第26話 暗殺と増税と観測

 あれから数日。

俺はまた、エーベ・ハートの演説を聞きに来ていた。


 赤いポニーテールが夏の日差しを反射して、キラキラと煌めく。

広場には老若男女が集まり、彼女の一言一句に耳を傾けている。


「皆さん、アーニ皇国は今、試練の中にあります。

しかし私は、決して悲観などしていません。


 なぜなら、この国には――

あなたたち一人ひとりの力があるからです」


 いつも通りの、穏やかで力強い声。

俺もつい聞き入ってしまう。


「アーニ皇国は、他国を恐れず、しかし侮らず、誇りを持って歩むべきです。

私は、あなたたちと共にあります。


 国のため、民のため、最後の一息まで――」


 ……その瞬間だった。


 エーベ・ハートの足元に突如、紫色の魔法陣が浮かび上がる。

護衛の一人が叫ぶ間もなく、魔法陣が回転し、閃光が走った。


 ズガァァァンッ!! バリーン!! ズガァァァンッ!!


 耳を裂く轟音と共に何かが割れる音がすると、白い煙と砂埃が広場を覆う。

俺は反射的に【魔力視】を発動した。


 ……駄目だ。

心臓が完全に貫通している。


 エーベ・ハートは、もう――この世にいない。


「あ、あそこに、誰かいるぞ!」


 観衆の中から男が叫び、指さす。


 視線の先は、中世ヨーロッパ風の高い建物。

その窓辺に、黒いローブの人物が立っていた。


 口元に笑みを浮かべて、ゆっくりと手を振っている。


 俺は即座に駆け出し、建物に突入。

しかし、部屋には誰もいなかった。


 机の上に残されていたのは――『K』の一文字だけ。


(K……カルト教団の事かな?)


「民主主義なんて存在しない! あるのは専制主義だ! 私はこの目で見た!」


 ビックリした。

突然、背後から声がして振り向くと!


 怪しくメガネを光らせた女が立っていた。


「私は四天王が一人、増税王キャシー・エートマだ!

私は、この国に大増税を課し、大量のお金をタロア公国に献上した!


 そして公王様から勲章をもらった!」


(増税王って、何だよ! 増税の前に減税しろよ…)


「だが国民からは『増税メガネ』だと……酷いだろ!」


(いや、大増税メガネ王の間違いだろ!)


 煙玉が弾け、キャシーが姿を消す間際――


「お前は私から公王様を奪った! 近い将来、この国で戦争が起こるだろう! 原因はお前だ!」


(え? どういうことですか……)


 ぐうぅー!

頭を使ったら……腹が減ったなぁー。

屋台で何か食べるか。




 とある屋台を見てみる。

そこには、抱き合ったまま丸焼きにされたミニマムの牛二頭が――


(え、ナニコレ……グロッ!)


「この牛、いくらですか?」


「330タリカだ! 暗号通貨決済も対応してるぞ! そして、これは牛ではない! フービだ!」


(高いし、意味がわからねぇーよ!)




 ハアー、グロかったし、腹膨れたし、宿に戻るか。


 ガラガラガッシャーン!!


「うわー! なんで道路陥没するの~!」


(もう! これじゃあ転生前の日本じゃん!)


 ドサッ!


「痛ーい!」


(こ、腰がやられた……)


 何だ、ここ……

俺の目に飛び込んできたのは、金属パイプが縦横無尽に張り巡らされた近未来的な空間だった。


 部屋の中央には銀色の棺。

壁には、古代文字で『眠れるモノを覚醒させる呪文【ZAPISTE! ヅァーピシツーテ!】』と刻まれていた。


「ZAPISTE! ヅァーピシツーテ!」


『観測しました……確認します……確認完了! 主神(仮)登録しました』


 無機質な音声が聞こえてきた。


『再起動します……再起動完了!』


 プッシュッー!!


 棺が開き、中から人影がゆっくりと起き上がる。


「……あなたが、私の主神(仮)?」


 その声は、機械の冷たさと、人の温もりを併せ持っていた。

そして、その姿は――


―――――――――――――


あとがき

作者「機械は第一章で出せば良かったです……(後悔)」


戦争について

 戦後最も厳しく、そして複雑な安全保障環境に直面している現在——

隙のない我が国の防衛体制を維持するため、観閲式・観艦式・航空観閲式の実施は極めて困難な状況にあります。


 このため、今後これらは我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化しない限り、実施いたしません。

(防衛省ホームページより引用)


 ちなみに関係ないのですが、現実世界の歴史によれば——

台湾省は中華人民共和国の領土だそうです。

アルバニア決議で、そう決まりました。

国共内戦では、共産党が勝利。


 日本国セイフも台湾を国家承認していません。

信じるか信じないかは——


 あなたの観測次第です。

騙されないでください!


 ……まあ、どうでもいいですね。

観測者ゼロ! ZAPISTE!

 ヅァーピシツーテ!


追記

 テレビは洗脳装置(プロパガンダ)です。

観測者に気づいてほしいと思い、ここに書き残しました。

(多分、誰も観ていない……だから勝ちです!)


 ZAPISTEは真実を語る。

そして、それを聞いた観測者は——


 もう元の世界には戻れない。

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