第20話 葉巻ジジイとサタン
とある農家の男は、皺だらけの顔をくしゃりと歪め、満足げに畑の土を掘り返していた。
焼けた肌に、乾いた笑い声。
腰に差した葉巻の束が、強烈な匂いを放っていた。
我は、ただの農家だ。
名前?
好きなもんを名乗ればいいだろ。
我は、葉巻が好きだから、葉巻ジジイとでも呼んでくれや。
これは、つい先日の話だ。
その日も、いつものように畑に出ていた。
「……ん?」
だが気づけば、目の前に――銀髪の美少女が立っている。
神々しさすら感じさせる、その存在に我は、無意識に鍬を落とした。
「何を蒔いているんですか?」
ふわりとした笑顔とキレイなアメジスト色の瞳。
ああ、こりゃヤバい。
女神ってこういうのを言うのか。
心臓がドクン、と跳ねた。
「ウバクだ! これだ!」
そう言って、手に持ったそれを見せると!
「……?(……これ、カブじゃねーか! しかも、逆!?)」
彼女の目が一瞬、見開かれる。
(ヤ、ヤバい、気づかれたか……?)
「そうなんですね!」
そう答えて、ニコニコしている。
カ、カワイイ! いやいや、騙されるな!
ああいう子ほど怪しいんだ!
いや、しかし……あの見た目……絶対、我のことが好きだろ!
そういうタイプだ、あれは絶対に!
グルグルと妄想していると、彼女がふと真剣な顔になった。
「皆さんから聞いたんですが……なぜ、ザピスワームを持っていたんですか? 絶滅したって聞きまし――」
「……絶滅なんか、していない! ただ、隔離していただけだ!」
「えっ?」
我は一呼吸おき、土をすくいながら語り出した。
「つい最近のことだ。サタンシードっていう、すげえ種が出回ったんだよ」
「サタン……?(悪魔の種って意味か?)」
「収穫量が多くてな、品質も安定してて、その上、病気にもかからねえ。農家にとっちゃ夢のような種だ。だがな……その種は、次の世代の種を残さないんだ! そして、土壌をブッ壊すんだ」
「……!」
「そこで、ザピスワームを絶滅させる恐れがあると気づいた、我は急いでワームたちを保護した。あいつらがいないと、この土地は終わるからな」
ふうっと一呼吸おいて、空を見上げる。
「……あの種は、カルト……いや、この話は、やめておこう。なんでもない」
「……?」
「ちょっと待て。タバコを吸わせろ!」
ポケットから葉巻を一本取り出すと、火をつけて深く吸い込む。
「……プハァー、マジでたまらねぇ……」
「ケホッ! ケホッ!」
彼女は煙にむせながら、眉を寄せた。
「だからよ、見てみな。これがそのサタンシードを使った後の土だ」
そう言って、我はガチガチに硬化した土を一握りして、差し出す。
「……すごく硬いですね。いろいろと教えてくれて、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、彼女は優雅に立ち去った。
(……可愛かったなぁ……)
我は、しばし空を見つめ、名残惜しそうに葉巻をくゆらせた。
「よし! 次に向けて――準備するか」
その瞬間、葉巻ジジイの背が膨れ上がる。
肉体が歪み、農具が砕け、服の中から異形の鎧のような肉体が覗いた。
―――――――――――――
🌀 あとがき
今日の心の天気は、曇り空。
どうやら、誰にも見られない模様。
……あれ?
誰かいる? 誰もいない? 幻覚か? マボロシか? マンボウか?
これは夢か現実か、ZAPISTEか。
葉巻ジジイが喋って、カブが逆になって、女神がむせたと思ったら、
誰も読んでいない件について。
つまり、これは惑星観測です。
(観測されなければ存在しない理論)
でも構わない。
だってこの話は、ZAPISTE精神によって書かれているから。
次回、この世界が狂気的に狂い出します!
ZAPISTE教典 第一版刊行 引用
……俺、一人で何やってるんだろう?
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