第31話 ワクとフルとオカ

トツマ市

 広場から伸びる長蛇の列。

先頭では、政府職員らしき者が、紫色と黄緑色が混ざった毒々しい薬液を、小さなカップに注ぎ込み、人々の口へ流し込んでいた。

拒否する暇もなく、次の人、また次の人。

列の最後まで同じ光景が続く。


 ……そして数日後、この列に並んだ人々は、次々と倒れて息を引き取った。




 マチアス市

 人気のない路地裏。

俺とグラシアは、人目を避けながらアイテムボックスを開き、中からゲル閣下を引っ張り出した。


「う、うわー!」

 いきなり甲高い声を上げるゲル閣下。


「体調はどうですか?」と俺が尋ねた瞬間――


「いただきます!」


 背後からガブリ、と生々しい音。

振り返ると、骨と皮ばかりに痩せた人がゲル閣下の腹に齧りついていた。


「う、うわー!」

 ゲル閣下は必死に逃げようとしたが、相手は噛み切る力もないのか、そのまま弱々しく崩れ落ちた。


「……お腹空いた……お肉……」


「私はお肉ではありません。ゲルです」

 真顔で言うゲル閣下に、俺はアイテムボックスから桃を取り出して手渡した。

リバースは対策済みだ。


「ありがとう……ありがとう……う゛ぅぅ……」

 痩せた人は大粒の涙を流しながら、桃に齧りつく。


「美味い! 美味い!」


 気がつくと、奥からも多くの痩せた人々が現れていた。

中には子どもの姿もあり、全員が涎を垂らしながらこちらを見ている。


 結局、俺は持っていた桃をすべて渡すことになった。


「ありがとう! 私は総理官邸に戻ります」

 笑顔で言うゲル閣下に、俺は問いかけた。


「あの……どうしてそこまでするんですか? 死にそうになったのに……」


「私は、この国が大好きだからね。だから、この国を守る義務がある!」


「それだったら、私が護衛します!」

「今はカルト教団も動いていますから、危険ですよ」


 グラシアが忠告する。


「そうだね、ありがとう! お願いするよ」

 ゲル閣下はにこやかに頷いた。




 総理官邸。

 俺たちが中に入ると、すぐに声が飛ぶ。


「どうしてここにいるんですか?」

 現れたのはロベサエス・エアナスだ。


「私が総理大臣だからです」

 堂々と返すゲル閣下。


「今は戦争中ですから、選挙は当分ありませんよ? なので私が代わりに総理大臣を務めています。この席は絶対に返しません! お前ら、やっちまえっ!」


 ヨロヨロと頭を傾けた人間が近づいてくる。

その隣には、虚ろな目の者が立っていた。


「カエセ! カエセ! 返せ返せ返せ!」

「……」


(何? セイカ? 今って三時だっけ?)


「それは製菓! 今は成果!」とグラシア。


「私はチートス! 今はTS!」俺もノルッ!

「私は閣下! 今は客観!」ゲル閣下まで参戦。


「空気読んでください! それは違います!」


(俺たちノリノリ? ノンノン! ゲルミス!)


 その時、ヨロヨロの人物が「返せ!」と叫びながらゲル閣下に抱きついた。

次の瞬間、ゲル閣下はその体に呑み込まれ、相手の頭から触手が伸びる。


(……嫌な予感がする……)


 触手はウネウネと伸び、先端にはゲル閣下の顔が形成された。

目は閉じ、血の涙を流しながら口を開く。


「なぜだ? なぜみんな私の悪口を言うんだ? 私はこんなにも信じているのに……!」


「あれは真実です。返せは感情を! ゲルは魂を! リアルはガチを! すべての境界を破壊します」グラシアの声が響く。


(イメージ! メイジ! チョッコレートは? モリエイ?)


「ファルマです」グラシアは即答。


(それはワクワクチンチン? 私はウインナー! あなたもウインナー?)


「あなたは第一ウインナーです。観測者はウインナー?」


―――――――――――――


あとがき


 メイジセイカXXXX

カワウソ! カワオカ!

アタオカ! トビウオ!


 トウダイ! 鳥インフ〇!

ワクワクチンチン!


 私は、ウインナー! あなたもウインナー?

ミンナキヲツケロ!


 ZAPISTE! ヅァーピシツーテ!

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ZAPISTE Myth ~ザピステ神話~ ハングシテルノ @hiiragi2000

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