第4話 俺の知ってるスライムじゃない




 とりあえず、脳内に浮かんだ情報をまとめてみた。


【名前】無し

【種族】可塑成長体

【LV】2

【状態】ぷるぷる


【称号】

・魔剣の契約者

・魔剣を投擲する者


【知能】

・現在、意思疎通は不可能。

・行動原理は生存と戦闘。


【スキル】

《ぷるぷるストライク》NEW!

・柔軟な身体を利用した体当たり攻撃。

・命中率補正:極大。


 ……駄目だ。


 頭の中に流れ込んできた情報を、まったく咀嚼できない。


 まず、名前が無い。


 いや、そこからかよ。

 生まれたてのモンスターか。

 名無しって。


 次に、種族。


【種族】可塑成長体。


 スライムじゃない。

 俺の知っているスライムじゃない。

 というか、スライムという単語がどこにも存在しない。


 可塑って何だ。

 成長体って何だ。

 怖い単語を組み合わせるな。


【状態】ぷるぷる。


 それは見れば分かる。

 今まさに俺を包み込んで、ぷるぷるしている最中だ。

 状態異常でも何でもない。

 通常運転だ。


 そして、問題はここだ。


【称号】魔剣を投擲する者。


 ……。


 ……待て。


 なんか、投げることが功績みたいな扱いになってないか。

 このまま行くと俺、ずっとボール枠じゃないか。


 魔剣だぞ。

 一応、最強の魔剣だぞ。

 それが投擲専用装備扱いは、どう考えてもおかしい。


【知能】。


 これが鑑定で分かるのは、正直ありがたい。

 もしかしたら、いつかは会話が成立するようになるかもしれない。


《ぷるぷるストライク》。


 柔らかいのに、当たると痛い。

 しかも、ほぼ外れない。


 ……そうですか。


 おい、スライム。


 心の中で呼びかけてみる。

 当然、返事はない。


 ぷるん。


 目の前のスライムは、情報の異常性も、俺の危機感も、何ひとつ理解していない様子で揺れていた。


 ……ああ、なるほど。


 名前は無い。

 種族はよく分からない。

 状態はぷるぷる。

 称号は投擲犯。


 俺は、とんでもない存在と契約を結んでしまったらしい。


 そんなことを考えているのは俺だけのようで、スライム――もとい、可塑成長体は、のそのそと歩き始めた。


 まあ、今まで通りスライムでいいだろう。

 正直、可塑成長体なんて呼びにくい。


 というか、名前が無いままだと不便だ。

 そのうち、敵としてスライムが出てくる可能性だってある。

 区別がつかなくなる。


 名前を考えるのは――その時でいいか。


 俺はスライムの腹に揺られながら、今日もダンジョンらしき何かの中を生きていく。


 今までと違うのは、目標ができたことだ。

 レベルアップで成長が目に見えると分かった以上、やる気は十分。


 そうだ。

 せっかく《鑑定》が使えるんだ。


 次は――自分自身を調べてみよう。


 最強の魔剣の全貌を。


 大解明だ。


 再び《鑑定》を発動すると、さっきと同じように膨大な情報が頭の中に流れ込んでくる。


【名前】ズットモブレード

【種族】魔剣

【LV】2

【状態】心労


【称号】

・可塑生命体の契約者

・不憫な魔剣


【知能】

・頭はあんまり良くない。

・常識はある。


【スキル】

《鑑定》NEW!

・対象のステータスを表示する。

・条件:自分よりかなり弱い相手、または接触中。


 ……。


 きっと俺に瞳があったら、今ごろ涙を流していただろう。


 ズットモブレード。


 なんだその名前。

 キラキラネームにも程がある。


 魔剣というなら、もっとこう、あるだろ。

 魔剣グラムとか、魔剣デュランダルとか。

 神話を覗けば、格好いい名前はいくらでも転がっている。


 それなのに、ズットモブレード。


 誰だ。

 誰が付けた。


 これじゃあ【状態】が心労にもなる。

 加えて称号では不憫な魔剣呼ばわり。

 挙げ句の果てに【知能】欄で頭が悪いと断言されてしまった。


 そりゃ心が折れる。

 刀身じゃなくて、刀心が。


 ……はははは。

 笑ったやつは殺す。


 鑑定スキルがなければ、自分がここまで不憫だという事実に気づかなくて済んだのに。

 知らなくていいことを知ってしまった気分だ。


 俺が落ち込んでいると――スライムが動きを止めて、プルっと震えた。

 意思疎通はまだとれないはず。

 だが、なんだか慰めてくれている気がした。


 頼むぞ、スライム。

 お前の成長が、俺たちの人生を左右するんだ。


 いや、この場合、剣生か?

 それともスライム生か?


 スライムはどっちだと思う?


 ――あ、無視ですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る