第10話 バイバイとリバース

 生きている青年の横を通り過ぎたので俺は、とっさに御者に声をかけた。


「すみません! 止まってください!」


「無理だ! 諦めろ!」


 前方にいる御者が振り返り、ニヤリと笑う。


「ただし、倍の料金を払ってくれるなら止まってやる!」


「いくらですか?」


「そうだなぁ……四百四十タリカだ! もちろん、消費税額も倍だ!」


(……こいつ、強欲すぎるだろ! よし、これからこの人のことは、バイバイさんと呼ぶことにしよう!)


「わかりました! バイバイさん!」


「違う! オイラはエイベイブだ!」


 バイバイさんの文句を無視して、俺は止まった馬車から降りた。

倒れている青年に駆け寄り、そっと抱き起こす。

ゆっくりとその目が開いた――


 キレイな虹色に輝く瞳。

目が合うと、嬉しそうに口元を緩め、すぐに力が抜けて目を閉じた。


(えっ……死んだ!?)


 俺は、暗い顔のまま青年を背負って馬車へ戻る。


「死んじゃったの?」


 セリナが不安げに覗き込む。


「みせてみろ」


 オル爺が無造作に脈を取ると――


「気を失ってるだけだ」


(よかった……ちゃんと生きてたんだな)


 俺は、さっきまでの暗い顔が嘘の様に自然と笑顔に変わっていた。




 夕暮れ、辺りが暗くなり始めたので野営をすることに。

アイテムボックスから食材を取り出すと、セリナが興味津々に覗き込む。


「ねえ、何作るの?」


「ハンバーグだよ」


 玉ねぎを切って炒め、具材すべてこね、成形してフライパンで焼く。

両面に焦げ目がつき、水を入れて蓋をすると――


 肉の焼けた香ばしい匂いが漂って、オル爺が鼻をひくつかせた。


「いい匂いだな」


 オル爺がそう反応する。

完成すると、全員の視線が俺の手元に集中する。


(視線が痛い……仕方ない、作るか)


 結局全員分作る羽目に――

ただし、バイバイさんの分を作るのに関しては、交渉した。

交渉の末、乗合馬車の料金を半額にすることに成功!


(じゃあ今から、オルハフさんに改名だな)


 全員が目を輝かせ、ヨダレを垂らして頬張る。


「「うめぇぇぇ!!」」


(メェーメェーメェー、羊かよ……)




 俺がようやく自分の分を食べようとした時――

青年が起きてきたのか、俺の皿の上を見ていた。


 そして、ぐぅぅぅーーーとお腹の鳴る音が聞こえる。


「今はあんまり脂っこいものは、食べないほうがいいよ」


 俺の忠告も虚しく、我慢できなかった青年は皿を掴むと勢いよく平らげてしまった。


 それから、自己紹介をする流れになり、青年はルリトという名前で忍者の会社をクビになって3カ月が経ってお金が底をついて今に至るらしい。


(異世界の忍者って、会社員なのか)


 そう思った瞬間、ルリトがいきなり顔を青白くさせて、後ろを向いた。


「うっ……オエエエエエ!!」

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