第2話 団体/ギルド

 20XX年、政府はより優れた人材育成を行うべく1つの教育改革案を提示した。

それは次世代型MMOゲームを利用した教育で最新鋭の仮想空間装置を用いて

行われるもので勉強やテストという重苦しく感じられるモノを軽減し

今を生きる若者達に意欲を持って勉学に取り組んで欲しいという狙いだった。

そのモデルとして造られたのが学園都市と呼ばれるエリアであり、聖陽学園を主軸として多くの商業施設やビルが建てられていった。

そこに住む大半は学生であり、彼等は皆そこでの生活を行うと共に将来に向けて

努力を重ねている。


全ては約束された将来を自らの手で勝ち取る為に。

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 聖陽学園学生寮。そこは男女それぞれ分かれていて

2階から6階までが男子、7階から12階までが女子のフロアとなっている。

彼等は卒業するまでこの寮で共同生活を営むのだが当然お互いのフロアに

入る事は校則で禁止されていて、此処ではカースト制度というモノは存在しない

唯一の平等性が保たれている。


「えーっと...801、801は...此処だ! 」


 美羽はスーツケースをカラカラと引きながら部屋番号が記されたメモを頼りに

訪れると部屋のドアを開けて中へ入る。そこはホテルの部屋の様な作りで足元は灰色のカーペットが敷かれ、その奥には白いシーツが敷かれたベット2つと奥には大きな机が、入って直ぐ左にはバスとトイレ、右側には荷物や制服を置く場所があった。

先客が居るのか風呂場から水音が聞こえて来るが構わずに彼女は奥へ進んで

ベットへ飛び込む様に横たわった。


「フカフカの白いベットだ!うはぁーッ、まだ柔らかくて気持ち良い...! 」


 顔を埋めていると風呂場のドアが開き、雪の様な白い肌にタオルを身体に巻いた銀髪の少女が歩いて来る。顔を上げると美羽は彼女と自然に目が合い慌てて立ち上がった。


「あの...ど、どちら様ですか? 」



「へッ!?わ、私は...えーっと、その...決して怪しい者じゃなくて...転校して来たばかりで...その、あの、えーーっと...!! 」


 美羽はこう見えて同性相手には人見知りするタイプで戸惑っていると相手の方から近寄って来て話し掛けた。


「私はアナスタシア・ミロスラーヴァ。アーニャと呼んで下さい 」



「ひ、平井美羽です...宜しく 」


 お互いに自己紹介を済ませるとアーニャは風呂場にある脱衣所で部屋着である紺色

の長袖ジャージに着替え、戻って来た。そして机を挟んでお互いに椅子へ腰掛けると

彼女の方から話題を出して来る。


「ミューはどうしてこの学校に? 」



「うーん、話せば長くなるんだけど...面白そうだったからかな。こう見えて私結構ゲームが好きで休みの日は家に籠ってずーっと遊んだりしてた。同世代の友達はみんなお人形とかぬいぐるみとかで遊んでたけど私はそれがゲーム機だった。まぁ偶に外で遊んでたりしてたけどね 」



「私はお父様の仕事を継ぐ為に来ました。私の家はV.R.Dとは違う専門のダイブマシンを造っている会社、だから此処での経験を持ち帰って今後の事業に役立てたいのです 」



「ミロスラーヴァ…?もしかしてあのミロステックの!?うっひゃー…気付かなかったよ。マジか... 」



「普段は隠していますけどね、ふふッ 」


そう言った直後に彼女は軽く微笑む。つまりアーニャの住む母国では彼女は会社のご令嬢という事になるのだが如何せんその状況が美羽には理解するのが難しかった。


「そういえばミューはもう決めました? 」



「決める?決めるって何を? 」



「ギルドです、聖陽学園では授業でギルドを組むと聞きました。私もこの間此処へ来たばかりなのでまだ…その…組めていなくて 」



「成る程ねぇ…私もどうしようかなぁ、多分明日色々言われるんだろうけど 」


ふと脳裏に浮かんだのは先程、助けた勇輝の事

だが彼は既にギルドを組んでいるだろうと思っていた。他愛もない会話をある程度した後、この日は学生寮の2階にある食堂で夕飯を済ませ、自室で入浴を済ませると制服をハンガーに干してから美羽は眠りについた。

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そして迎えた翌朝。

制服姿の美羽が向かったのは昨日と同じ聖陽学園の校舎。担任である杠葉弥子ゆずりは みこという長い茶髪をポニーテールに結んだ教師に連れられて1年生の教室へ訪れた。


「此処が1年D組、貴女のクラスよ。V.R.D.の設定は大丈夫? 」



「はい、昨日やったので大丈夫です!まぁちょーっと色々ありましたけど… 」



「成る程…そういえば昨日ドライバーの反応を感知したとアイリスシステムから報告があったのだけれど…もしかして貴女? 」



「へッ!?あ、いや…えーっと...... 」



「まぁ良いわ、誰だって新しいモノを手に入れたら試したくなりますから...特に


 そう呟いた後、教室へ入るとそこには生徒らが椅子に腰かけて待っていた。そこには勇輝とアーニャの姿もあり、彼等と目が合うと美羽は軽く微笑む。

自己紹介を促されると美羽は黒板へチョークを利用し名前を書き記した。


「転校生の平井美羽です、好きな事はゲームをする事!!よろしくお願いします! 」


 一礼すると一部の生徒がざわつき始める。

やはり知られている人には知られているらしいのは反応を見れば解る。


「それじゃあ平井さんは高岩君の隣に座って、これから詳しい説明をするから。

入学式が有ったのがついこの間で説明する機会にも丁度良いでしょうし 」


 促されると美羽は指示された通りに勇輝の左隣の席へ腰掛ける。

弥子がクラスの生徒達へ説明したのは以下の通り、簡単に言えばルールの説明だった。


・V.R.D.が使用出来るのは校舎及びその周辺のみ、学園都市内では使用不可。


・端末の故障時や不具合が生じた場合は直ぐに担任へ申し出る事。


・第三者へ機器の貸し借り、譲渡は原則禁止。 


 そして説明が終了すると弥子は教卓から一つの箱を取り出すと

美羽の元へ来てそれを差し出した。


「...これは? 」



「ふふふッ、開けてみて? 」



「あ、はい... 」


 言われた通りに開けてみると中に入っていたのは黒色のチョーカーの様な装置。

それを不思議そうに美羽は見ていて、これも初めて触れる機械だった。


「首輪...? 」



「これはD.L.、ダイレクト・リンカーといって首に装着した状態でドライバーを起動させるとARを並行して使えるのは勿論、今居る現実世界での五感を全て遮断しもう一つの世界へ安定し飛べるの。バッテリーは内蔵型で充電に関しては無線で行われるからご心配なく 」



「現実へ戻る場合のコールは?ドライバーから直接ギアを外しても可能でしたよね? 」



「そこはログアウトで大丈夫よ。ギアを外してもログアウト可能だけど我が校は安心安全に装置を使って欲しいからその方法は非推奨で 」


 弥子が再び教壇へ戻ると前以って渡されていたタブレット端末へ連絡が入る。

そこには[ギルド作成及び申請に関して]というタイトルの記載されたモノだった。


「皆さんの端末へ送ったのはギルド作成に関してというある種のお願いに近い物です…が、そもそも組まないとこの学校ではやっていけませんけどね 」


何処か含みのある言い方をした弥子は話を続ける。


「転入生も来た事ですし、組む前にお話しましょうか。我が校ではギルド…つまり2人以上で1チームを組む事を推奨しています。1年D組以外の他クラスの生徒と組む、自身の持つクラスと合わせた場合の比率や男女の比率は各々に任せます…ですががあるという事をお忘れなく 」



「ランク制度…?ゲームとかで見るランキングのアレですか?」


美羽がポツリと呟くと弥子は頷いた。


「このランク制度ですが…これは2の制度となります。成績不振のギルドは即解散、その時点で退学となるので注意して下さいね? 」


すると1人の男子生徒が「退学になるのはギルドを組んだリーダー1人ですか? 」という質問をすると弥子は何故か拍手をし、うんうんと頷いていた。


「退学となった原因をリーダー1人に全て終わせる……ふふふッ、面白い冗談ですね?及川君。我が校、聖陽学園には本来の高校にある様な中間テストや期末テスト、学年末テストといったモノは存在しません。判断するのはギルドの成績は勿論、各メンバーの貢献度や進級前に行われる審査を通過したギルドだけが2学年へ進級できるのです。よって退学の責任は連帯責任...全員が退学になります 」


 クラス内がざわつき始めた。各々から聞こえてくるのは

「ヤバイ」だの「どうしよう」といった不安な声や「退学は嫌だ」、「折角入ったのに」という言葉ばかり。美羽も勇輝を小突いて話し掛けた。


「どうかしたの?何かやけに騒がしいけど 」



「実はギルドの説明自体がまだされてなくて...今回初めて聞いたから余計に動揺してるんだと思う、僕もそうだよ 」



「でも高岩君はギルド入ってたじゃん? 」



「あれは学校側で勝手に選抜されただけだから関係ないよ。それにうちの学校、一年生はAからF組まで有るから1クラス40人として最大で8つのチームが出来る計算になるね 」



「ギルドの推奨人数は5人。つまり48チームでランク争いをして勝ち残らないと進級出来ない...思ってたよりハードじゃん 」



「うん...それもそうだけど備考欄見た? 」



「へ?ビコウラン...ってこのカッコの中? 」


 勇輝が頷くと美羽は言われた通りにその備考欄を確認する。


「えーっと...なになに?ギルドの評価×100ポイントが各個人で使用出来るGPになります。0になった場合は最低限の衣食住となりますのでご注意下さい...?うっそマジ!? 」



「自由に食事や睡眠が出来たのは昨日まで...要するに今日からが本番って事 」



「そ、そんなぁ... 」


 パンパンと手を叩く音が響き、各々が静まり返ると弥子は改めて説明を始めた。


「ギルドの申請は今日の18時までに必ず済ませる事。もし間に合わなければその時点でペナルティが発生しますので注意して下さいね?ふふふッ...ではまた皆さんと2学年でお会い出来るのを楽しみにしています 」


 会釈した彼女は立ち去るとチャイムが鳴って休み時間となる。

そして一斉に各クラスがざわついて誰と組むかを模索し始めたのだった。

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 聖陽学園にある理事長室。そこの一室で1人の白髪の女性が椅子へ腰掛けて

ティーカップに入った紅茶を嗜んでいた。首から下は白い肌をした谷間の見える白いフリルがあしらわれた黒のドレスで手元には書類が幾つも並べられている。彼女こそがこの聖陽学園における理事長の月村真璃亜つきむらまりあ、年齢は20代前半で

ありながらこの聖陽学園の理事長を任されていた。その彼女の傍らには上下黒の燕尾服を着て白いワイシャツに黒のネクタイに金色の髪を黒いリボンで一つに結んだ麗人が佇んでいた。彼女の名は速水麗華はやみれいかといって真璃亜の執事である。


「速水...入学希望者はこの平井美羽という生徒を入れて全員ですか? 」



「はい。これで1学年全員揃いました。今日、各担任から本校の説明とその他事項が説明される手筈となっております 」



「将来のエリートを育てる為とはいえ、内閣府は最新鋭の設備機器を我が校へ導入し校舎の改良も全て予定の期日通りに完了させるとは...流石ですね 」



「元々、此処は普通の高校でしたが蓋を開けてみれば学級崩壊寸前のクラスや問題児ばかりでしたから。その上進学率や就職率は平均値の下の下...アンケートの回答で多かったのは授業中の私語や居眠り等のサボタージュは日常茶飯事、誰も担任の話を聞かないというモノが大半でした 」



「貴女が調査した範囲では採用した担任達も現状に呆れていたのでしょう? 」



「はい、此方が校内会議で提案した案は全て却下されました。無理だ、出来ない、話を聞かない、そもそもやる気がない、時間がない...どれも言い訳ばかり。何をしても変わらないというのが最終判断でした 」



「...本来学校とは教育という名の学びを深める為の施設であり、それにそぐわない者は不要...要するに必要ないのです。どれだけ高額な学費を払おうが結局は通っている本人次第。親という存在がある以上彼等はそれに甘え続ける。何の目的も持たず高校に通い、勉強して卒業して大学に入って就職して...という体たらくな有様だからエリートは生まれないし育たない 」


紅茶を一口飲むと彼女は話を続けた。


「今でも何かと問題になっているでしょう?。そういったモノが妨げになるのであれば適切に対処するのが教師の務め。それが出来ないのであれば教師という存在は無価値になる...彼等の話は全て聞きましたがどれも自分の無力さを棚に上げて私の政策を批判したり、横暴だと嘆いたり。中には事なかれ主義で反論した方も居ましたがそんなのは所詮は綺麗事、それがまかり通るなら教師の大規模なリストラや生徒の強制退学といった措置は取りませんよ 」


 ふふふと小さな笑みを浮かべて真璃亜は笑った。


「それに退学となった生徒は皆、真面目に通っている子に悪影響を及ぼす子ばかり。そんな生徒は我が校に不要...居ない方がマシです 」



「はい。その通りです、お嬢様 」



「社会というのは全員が平等、全員が同じ境遇という中で過ごせる訳がない...だから世の中には差別だ不公平だと嘆く者が居る。特権階級の人間達が楽しく裕福に暮らせるようになっているのは愚か者達が高い税金を納め、安い給料で労働の駒として働いてくれるからこそ。その不公平さに気付かないから永遠に搾取され続ける...これが社会というモノ 」


ティーカップを右手に持った真璃亜はそう呟くと口元へ運び、再び1口飲んだ。


「だからこそ若い内に理不尽差を学ばせるのです…そうでもしなければ将来、この国を支えるであろうエリートは育ちませんからね 」


彼女は小さな笑みを浮かべると並べられた書類に目を通しながら紅茶を再び口にするのだった。

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その頃、美羽は時計を気にしながらギルドの

メンバーをどうするか否か考えていた。

仲の良い友達同士、気の合う子や前から気になってた子といった形で揃えられていく中で集まったのは勇輝とアーニャ、自分の3人で残る2人をどうするかという段階に来ていた。


「うーん…どうしよう。後2人、後2人…… 」


廊下でクルクルと指先でタッチペンを回しつつ名簿を確認していると話声が聞こえ、その出処を探ろうと階段付近へ接近する。聞こえて来たのは男子の話し声で顔を覗かせてみると見覚えのあるシルエットが2人。1人は背丈が高いのともう1人は背丈が小柄で自分とほぼ同じだった。


「あれは確か…小河原君と須田君?何話してるんだろ? 」


こっそり聞き耳を立ててみると聞こえて来たのは相談(?)の様な会話だった。


「いいか?俺達の様なヘボ生徒が勝ち残るにはなあの天才ゲーマー、MIUを仲間にするっきゃねぇんだよ!!てか平井美羽でーす!だなんて隠す気さらさら無ぇじゃねぇか!! 」



「わ、解ってる… 」



「それに勇輝の奴、何かいつの間にか自信取り戻して普段通りになってるし…何が何だか。でもまぁ今頃はプロゲーマー様もあっちこっち引っ張りだこなんだろうな 」


そんな事は無い、美羽の事を知っていても

自分から話し掛けて来る様な生徒はあまり居なかった。誘われこそしたが「考え中」だとか「自分でも探してみる」とかの理由を付けてやんわりと断った。


「どうするんだ?もう16時だぞ。締め切りは残り2時間、受け付けに行かないと混むぞ 」



「だぁあッ、畜生!!俺達はこのまま…ギルドすらマトモに組めぬまま終わっちまうのか!?キャッキャウフフの青春も味わえねぇまま……ならばせめて…せめてMIUのサインだけでも…欲しかった…ずっと…ずっとファン……だから 」


辞世の句の様な事を明が話し倒れ込んだ時、

そこを見計らって美羽はこっそり近寄って話し掛けた。


「サインなら幾らでもあげるよ?別に減るもんじゃないし 」



「誰だか知らんが優しいなって……ええぇえぇぇぇッ!?て、ててて、てッ、天才ゲーマーのMIU…さん!? 」



「うん。何かあったの?しゃがんじゃってさ。先ずは立ったら? 」



「あー…いやー、ええーーっと…… 」


彼の隣に居た岳人が代わりに話を始めた。


「実はギルドのメンバー、残り3人が決まらないんだ。最低数の2人だと困難な課題も有ると噂に聞いている…だからせめて3人か4人欲しくてな 」



「成る程ねー、じゃあうちのギルド入る?丁度2人探してたんだ。後の3人は高岩君とアーニャと私!これで5人でしょ? 」



「すまん…恩に着る!!須田、形はどうあれこれで5人揃ったぞ…須田?どうかしたのか? 」


いつの間にか明は立ち上がっていて、下を向いていた。美羽が不思議そうにしていると彼は漸くその口を開いた。


「…ねぇ 」



「ん?何か言った、須田君? 」



「認めねぇ…!俺はお前が天才ゲーマーMIUだって認めねぇぞ!!よく考えたら本人なら普通そういうの隠すのが常識だろう!?何で大っぴらに出来るんだよ!? 」



「何でって…そりゃあ隠しても仕方ないからだよ。別に疚しい事してる訳じゃないし? 」



「平井美羽!!お前がほ、本物の天才ゲーマーMIUなら…この俺と勝負しろ!! 」



「うぇええッ!?どうしてそうなるの、ギルドの申請受け付け時間知ってるでしょ!? 」



「だからだよ…だからそれ迄にケリを付ける!それともビビってんのか?やっぱり偽者だから自称で名乗ってるのか?! 」


指を差されながらそう言われるとそれは美羽にとって心外な気がした。


「そんな訳ないでしょ!?はぁ...解ったよ、受けるよその勝負!私が勝ったら本物だって認めてくれるよね? 」



「あぁ、勿論だ!ギルドにも入ってやる!! 」


こうなるともう誰にも止められない、岳人は慌てて2人を制止しようとする。


「正気か平井!?おい須田、本当に時間が無いんだぞ! 」



「わぁーってるよ!ついて来い、此処だと邪魔になる 」


 2人が階段を下りて向かったのは[フリーダイブ]と書かれた表札のある部屋で

そこへ入ると真っ白な壁と床が一面に広がっているだけで他には何も存在しない。


「此処なら誰も邪魔は入らねぇ。D.L.のおかげで可能になったんだ、こんなの使うしかないだろ!! 」



「フルダイブ...じゃあD.L.無しで仮想現実へ飛べたのはどういう事? 」



「知らないのか?ドライバーとギアだけでも向こうに飛べるんだよ。けどそれじゃ安定しねぇからこのD.L.が必要なのさ。万が一の事態が有るとやべぇからな。さて、そろそろ始めるか、岳人...邪魔すんなよ 」



「ごめん、小河原君。タブレット持ってて 」


 美羽はタブレットを手渡し、お互いにドライバーを腰へ装着し

彼女だけD.L.を首に装着した。


「首に何か付けるのちょっと抵抗有るけど...。私──いや、あたしに挑んだ事、後悔するぞ? 」


 ギアを持つと目付きが変化し、美羽は白い歯を出して笑った。


「性格が変わった?やっぱり...いいや!俺は信じねぇ!! 」



「どうでもいい、好きにしろ 」


そしてお互いにギアを構えると交互に叫んだ。


「「──変身トランス!! 」」


 明の身体の上に灰色の服が出現、そこへ白いアーマーが腕や胸、腰を守る形で装着されると彼は真っ直ぐ美羽を見つめる。彼女は谷間の見える黒い服に顔半分を覆う黒いマスクを付けたあの姿へ変化した。同時に空間もコロッセオの様な場所へ変化し

周囲は灰色の外壁が、足元は茶色い砂の地面が広がっている。空を見ると青空が広がっていた。


「その格好...もしかしてシャドウか? 」



「あぁ、そうだが? 」



「よりによってそれを選ぶなんて...最初から勝負が決まっている様なもんだぜッ──!! 」


 彼が引き抜いたのは日本刀の様な武器、雷切でそれを構えると先に仕掛けて来る。

体力はお互いに250、要するに五部と五部という事を現していた。

振り下ろされた一閃を美羽は身体を左へ逸らして躱し、続く左から放たれた斬り払いを身体を仰け反らし躱す。距離を取った彼女も腰の後ろにあるホルスターから

双剣を引き抜き、身構えた。


「悪いが...手加減は出来ない 」



「上等だぁああッ!! 」


 同じタイミングで駆け出し、双剣の刃と刀の刃が接触し

鈍い金属音と火花を散らす。美羽が刃を交差させ受け止めると

頭上へ跳ね上げ、その場で身を反転させると右足で正面蹴りを繰り出し

突き放した。そこへ間髪入れずに駆け出し、左足を軸に跳躍すると頭上から

襲い掛かった。


 果たしてギルドの申請締め切り時間にこの勝負は決着するのだろうか?

それは本人達にしか解らない。


(つづく)


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