第29話 虚構の現実

 床に赤黒い血液を残して、ゲル閣下は動かない。

店内が静まり返る——その時だ。


 戸口の鈴がからんと鳴り、黒いローブの五人組が、音もなく滑り込んできた。


 一人は白目を剥いたまま、こちらを見据える。

他の四人は、喉の奥からそれぞれ異様な音を引きずり出した。


「ウシシシwww」

「ゲッ…ゲッ…ゲッ…」

「ひっく! ひっく!」

「ウワァァアアァァー!! ワアアァァアアーー!!!」


(うるせー! そして、カオスだな!)


 隣のグラシアが静かに告げる。


「気をつけてください! カルト教団かも……知れません」


「各個撃破するよ!」


 掌を切って突き出す。


「【かまいたち】!」


 真空の刃が走り、五人をまとめて裂いた——はずだった。

刃は彼らの身体をすり抜け、背後の壁にキズを刻む。


「何してるんですか! あれは、虚構の現実ですよ!」


 グラシアが教えてくれる。


(……虚構の現実……あっ! そういう事か!)


 【魔力視】世界が反転し、色が裏返る。

本体は——なんと店員だった。


 カウンターの奥、湯呑を拭きながら、無表情のまま黒い靄を口から吸っては吐いている。


(嘘だろ! 俺、おにぎり食ったよ?)


 あっ!

そうか【全状態異常無効】が発動してたのか!


 温泉で発動しなかったから、デスしてるのかと思ったよ。

生きてたんだね!


 店員に向き直り、もう一度手を向ける。


「【かまいたち】!」


 不可視の刃が本体を斜めに断った。

店員は白目を剥き、笑い、ゲップを連発し、しゃっくりに痙攣し、最後に発狂した短い悲鳴を上げて、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。


 黒ローブの五つの影は、煙の帯になって天井へ溶けた。

俺はゲル閣下をそっと抱え直し、アイテムボックスに収める。

エーベの時と同じく暗殺されない為だ。


 グラシアと二人で店を出る。

朝の空気は薄く冷たい。




翌日の中央広場


 ロベサエス・エアナスの就任式。

勝色の短髪が陽光を鈍く返し、茜色の眼が広場の隅々まで掃く。

金と赤を基調とした軍服の肩章が、微かに揺れた。


「国民の皆さん」


 よく通る低音が、人波のざわめきを洗い流す。


「我がアーニ皇国は、試練のまっただ中にあります。

突然の退陣、街に漂う不安、戦争の影。しかし、我々は歩みを止めない。」


 一拍。

右手を胸へ。


「私はロベサエス・エアナス。

臨時政権の総理として、秩序を取り戻し、暮らしを守り抜く責任を負いました。」


「まず、民の命と生活を最優先します。

腐敗は断ち切る。


 不正は許さない。嘘は暴く。

そして——我々の海と大地を、必ず守ります。」


 会場の後方、黒衣の影が一瞬だけ揺れた。

ロベサエスの口角が、誰にも気づかれない角度でわずかに上がる。


「平和を愛するがゆえに、我々は備えます。

争いを望まぬがゆえに、我々は強くなります。

不安に膝をつかぬために、必要な力を持ちます。」


 ——群衆には安心の言葉に聴こえる。

だが、特定の語が、遠くの誰かへの合図のように並んだ。


「この国を蝕む“見えない病”を、私は見逃さない。

浄化の工程を始める。清潔で秩序ある未来のために——」


 (※観測者注:浄化/清潔/秩序——教団側の暗語体系で「掃討/供給線の確保/戒厳」を意味する。)


「立て、アーニ皇国の民よ。

私が盾となる。私が舵を取る。

我々は勝つ。守り抜く……未来を取り戻す。」


 喝采。

旗が打ち振られ、紙吹雪が舞う。


 壇上の青年の茜色の瞳は、歓声の上を静かに滑り、どこか遠い暗がりを一度だけ見た。




同刻・マチアス市 カルト教団アジト


 薄暗い室内。

机の上のイカゲソが、ビヨ〜ンと無意味に伸びては縮む。


 ガラス瓶の中で、ハエがブーンと螺旋を描く。

薬液は濁り、底に沈殿が揺れる。


「イヒヒヒッ!」


 白衣に黒ローブを羽織ったイカれた博士が、手帳をめくりながら舌なめずりした。


「今日は、第五十回目の実験だ!」


 記録石に刻む金属音。


「病原菌とワクチンは、予定通り——出来た!」


 彼は小瓶を持ち上げ、逆光に透かす。


「後は、ハエに病原菌を持たせるだけだ!」


 ハエの影が、壁に巨大な死神の羽ばたきのように映る。


「そう、実験は——最終フェーズに入った! クククッ! もうすぐだ!」


 机の端に、封蝋の押された短い書簡。

封蝋の印章は、茜色に似た深い赤。


 そこには、こう一行だけ記されていた。


——“浄化、開始セヨ”


 博士は恍惚と頷き、瓶の口を開けた。

ブーン。


 ハエの影が博士の顔にかかる。


―――――――――――――


あとがき

 ゲル閣下は、女神を守っていたんですね~


 そして、ゲル閣下は……アイテムだった!

マジ~ン! マシ~ン! ゲル閣下は、ロボット?


 エアナスは『eanas』 これをリバース!

『sanae』です。 気がつきましたか?


観測者「わかるわけねぇーだろ!」

???「公司総理が現実的かも……?」


 関係ないかも知れませんが!

最近のアニメに○○公司多くない?


 あのチャ〇ナが日本アニメを侵食している!

将来の日本アニメは、韓国や中国に、その地位を奪われるのでは?


半導体やゲームやアプリ

(サム〇ン、〇神、LI〇E、ka〇o社『ピッ〇マ』、ゼ〇ゼロ、ブルーアー〇イブ、T〇MCなど)

 ヤバいぞ!


 それを知っていたはずの作者は、ピッ〇マのタテ漫が好きで、約4万7千円ほど貢いでいました(※金額に手の震えが止まらない)。

だって面白いんだもん! カラーで! ガチだよ?

……これは虚構じゃない、辛くて、涙が止まらない悲しい現実なんだ。


 この矛盾もまた、ZAPISTE的境界破壊装置です。


ZAPISTE的解釈

裏切り者と呼ばれることは、観測者の「理想像」に揺さぶりをかけた証拠です。

つまり、その反応自体が境界破壊の成功サイン。

感情が動けば動くほど、観測は進行しています。


想定される反応


笑う層:「いやガチかよwww」


共感する層:「わかる…カラーだと沼る」/「お前もか! 俺も!」


攻撃する層:「結局矛盾してるじゃん!」/「この裏切者が!!」


考え込む層:「…この矛盾をわざと入れてるのか?」


雰囲気層:「いや、温度差すごいな」


 どれも観測進行です。はい、わかっていました。


ZAPISTE的効果

この状態の読者はすでに観測進行中です。

日常生活でふと「あれガチだったんかな…」と頭をよぎる=現実側の時間まで作品が侵食している証拠です。


 ヒャハート!

観測者よ、布教せよ!

ZAPISTE! ヅァーピシツーテ!!


追記


ZAPISTE教 観測者の思考の永久グルグル機関の完成!

……君も、もう観測者じゃなくなってるかもしれない。


 そうだ! 狂っているんだ……

そして……君はもう、この文を読み終えた時点で、物語の中にいる。


 観測者よ、広めろ。止まるな。

あとがき? いや、これも物語の一部だよ?


 あれ……今書いてるのは、俺だっけ?

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