第8話 市場と噂話
翌日、俺たちは市場に来ていた。
通りには人があふれ、香辛料と果物の匂いが混ざり合っている。
だが、すぐに周囲の視線が集まってきた。
「すごい美人だ……」
「あんな子、見たことないぞ」
――そう、もちろん俺を見てだ。
(……ちょっと、この視線にも慣れてきたかも)
屋台を一つひとつ見て回っていると、赤い皮をしたリンゴに似た果物が目に入った。
「それはアポーの実だよ、別嬪さん」
店主がにやりと笑う。
「どんな味ですか?」
「酸味があって酸っぱいぜ」
一口かじると――イチゴのような甘い酸味が口いっぱいに広がる。
しかし、切り口から見える果肉は、まさかの青色。
「……中の色、すごいですね」
「そうか? 普通だろ」
(絶対、普通じゃないだろ! 青い食べ物って……この世界では、普通のことなのか? どう見ても見た目からして、食欲が失せるようにしか思えない)
今度は隣に並ぶ知っている物に似た果物を指差す。
「これは?」
「これは桃だな」
桃――あったんだ、この世界にも!
「これ、買います! 十個……いや百個ください!」
「ひゃ、百個!?」
「アイテムボックス持ちなので」
「ああ、そういうことか」
「ちょっと、聞いて良いですか?」
「おう、何でも聞いて良いぞ! ちなみに俺に彼女はいない!」
(それは、聞いてない!)
あっぶねえ、口に出す所だった。
「……ここの国の名前って何ですか?」
「ここはアーニ皇国だ」
店主は少し残念そうに肩をすくめた。
「合計二百二十タリカだ! 消費税十%込みだぞ。それに俺の給料の五十%も税金だ!」
(税金高っ!? まるで日本じゃん! いや、日本じゃないか)
すると店主がまた、口を開いて――
「なんでかっていうと、それはな……この大陸統一通貨タリカのせいなんだ! 元々、この国には独自通貨があったんだが、今から約五十年前の戦争で統一されたんだ! そこから色々おかしくなってるんだよ!」
そう、厚く語ってくれた。
何か怒ってる?
会計を済ませた俺は、一人ベンチに座って桃をかじる。
甘い果汁が口に広がり、思わず笑みがこぼれる。
「もう、どこ行ってたの? 探したんだよ!」
セリナが駆け寄ってきた。
「心配したぞ!」
オル爺も続く。
二人は、俺の手にある物を見ていた。
「桃、食べる?」
「「食べる!」」
二人は、ハモっていた。
三人で仲良く桃を食べていると、すぐ近くを通る通行人の話が聞こえてくる。
「なあ、聞いたか? マチアス市にいるジョーカー!」
「あれだろ、毎日同じ場所、同じ時間に演説してるんだったか、すごい人だかりらしいな。」
「ジョーカーは面白いし、何より言ってることがまともなんだ」
「へえー、そんな奴がいるのか」
「お前、興味ないだろ」
いろいろ買い物をしながら情報を集めてみると!
マチアス市は星型要塞で、この国の首都・政治の中心であることがわかった。
(ジョーカー議員みたいな人がいるのかな?)
「よし! 次はマチアス市に行こう!」
「えっ!? 本気なの? ここからだとすっごく遠いんだよ!? 大丈夫かなぁ~?」
セリナが思わず驚きの声を上げ、心配そうに眉をひそめた。
「今からなら、十五分後に乗合馬車が来るらしいぞ!」
オル爺がすぐに答える。
「よし、決まり! 今から行こう!」
こうして次の目的地に向かって進むことに――
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