第7話 惑星平面説の証明

 重力操作で、空をグングンと上がっていく。


「よし……もっと!」


 雲を突き抜け、さらに高度を上げると――突然!


 ドオオーーンッ!


「イテテテッ」


 顔をなでながら目を開くと!


 そこには、いわゆる天蓋といわれていたドーム状の壁があった。

手を伸ばして確認してみると、そこには確かに硬い壁がある。


 そして、ゆっくりと後ろを振り返った。

――その瞬間、息を呑んだ。


 眼下に広がる大陸と海。

まるでオープンワールドの箱庭のように、四角く切り取られた海が大陸を囲っていた。


「……ガガーリンは言ったよな。『地球は青かった!』って」


 苦笑いしながら、思わず声を上げる。


「――でも、俺は違う! 惑星は、平面だった!!」


 こうして俺は、この惑星の真実を知った。

惑星平面説は、オル爺は、正しかったんだ。


 平面の惑星を見ていると海の端ギリギリの所に洞窟のような人工島がひっそりと存在しているのが見えた。


(……気になるな。でも、今はオル爺に話を聞きに戻るか)




 宿に戻った俺は、迷わずオル爺の部屋をノックした。


「オル爺、今話がしたいんだけど、入っていい?」


「ああ、良いぞ!」


 部屋に入ると、オル爺が椅子に腰かけ、こちらを見上げた。


「ねえ、オル爺って何者?」


「賢者だ!」


「そうじゃなくて……オル爺について、もっと詳しく教えてよ」


「いいぞ!」


 オル爺は少し目を伏せ、語り始めた。


「わしが生まれたのは、約50年前のタリカ帝国の研究都市、セレッタリア市だ。

古代文明研究者の母と、邪神崇拝研究者の父との間に生まれたわしは、その二人に育てられ、自然と研究者の道を歩んでいた」


 そしてある時!




「父さん、母さん! この惑星は実は平面なんだ!」


 興奮するオルトに、母が頭を抱える。


「ねえ、あんた……オルちゃんの頭がおかしくなっちまったよ!」


 そういう母に対して、父は嬉しそうに笑った。


「おっ、遂にイカれちまったか!」


「一人息子がイカれるなんて泣きたくなるよ!」


 二人は、自分の子どもの成長を喜んでいた。




 今日は、学会での発表日。

巨大な円形ホールの中で、ざわめく研究者たち。

オルトは緊張でお腹が痛くなっていた。


(落ち着け……ここで認められれば真実が――)


「あっ……」


 ギュルルルッ!




「これから私の研究を発表します」


 会場が一瞬で静まり返る。


「まず、皆さんはカルト教団をご存知でしょうか? 彼らは古代文明の研究者が多く、出版物のほとんどはカルト教団側の発行です。そこに疑問を持った私は、自分で調べることにしました」


 会場の一部がざわつき、一部の研究者は、前のめりになる。


「私の近所にある立入禁止区域の遺跡のすぐそばで『tartaria』と彫られた粘土板を発見しました!」


「そんな粘土板は、お前の捏造だろ!」


「「そうだ! そうだ!」」


「カルト教団の本には、この文字は書かれていません! おかしくないですか?」


「おかしいのは、お前だ!」




 オルトは話を続ける。


「話は、変わりますがこの大陸の常識である、惑星が球体である……というのは嘘です!」


「あなたの方が嘘です」


「おい! 嘘じゃないから話を聞いてくれ!」


 オルトは、そう返すとすぐに証明を始める。


「それを今から証明します! 皆さん私は、古代の偉人である、イオウ・ウォーク・イケウユチが測量の基準点にした、イモータルマウンテンを200キロ以上離れた地点から観測をしてみました。 すると! その結果は何と! 裾野までハッキリ見えたのです! これは、おかしなことです」


 赤い瞳の瞳孔が開いて、体がブルブルと震えだす。


「オルトがイカれた」


「コイツ、クスリやってね?」


 会場がザワザワとうるさくなる。


「もし、惑星が球体であるならば隠れるはずだからです。 これは、計算で導き出せます。 このことから惑星は、平面であるということが証明できます!」


 その瞬間、会場にいた一部の人が一斉に声を上げた。


「そんな馬鹿な!」


「理解できん!」


「蜃気楼だろ、それ!」


「この数字を見てください!」


 オルトは観測データの紙を掲げた。


「蜃気楼なんか起きるはずがない! 観測時の気温、湿度、風速、すべて記録済みだ!」


「「……?」」


 理解できないという表情をした人が少数。

しかし大半は――


「うるさい! 黙れ!」


「捏造された証拠なんて意味がない!」


「異端だ! コイツ頭おかしいぞ!」


 その時、警備兵が前に出てきて!


「持ち物検査します!」


 オルトを掴んで、皆に見えないように白い粉の入った小袋をポケットに入れた。


「おい! 何をする?!」


 そして、皆に見えるようにポケットから小袋を取り出して見せる。


「お前! これは、違法薬物ではないか!」


「ほら見ろ、クスリが出てきたぞ!」


「やっぱりな!」


「薬中イカれオルトだ!」


 群衆はまるでそれを待っていたかのように攻撃的なニヤニヤとした顔を見せる。


 そこに政府要人が立ち上がり、冷たく宣告した。


「薬物中毒者は、この国にはいらない! 即刻、国外追放だ!」


「私は薬物中毒者ではない!」


 必死の叫びは、誰にも届かない。

去っていくオルトの背中を一人の若い研究者が胸に小さく十字架を切って見送った。




「……こうして私はタリカ帝国を追放され、漂流する身になったのだ」


 オル爺は苦笑する。

俺は強く拳を握り、心の中で呟いた。


(やっぱり……オル爺は、正しかったんだ)

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