ついきにょう昨日、来週の日曜日の久々のデートは【マルナカ】で落ち合って、【文化の森】の【21世紀館】に言ったあと、【東大】か【いのたに】に行く約束してたはずなのに……




「くそぅ……くそぅくそぅくそぅ…………!!!」



 絶望と虚無に囚われる、俺の心。

 たまらずとっくに寝ている両親の目を盗んで、俺は台所の食器棚に置かれている円筒状のものを持ちさって自室に戻った。




 パカッ……




 パリ……

 パリッ、パリッ……




 悔しさ情けなさをかみしめるように、俺は【大野のり】をそのまま一枚一枚(たまに二枚重ねで)頬張るのであった―――

 







◆ 3年後 ◆







「断る」

「うぅっ……!!」




 俺―――実家を離れ、一人暮らししている東京の私大に通う大学生の香川良太―――は、そう言って幼馴染の愛媛愛生の頼みを一蹴した。

  わざわざ俺の大学前のカフェに来てくれたのに申し訳ないが、だからってさっき彼女が言った頼みを承諾するかというとNOだ。




「もう一回昔みたいに楽しくやろうよ!!」

つべくそ言うなでたらめ言うな。その昔の思い出を汚したのは、キミ自身だろ」




 綺麗に掌返ししてくる彼女が本当にはがいたらしい腹立たしいし、がいーきつい性格に虫唾が走る。




 昔のあだ名で、俺のことを呼ぶ彼女。

 はたから見れば微笑ましい光景なのかもしれないが、その事実に俺は反吐が出ていた。




 確かに幼稚園の頃の俺達は、実の兄と妹のように仲が良かった。

 中学に入って、互いに異性として意識し始めた結果、付き合うことにもなった。


 




 だが、そんな関係も、あの日すべて打ち砕かれた。

 高一の夏の日、金持ちの先輩にラブホテルで抱かれている彼女の動画を見た、その日に。

 そう、あの日俺は彼女を寝取られ、彼女は俺を裏切ったのだ。








「大体君には、あの金持ちの先輩がいるじゃないか。あの人と一緒になればいい」

「マー君も知ってるでしょ……あの人は最低のほっこだったのよ! だから詐欺に加担してくらっしゃげられたあげく捕まっちゃったのよ!!」

「三年付き合っておいて、彼を庇う気もないのか。俺のこともそんな風に裏切ったわけだな」

「そ、それは……で、でも許して!! あの詐欺師げなほっこに抱かれてさいあがりだった、私もほっこだったの……!!!」





 愛生のその言葉は、すべてが白々しかった。

 なびいた先輩のことを今になってクズ呼ばわりしてはいるが、誠意を一つも感じられない。




「だいたい、キミさ」

 俺は彼女に向き直った。

 彼女の話し言葉こそが、誠意を感じられない何よりの理由だった。




「なんで、なんだ?」

「うっ……こ、これは……その……」



 図星だったらしく、目に見えて動揺し、顔からようけ沢山汗を出す愛生。

 大方、男をとっかえひっかえするなかで隣県出身の男に抱かれて言葉が移った、とかだろう。

 こんな簡単に隣県に染まれる女は、いっちょも全く俺の好みではなかった。



「あ」

 カフェの窓の外で最先端の流行ファッションに身を包み、行き交う人々の視線を受ける女子大生の姿を確認した俺は、席を立った。





「ごめん、俺の今カノが来た。じゃあな、愛生」

「行かないで……良太君……うぅ……」




 自分で裏切っておいて泣き崩れる愛生を無視して、俺は彼女の元へと歩きだした。




「私のこと、今カノって言いませんでしたか……? 付き合ってもないのに」

「あの女を避けたかっただけだ。悪く思わないでくれ」

「フフッ、いいですよ」




 そうやって俺のおげったうそを許してくれたのは、彼女は大学の後輩の兵庫七海だった。



 同じサークルで知り合った仲だが、彼女とはやけに話が合った。

 彼女の笑顔、彼女の話す声、彼女の優しさは、失恋で心がめげ壊れきって、恋愛なんか、女なんか、とどくれてふてくされていた俺の心に、何か暖かいものを感じさせた。

 そして、彼女と話していて、気がついたことがあった。

 彼女は自分では東京出身と言っているが、本当は―――




「でも本当なら、許せないですね、あの人。優しい先輩を裏切るだなんて」

「聞いてたのか……」

「聞いてませんけど、先輩の表情でわかりました」

「お前にはかなわねーな、まったく……」

「フフッ、先輩の人柄がそうさせてるんですよ。放っておけないから」

「……あのさ」

「はい?」

「兵庫ってさ」




 背中を見せたまま振り向く七海に、俺は声をかけた。

 そんなわけないのに、今ここで聞かないと、そのまま永遠に俺の元を去っていきそうな気がした。




「……東京出身って言ってたけど、あれウソだよな」

「え、なんでそう思うんです?」

「訛りの感じがさ、東京どころか関東の人ですらなさそうだったから」




 俺のその言葉に、意味深な笑みを浮かべる七海。




「フフッ、じゃあ先輩は、私はどこの生まれだって思ってるんですか?」

「推測を確信に変えたいから、今から2,3する質問に答えて」

「いいですけど」



 俺の言葉に首だけふり向かせて問いを静かに待つ七海は、年下とは思えない程色っぽかった。

 少なくとも、さっきの裏切り女なんかよりよっぽど。



「一番好きなアーティスト、誰?」

「米津玄師です」

「2番目は」

「アンジェラ・アキです」

「3番目は」

「チャットモンチーです」



「Jリーグで応援してるのは?」

「ヴォルティスです」

「野球で応援してるのは?」

「四国アイランドリーグのインディゴソックスです」

「Bリーグでは?」

「B3のガンバロウズです」


「子供の頃ジャンプ何曜日に買いに行ってた?」

「土曜日です」


「電車のこと、思わず何て言っちゃう?」

「汽車って」


「前面だけ豪華で中はショボい建物見てどう思う?」

「故郷の駅みたいって思います」



この文字を読んでみて(スマホを掲げる)

【四国放送サービス】

「しこくほうそうサァビ↓↓ー♪」




(……なるほどな)




 質問を終えた瞬間、俺の推測は完全に確信に変わっていた。




(恋する阿呆に寝取る阿呆、同じ阿呆なら恋せにゃ損損……か)





 ガバッ




 こちらから目を背けていた彼女の背中を、俺は両手で抱きかかえていた。

 俺の中で突き上げる彼女への何かが、そうさせていた。

 自分でもあまりにも突然の行為にびっくりしていたが、しかし七海は何一つ抵抗しなかった。




「俺の女になってくれ」

「………………………………」

「愛してる」





 告白の言葉に、長い沈黙の後、七海は一言だけ告げた。





「………………………………………………………………………………うちもじょっ」

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【短編】某県民にターゲットをしぼった幼馴染NTRざまぁ恋愛小説 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012

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