第15話 真実を喰らう石碑と闇の手
伯爵邸に戻ると、屋敷の空気はどこか慌ただしく、使用人たちが慌てた様子で廊下を行き来していた。
「どうしたんだろう……?」
俺が小さくつぶやいたそのとき、大広間の扉が勢いよく開き、コビア伯爵が飛び出してきた。
「おお、無事だったか! すまんが、今からウヨンツラへ行かねばならん!」
ただならぬ様子に、イローナが駆け寄る。
「お父様、何かあったのですか?」
「……ウヨンツラ低湿地帯で、変死体が発見された。詳細はまだ不明だが、現場を確認する!」
「……それなら私も同行します!」
「ダメだ、危険すぎる!」
「ですが、おかしいんです! ウヨンツラのあの石碑、内容に何か……違和感があるんです!」
伯爵は娘の強い意志に言葉を詰まらせた。
「それなら、ルリトを連れていってください。護衛としては、信頼できますから」
「ク、クレイシア様……」
名前を呼ばれ、ルリトは驚いた顔をする。
「……ふむ。騎士団も動員し、ルリト殿にも随行をお願いしよう」
こうして、伯爵とイローナ、ルリト、そして騎士団の一部はウヨンツラ低湿地帯へと急行することになった。
ウヨンツラ低湿地帯に着くと、重く湿った空気が辺りを包んでいた。
「この石碑が、おかしいのです!」
イローナが苔むした石碑を指差すと、伯爵は眉をひそめながら文字をなぞる。
「どこもおかしくない、んっ? ……ウィステリア姫……? 誰だ? そんな名前、聞いたこともない?! なぜだ? なぜ私はおかしくないと思ってしまったんだ?!」
そのとき、ルリトが石碑に近づき、目を細める。
「……これは、ただの石碑じゃありません。魔法陣が仕込まれています。見る者に“真実だと思い込ませる”効果があります!」
「な、なんだと……!?」
伯爵が目を見開く。
その直後――
不気味な鳴き声とともに、少し先の遊歩道から黒い影が見えた。
「ガーガーガーッ!」
「何だ、あれは……!」
駆け寄ると、そこには黒紫色に腫れ上がった変死体がいくつも転がっていた。
「ひっ、人が……!? どうして……」
イローナが顔を覆い、騎士たちも動揺を隠せない。
変死体の脚には、無数の牙跡。そして――
「下がれ!」
ルリトが叫ぶと同時に、草むらから紫色の胴体がぞろぞろと姿を現した。
紫色のヘビは、いろんな所からウネウネと近づいてくる。
すかさずルリトは手裏剣を放ち、それらは魔力に導かれながら軌道を変え、蛇たちを正確に仕留めていった。
ザシュッ、ズバン、ガシュン!
「す、すごい……」
「ルリト殿、助かった……!」
ガッシャガッシャ!
と鎧の音を立てて、騎士団長の金髪碧眼の壮年のブルジさんがそう言った。
そのとき――
「団長! 空から矢が――!」
ドスッ、ドスッ!
鋭い矢が空から放たれ、数名の騎士に突き刺さる。
傷口から黒い煙が立ちのぼり、彼らは苦悶の表情を浮かべながら倒れた。
「くっ、毒だ!」
「な、なんだあいつらは……!」
視線の先には、黒いローブをまとった集団。顔も見えないほどフードをかぶっている。
「怪しいな! 全員、抜刀しろ! いけ!」
騎士団が剣を抜き、戦闘が始まった。
ガキンガキンガキン!
剣がぶつかり合うが騎士団たちは、押されていた。
「ザピステ……コビア……ウインド! 【ガスト】!」
「ザピステ……コビア……ウォーター! 【アクアボール】!」
魔法部隊が援護するが、敵は機敏に動き、かわし続ける。
「ならば……」
ルリトの目が銀色に変わる。
「ザピステ……ウインド……アイシーー【雹×100】!」
両手を広げ、大量の雹が一斉に空を駆ける。しかし――
「効いていない……?」
ボトボトボトと乾いた音がなる。
怪しい集団はまるで影のように揺らぎながら、攻撃を無効化していた。
次の瞬間――
「ZAPISTE……デスガロン……【ダークハンド】!」
イローナの影が伸び、そこから黒い手が伸びて彼女の足を掴んだ。
「キャッ……!?」
伯爵が叫ぶ間もなく、イローナの身体は影の中に吸い込まれ――姿を消した。
「イローナアアアアアッ!!」
その直後、怪しい集団の姿も霞のようにすうっと消えていく。
残った全員がその場に立ち尽くしたまま、伯爵の叫びだけが、沼地に虚しく響いていた――。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
読んでくださってありがとうございます!
正直、この作品は、書きたいことがありすぎて、終わる気配がしません。
この後も、頭おかしく(いい意味で)作っていく予定です!
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