第12話 遊星ノ二ノ舞

 俺たちは、コビア市へ到着した。

しかし、街はどこか異様な空気に包まれている。


 人々の顔は暗く、活気がない。

街の外れにあった荒れた畑には踏み荒らされた跡が残り、作物は全滅していた。


(……この街で、一体何があったんだ?――)


 少し歩くと、大通りにできた長蛇の列が目に入った。

近づくにつれて、市民たちの怒号と悲痛な声が聞こえてくる。


「税金が高くて、もう、お金がないんです!」


「せめて子供の分だけでも、お願いします!」


「お腹空いたよぉ……」


 その声に対して、役人たちは無表情に告げる。


「お金を持ってない奴隷……いや、市民はただのゴミだ!」


「それは誤解を生むから、お前は黙ってろ! オレたちだって、こんなことしたくねぇんだよ!」


「でも、国の大臣の命令なんだ……」


 その時、大きな袋を担いだ男が列を割って現れた。

袋の中身は、たくさんのタリカだ。


「食糧をくれ! 11000タリカだ!」


「どうぞ、100kgです」


 役人が引き渡した、たくさんの麻袋。

その中身を確認した男は目を見開いて怒鳴った。


「なんだこれ!? 家畜の餌じゃねえか! 金返せ!」


「それしかありません。不要なら他の方に譲ってください。返品は不可です」


 男が怒りに任せて役人に掴みかかると、すぐに警備兵に取り押さえられ、連行された。


「痛い! やめろ! 離せぇ!」


 その一部始終を見ていた俺たちは、近くにいた市民に声をかけた。


「一体何があったんですか?」


「あんた、旅人か? 実はな、数日前にスタンピード(魔物大量発生)が起きて、農作物が全滅して、逃げ遅れた農民も何人か死んだんだ。今は、国から役人が来てるけど……食糧は、ほとんどないらしい」


「スタンピードって、そんなに頻繁に起こるの?」


 セリナが疑問に思って聞くと!


「小規模なものを含めれば、もう1000回以上は起きてるらしい。まったく、この国は災害が多すぎる」


 オル爺が腕を組んで答えた。


「今もどこかで起きてる……」


 と、ルリトがポツリとつぶやいた。


「もう少し詳しく聞かせてください! 食糧なら、私が持ってます。もし必要なら――」


 俺の言葉に、男の表情が一瞬で変わった。


「……分けてくれるのか!? 本当に……!? ありがとう!」


 男は少し考え込んだあと、そっと言った。


「……ミズイコ・シジロっていう、この国の食糧大臣が何か対策を練ってるらしい。それと……スタンピードは、人為的らしいんだ。ある農民の話だと、数日前に黒いローブを着た連中が、夜中に畑の周りで何かの儀式をやっていたとか、すまんがオレが知ってるのは、ここまでだ」


「……なるほど。ありがとうございます」


「市長を呼んでくる! 少し待っていてくれ!」


 数分後、高貴な装いの人物が駆けつけてきた。


「あの人、貴族じゃない?」


 セリナがそう聞くと!


「そうかもな」


 オル爺がすぐに答えた。


「私が、このコビア市の市長のジョルノン・コビアだ!」


(この人は、コビア氏と呼ぶことにしよう!)


「コビア氏、たくさん食糧をもっているので、寄付したいのですがどこに置けばいいですか?」


 俺がそう聞くとすぐにルリトが――


「ク、クレイシア様! そ、それは、流石にマズいです」


 青白い顔をしていた。


(俺、もう言っちゃったよ?)


「私は一応、この国の伯爵何だが……まあ、いいか」


(セリナたちが言ってた通り、貴族制だったのか!)


「おーい! ここに布を敷いてくれ! ……良し! それじゃあ、ここに置いてくれ!」


 俺がアイテムボックスからたくさんの食糧を出すと、そこに居た全員が驚いた。


「す、すごい量だな!? ありがとう! ちなみに、これはどこ産の何というブランドかね?」


「全部、エアオア産です。コメのブランド名は『遊星ノニノ舞』です」


「……聞いたことない産地だな……だが、ブランド名は、いい名前だ!」


(やばい、ゲーム時代の産地のまま、言っちゃった……まあいいか!)




 コビア市のウヨンツラ低湿地帯で――

怪しい集団が石碑をいじっている。


「クククッ! よし! 今から、ここの市民に罪悪感を植え付けるぞ!」


「ハハハッ! 石碑の数をたくさん増やしてやる!」

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