第二章 旅路とコビア市の伝説
第9話 Heeeeyオル爺!
ガタゴトと、乗合馬車が揺れる。
木製の座席に座っている俺は、外の景色をぼんやりと眺めていた。
窓の外では、青々とした木々、そして奥には山脈が見える。
俺は、この世界の事が気になったので戦争についてオル爺に聞いてみることにした。
「オル爺、この世界の戦争について教えて」
「戦争か……代表的なのは、北方国家群とセントラルイストだな」
オル爺は腕を組み、深く息を吐いた。その瞳はわずかに震えている。
「北方国家群の戦争(通称:ツユイエ戦争)…あれは、地獄そのものだったらしいぞ」
馬車の中に、重い空気が落ちた。
ツユイエ戦争
「今から約百年前、タリカ帝国が北方国家群の国――ユケライネ共和国、イストリア法国、アラビトア連邦を軍事同盟(ナットウ)に入れようとした。だがレサン帝国が黙っていなかった」
「レサン帝国?」
「北方国家群の中で一番強かった国だ」
オル爺は、そのまま続ける。
「そのナットウは、レサン帝国を封じ込める為の同盟で、更にユケライネ共和国では、レサン系住民が虐殺されていたんだ。これに怒ったレサン帝国はそれを止める為に特殊軍事作戦と称して、戦争に踏み切った。だが…その裏で全てを仕組んだのは、タロア・チャイルドロックとカルト教団だ」
オル爺の声が低くなる。
「北方国家群は、寒い地域でとても貧しかった。そのため彼らは、タロアに戦費を借りた…悪魔のような金貸しだ。そして――」
「そして?」
「長い戦争が終わり、北方国家群は壊滅し、レサン帝国も勝ったはずなのに国中が焼け野原。しかも、借金が返せずに債務不履行に陥り、タロア・チャイルドロックやカルト教団が起こした革命運動によって滅亡。そして、元北方国家群の国は、すべてタロア・チャイルドロックが建国したタロア公国に変更(キネルロス大陸最大の領土を持つ貧困国が誕生) チャイルドロック公爵家は、建国と同時に公王家となった。後の学者たちはこう言った――『戦争に勝者なし』とな」
オル爺の拳が、震えていた。
「チャイルドロック家って何?」
「商いで財を成し、金貸しで国を支配した一族だ。タロア・チャイルドロックはその当主であり――四天王の一人だ」
「四天王…あ、少し前に何とかフライキングって奴を倒しちゃっ――」
「なにっ?!」
オル爺が目を見開き、体を震わせた。
「バルハスカイ・フライキング…奴は天空王と呼ばれていたはず…」
「そもそも四天王とかカルト教団って何?」
「四天王がイカれた人間に洗脳の力を与え、作らせたのがカルト教団だ。だがな…」
オル爺の瞳孔が開き、赤い目が異様に光る。
「わしは、四天王の更に上もいると考えておる……!」
(それって、もしかしてオル爺と魔王のこと?)
「わしはオル爺だ!」
真剣な目で見つめられ、思わず背筋が伸びた。
(バッ、バレた?! …食らえ! 必殺女神スマイル! 【魅了!】)
ニコッと笑うと、馬車内の乗客全員の顔が赤く染まった。
(うわっ…恥ずかしい! でも笑え、笑うんだ俺! 女神として乗り切るしかない!)
それから、しばらくしてオル爺は、また話を続けた。
セントラルイスト戦争
「セントラルイスト戦争(タリカ帝国とアーニ皇国の戦争)は約五十年前の戦争で、当時、経済不況に陥っていたタリカ帝国が戦争したくてたまらないといった感じで起こす戦いだな」
(今いる、この国の話だな)
「だが、タリカ帝国には大義名分が無かったんだ、そこでアーニ皇国に対してブロック経済を発動したんだ。
それに怒ったアーニ皇国がタリカ帝国に侵攻してキネルロス大陸の中央と東で戦争が勃発した」
「それで、どうなったの?」
「最初は、アーニ皇国が勝利を重ねていたんだがタリカ帝国が大量の騎乗用ドラゴン部隊を配備したことで戦況が逆転したんだ。そうして戦争終盤には、タリカ帝国の最終兵器二発がアーニ皇国の都市二つを消滅させて戦争が終結した。その後の戦後処理で、アーニ皇国は、大陸の東側の領土を割譲されて完全に島国化して通貨も廃止させられてタリカに統一されることに、この戦争の裏にもカルト教団がいたんだ」
「それは何で?」
「それは、大陸統一通貨タリカを完成させる為だ」
「そうなんだ」
「大陸すべての国の通貨発行権を握ったカルト教団は、神になったんだ!」
オル爺の赤い瞳の瞳孔が開き、体がブルブルと震えていた。
「ん…?」
寝ていたセリナが目をこすり、ふいに外を見た。
「あれ? あそこに人が倒れてるよ!」
乗客たちが前方を見る。
そこには、ボロボロの服を着た瑠璃色の髪の青年がうつ伏せで倒れていた。
「またか…こんな所にも餓死する奴が現れるなんて」
「この国は、一体どうなっちまうんだ…」
馬車はそのまま通り過ぎようとした。だが――
その青年は、こちらに気がついたのか、弱々しく手を前に伸ばしていた。
驚くべきことに、まだ、生きていたのだ!
「すみません! 止まってください!」
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