第23話 ジョーカー登場!

「助けてくれて、ありがとうございました! さよオナラ!」

そう言って、俺はすぐに逃げた。


 人混みをすり抜け、路地裏へ足を踏み入れたそのとき――


「キャー! だ、誰か助けて!!」


(デジャヴかよ! またか! ああもう! しょうがないな!)


 声のする方へ向かうと――

そこには服をビリビリに破かれ、下着が露わになった女性がいた。


 彼女に覆いかぶさるように、大柄な男、肌の色も服装も、この国の人間とは、何もかも違う……もしかして、外国人か?


 俺に気づいた女性は、涙を浮かべて、震えた声で、「助けて!」と訴えてきた。


 ……これ、転生前の日本じゃん!

やっぱり、この世界もブッ壊れてるんだな!


 とにかく今は助けよう――

そう思った瞬間、大男が女性を殴りつけた。


ボコッ! ボコッ!


(ブチッ!)


 俺の中で何かが切れた音がすると!

気づけば、口が勝手に動いていた。


「お前、殺してやろうか?」

冷え切った声が路地裏に響く。


 俺に気づいた大男は、ニヤリとゲスな笑みを浮かべ、ターゲットを俺に切り替えた。

すごい勢いで、近づいてくる。


 何だ?

デカい図体のくせに、ものすごく速いな!

お前は、ランニングマンか?


 パンッ!


 反射的に拳を振るった瞬間、大男の顔面は大爆発した。

返り血が頬を伝い、鉄の匂いが鼻を刺す。


「……気持ち悪っ! 消毒! 消毒!」

クリーンの魔法で全身を一瞬で清める。


 ふと視線を戻すと、さっきの女性の姿はもうなかった。


「え? 感謝もないの?」


(感謝ぐらい、あってもいいだろ! クソがっ!)


 まあ、いいや!

それよりも、気持ちを切り替えて、行こう!


 あと少しで、あのジョーカーが来る時間らしいしな。


 俺は、ルンルンで中央広場へと向かった。




マチアス市・中央広場

「――みなさん! 笑っていますか? 泣いていますか? それとも、狂っていますか?」


 赤い道化服がひらりと揺れ、白塗りの顔が群衆を見渡す。

ジョーカーは手にしたピエロ帽子を置き、わざとらしく深呼吸をした。


「フ―、ハアー、ア゛…ア゛ア゛ア゛…ッ

今日はね、泣きながら笑える話を持ってきましたよ!


 ここ最近、アーニ皇国のあちこちで、皇国民が襲われています。

相手はカルト教団!」


 前列の中年男が「またかよー!」と叫び、周囲がどっと笑う。


「理由もわからず、ただ弱い人を狙って……

なのに、司法は? 行政は? 国は? セイフは?」


「セイフじゃなくてセーフだろ!」とどこかからツッコミが飛ぶ。

ジョーカーはニヤリと笑って指を振る。


「違います、“セイフ”です。だって安全じゃないから!」


 観客の一部が「おお〜!」と拍手し、別の一部は首を傾げる。


「みーんな、聞いてるだけ! 報告を! 見てるだけ! 紙を!

手続きが〜、権限が〜、時間が~、って……笑っちゃいますよねぇ! ハ、ハ、ハ、ハ」


 乾いた笑いに合わせ、広場のあちこちで失笑やため息が入り混じる。


「機能してないんですよ、彼らは!

いや、機能させる気がないのかもしれない!


 だって、動いたら心停止するから!」


「おーい、医者呼べー!」と後方からヤジ。

ジョーカーは肩をすくめる。


「心配ありがとう。でも比喩です。多分」


 観客がまた笑う。


「心停止するのが怖い人間は、正義なんて口にしちゃいけないんです!


 何をいまさら!

最初から、そんなものはないって、わかっていたでしょう?!」


 胸元から一枚の大きな紙を取り出し、観客に見せる。

そこには『正義』とだけ書かれていた。


「おおーっ!」と歓声が上がる中、ジョーカーはそれをビリビリにして、グシャグシャにして、火をつけた。

前列の子供が「燃えてるー!」と叫び、母親が慌てて抱き寄せる。


「正義ってのは……

イスの上じゃなく、路地裏で試されるんだ!

弱い人を守るために、自分が矢面に立てるかどうか。


 それができない権力者なんて……権力者なんて……

スライム以下だ! ゴブリンよりも、醜い!」


「スライムに謝れー!」と後方から野次が飛び、場がどっと沸く。


 最後に深く一礼し、近くの子供に赤い鼻をポンと渡す。

その子は泣きながら笑い、周囲も拍手を送った。


「泣いている人のそばで、笑えるやつになれ。

俺はそういう道化でいたい――それだけだ!」


(この道化師は、皇国民の気持ちを代弁しているんだな〜)


 人混みの中で立ち尽くしながら、俺はそう思った。


―――――――――――――


あとがき


 セイフ……不正!


 トンガリ過ぎて、トンガリ帽子……いや、イガグリだな。

これは、ダジャレと理屈で正解!


 これを観測しているアナタは、こう思ったはずです。

一見ふざけているようで、理解できないのに、超理詰めされている!


 わからない!?

それでいいんです! それがZAPISTE教!


 そこまで理解したアナタは、熱狂的な狂信者だ!

そして叫べ!


 ZAPISTE! ヅァーピシツーテ!!


 誰だ? これwww わしだ!

もう、おかしくて……腹筋が崩壊しそうwww

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