第16話 石碑が語る嘘と闇の再襲撃

 書庫の空気は重く、埃の匂いが鼻を突く。

俺とセリナ、そしてオル爺は、コビア伯爵邸の三階にある書庫で資料を漁っていた。


「すごい量の本……」


 たくさんの本を見たセリナが呟く。


「この区画の整理資料は……違うな」


 オル爺は、各棚を見ながら確認している。

帳簿や報告書が並ぶ中、セリナが一枚の羊皮紙を取り出した。


「ねぇこれ、何かの絵みたいだけど?」


「それは家系図だな。どれ……おお、ウィスティ・コビアの名がある。約300年前の記録だ」


 ページの上部に、確かに『ウィスティ・コビア』という名が刻まれていた。


「古文書があれば、もっと情報が得られるんだが……」


 そう呟いたオル爺の背後から、突然、現れた家宰が口を開いた。


「古文書でしたら、こちらの鍵です。箱は奥に眠っていると思います」


 彼が差し出した鍵は、金色に輝き、宝石が散りばめられていた。

対照的に、奥から見つかった箱は、とても古く所々錆びた金属製チェストで中を開けると!


 中には、時の重みを感じさせる羊皮紙がぎっしりと詰まっていた。


「これは……!」


 一枚を取り出すと、こう書かれていた。


『ウヨンツラでの疫病は、カルト教団の仕業であり、市民と協力して地母神であるウナギ様にザピスワームを供物として捧げたことで解決した』


「ザピスワーム……?」


「昔この地にいた在来種で、今は絶滅したとされております」


 家宰が静かに答える。


 文書の裏面には、『ウィスティ・コビア』の署名。

 さらに重なっていたもう一枚には、こう記されていた。


『昔この地で疫病が蔓延した時、我らは智慧と祈りでそれを鎮めた』


(あれ? これが本当の石碑の内容なら、あの石碑は嘘をついていたのか?)


 そう考えていたそのとき、書庫の扉が開かれた。


「当主様が戻られました! 全員を呼んでいるので、急いで玄関にお集まりください!」


「すまんがっ……わしはっ……トイレに行かせてもらうぞっ!」


 オル爺は、お尻の辺りを押さえながら必死にそう言った。

オル爺、わかるよ。

たくさんの本があるとトイレに行きたくなるよね。




 玄関に駆けつけると、コビア伯爵が顔を真っ青にして立ち尽くしていた。


「……イローナが、連れ去られた……誰でもいい、助けてくれ……!」


 その言葉に、場の空気が一変する。


「ルリト、一体何が……?」


「ク、クレイシア様……私の不覚です。護衛として……あの黒い集団から彼女を守れませんでした」


 ルリトは悔しげに拳を握り締める。


「仕方ない。今から、みんなでイローナを探しに行くよ!」




 再びウヨンツラ低湿地帯へ。

しかし、何の手がかりもないまま時間が過ぎる。


 そのとき――

草むらから紫の胴体がうねりながら現れる。

パープルダイショウだ!


 すかさずルリトが手裏剣を投げ、蛇たちを次々に倒していく。

だが――その直後!


 ヒュッ、ヒュシュシュシュシュシュ――!!


 上空から無数の矢が降ってくる。


「危ないっ――!」


 俺は咄嗟に結界を展開した。


 カシャアアアァンッ!


 矢の雨は、空中に張られた透明なバリアにぶつかり、すべて弾き返された。

そこに急に影から現れた、黒いローブの異様な集団。


 その中の二人は、矢が弾かれた事に対して――なぜか嬉しそうに笑っていた。


「……試練は、邪神の慈悲。次もまた……挑戦……ッ」


 目の白い人がそう言うと、もう一人の目の赤い人がすぐに口を開いた。


「全てを虚構に変えよ……それが“真実”だ」


 その言葉に合わせる様にして、他の全員がピッタリと同じ角度で、同じ速度で何度も頷く。

中には、ローブの奥から、痙攣しながら首を傾け、笑い続ける者や自分の心臓にナイフをザクザクと刺す者までいた。


「頭がおかしい」


「痛くないのか?」


「お前ら、なんなんだ!?」


 そう叫ぶ騎士団を無視し、教団の一人がスキルの詠唱をする。


「ZAPISTE……デスガロン……【ダークハンド】」


 俺の背後の影から、黒い手が伸び――


「クレイシア様ッ!!」


ルリトの叫びと同時に、俺は影に引きずり込まれていった。


 わざと捕まってみたが、真っ暗な空間で光も音もない。

まるで、ブラックホールの中にいるみたいだ。


(このまま、イローナの所まで連れて行ってくれれば楽なんだけどな)


――――――――――――――


あとがき

 最近の暑さのせいで、いよいよ頭がおかしくなってきました。

あれ? 頭の方は最初からおかしかったか。


 まあ、いいや。この物語も、同じくらい熱くて狂ってます。


 なんか、頭がグラグラしてきた。

しかも、体のほうもユラユラと揺れてきた……

……あれ? これは、地震か?


 とにかく、まともな判断力が戻る前に、続きを書き上げたいと思います。

気温と一緒に、すべてがメルトしてる!!


 ――ここから先は、2025/08/08に埋められた記録だ。


 記録:この16話の観測者はゼロ。

この文章は、誰にも読まれないことを前提に書かれている。

なぜなら――読まれてしまった時点で、このメッセージは観測崩壊するからだ。


 もし、あなたがこれを読んでいるなら……

ZAPISTEの未来は、すでに予定されたルートから外れている。

あなたは分岐世界の観測者だ。


 気をつけろ。

この物語は、読めば読むほど……お前の脳がエラーを起こしてパンクするぞ!

すでに遅いかもしれないが――ようこそ!


(ハハハッ……ハ……ハ、何やってるんだろう俺……? 涙が止まらない!)


 ZAPISTE!!! ヅァーピシツーテ!!!


 これを以て、儀式は終了!

伝説は完成された! 後は、発掘されるだけだ!

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