第6話 第三天使ベルゼア戦 其のニ

 輪切りにした〈テンペスト〉の活動が完全に停止するのを見届けると、リュカは仲間の方を振り返って叫ぶ。


「ガルド、エリシア、フィオナ! 聞いてくれ! こいつら〈アーク・ノード〉はそれぞれ攻撃の種類が決まってる! 今分かってるのは〈ヴォルト〉が高圧直線雷撃、〈スパーク〉が拡散雷撃、〈テンペスト〉がチャージ有りの広範囲高圧拡散雷撃、〈レゾナンス〉が魔力干渉雷撃って事だ! 〈シンフォニア〉はまだ分かんねぇ!」


「そして〈テンペスト〉と〈フラックス〉が撃破出来てる、って事よね! 私の魔力も安定してきたし、そろそろ全戦に復帰できるわ!」


「では仕掛けるなら今ですね!」


 そう言うとガルドは一斉放射される雷の渦をかき分けて前に出ようとするが、宙に浮いているせいで不安定な足場と次々と飛んでくる雷撃に苦戦し、なかなか前に出れない。

 そんななかで、リュカは《翼剣》を空中に投擲する。


「解け、〈吸魔の羽〉!」

 すると《翼剣》が黒い粒子に変換され雷撃をまるでブラックホールのように飲み込んでいった。

 完全に全てを飲み込むと黒い粒子がリュカの背中に収束し、《黒翼》になる。

 リュカは翼を引きちぎり再度翼剣に変化させ、雷を纏わせて〈レゾナンス〉に向かって投げつける。

 そして黒い雷撃と化した《翼剣》が〈レゾナンス〉の外装を切り裂いた。切り裂かれた場所に現れたのは、脈動する核であった。そこにガルドが長剣を振りかざし、思いっきり地面に叩きつける。


「〈レゾナンス〉、撃破しました!」


 ガルドのその報告に、リュカ達が確実に勝利に近づいている実感を得ると同時に、ベルゼアの機械的な音声が響く。


「貴様らは本当に…神を倒せると思っているのか?」


 かつて、彼自身が神に背き、意志のもとに民を守ろうとしたあの日々が、ベルゼアの脳裏に蘇る。

――空に都市を築き、民の歓喜をその身で受け止めた日々。

――神の理に背き、都市を自らの信じた自治によって運営しようとした勇気。

――そして、それを裏切りと断じられ、空から雷で都市ごと焼き払われた過去。


「……我が民は……神に滅ぼされた。だが、それは私の過ちだ」


 彼は呟いた。


「お前は、あの悲劇を自らの身にも繰り返そうというのか……?」


 その問いに、リュカが一歩、踏み込む。


「違う。俺たちはそんな悲劇を繰り返さないために戦ってるんだ。抗う力があるなら、それで未来を変えてやる」


「そうか。……ならば見せよ。選択の代償を」


 ベルゼアが天に指を伸ばし、彼の翼を大きく広げると、残存する〈アーク・ノード〉が彼のそばに集合し、虚空に巨大な魔法陣が現れる。


「葬れ、〈審雷葬陣〉」


 空間全体が蒼白に染まり、数千本もの雷が一つの束に空中で収束し、その束が量産され神罰の矢となり飛んでくる。地も空も識別できないほどの稲妻の暴雨が、全てを飲み込もうとした。

 神速の雷の前に、魔法障壁の展開など間に合うはずもなかった。

 直撃は免れない——そうエリシアは覚悟した。


 だがリュカが前に飛び出し、雷撃の雨に背を向ける。

 そして自身が避雷針となるために、肥大化した翼を大きく突き出した。


「フィオナ、俺に回復魔法をかけ続けてくれ!解け、〈吸魔の羽〉!」


 彼の翼が肥大化できるのは《黒翼》の使用者の体を使用媒体とする、という性質が関係していた。

 つまり、《黒翼》は今やリュカの体の拡張部分なのである。

 その性質のおかげで、彼が《黒翼》を使用し出した初期の頃は自分の意思と関係なく背中に肉が生成され、その肉がいきなり動いて周りの物を壊したり、醜い翼ができたりもしたのはリュカにとって懐かしい思い出の一つである。


 だが大きくなった《黒翼》は避雷針としての役割を果たすには十分だったが、《黒翼》の性質上、痛みを共有しているのはすぐに想像がつく事だった。


「ぐああぁぁああああぁあああ!」


「か…回復魔法展開! 回復魔法展開! 回復魔法展開! 回復魔法展開!」


 フィオナが回復魔法をかけ続けてくれているおかげでリュカの体は原型を留め、精神が痛みで壊れるのを防いでいた。だが回復魔法をかけているとはいえ、リュカの請け負ったダメージは相当なものだった。

 それもそのはず、人の身ならざる天使という神の兵からの攻撃を人の身で真正面から受け止めたのだ。

 本来は雷でリュカの体は焼き尽くされ灰すら残らず消滅するところを、《黒翼》という先代の叡智の結晶と、回復魔法の重ねがけにより無理矢理リュカの生命活動を引き延ばしている、という状況だった。


 だがリュカは生き残った。


 肥大化していた《黒翼》は小さくなっていた。ヒビが入った部分から《黒翼》が裂けていき、もはや翼であったことすらわからない何かになり、背中の皮膚は焼け爛れて剥がれ落ち、肉は焼けて生臭い異臭を放ち、さらには背骨が露出し、露出した骨は表面がボロボロと燃えカスのように崩れ中の脊髄液が滴り落ちていた。

 だがそんな惨状でも彼は生き残ったのだ。


「ほぅ、驚いた。まさかあれが直撃して死なない人間がいるとは…」


「あぁ、そうだな。俺もなんだか気持ちいいよ」


 そして彼は天を仰ぎそのまま数秒間停止し、その間に《黒翼》だったものが肉塊となりリュカの体に吸収される。

 数瞬の後、リュカの背中から湯気がたちのぼり、背中の肉が一気に膨らんだかと思うと膨らんだ肉が整形され元の綺麗な背中と《黒翼》が戻っていた。


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 最新話まで読んでくださりありがとうございます!


 リュカ、もっと頑張れ!もっとかませ!

 意外と天使も可哀想…

 などなど思った人は★お願いします!

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