第5話 ヅァ・ブーク

「……よし、まずは観察しよう!」


 大扉を少し開けて、隙間からそっと中を覗く。


 中は、特殊な金属の壁に集積回路のような模様が走る、近未来的な大部屋だった。


 ひんやりとした空気が肌を刺し、呼吸するたびに体が重くなるのを感じる。

奥には、ボスが誰もいない所でじっと待ち構えていた。


 その近くには、冒険者たちの遺体が無惨にも転がったまま放置されている。


 因みにボスの名前は、アーク・ライオン Gβ-05(古代名:ヅァ・ブーク)だ。

見た目が金色に輝く機械のライオンで目が青く光っていて、とてもカッコいい!


 すると、セリナが隙間から顔を突っ込んで覗いた。


「す、すごい!」


 セリナは、目をキラキラと輝かせて初めて見るであろうヅァ・ブークを見つめている。

だが、すぐに冒険者の遺体に気づき――


「ひっ、人が……死んでる?!」


 そう言って、気を失ってしまった。


「まったく……」


 俺はセリナをそっと壁際まで運び、結界を張って守りを固めてあげた。

だが――その隙を突くように!


「おおっ! ヅァ・ブークだと!? なんと美しい! 本物の古代の遺物だ!」


 オル爺が勝手に大扉を開けて中の方へ走って、行ってしまった。


「ちょっと待って! 余計なことしないで!」


 慌てて後を追うが、時すでに遅し。


 ヅァ・ブークの目が、青からオル爺と同じ狂気の赤色に変わってしまった。

『異物混入、排除シマス!』と言っている様なそんな冷たい感じの目だ。


「フフフッ……お主、わしを倒す気だろ? いいぞ! ならば受けて立とう!」


 オル爺が杖を構え、赤い瞳をギラリと輝かせる。


「マグヌスヅァーピシツーテ……スッテラ ミラ――」


 長い詠唱が始まった。

杖の先端に、青白い水流が渦を巻くように集まり始めた。


「テラ メエリタ……アルス・マグナ……アマデウスゼノ――」


 それは、ただの水ではない――

水の中に無数の電光が走り、バチバチと小さな雷鳴を上げながら水を圧縮させていく。


「【ウォーターボルト×8】ッ!!」


 オル爺の叫びと共に、圧縮された水と電気の複合弾がマルチミサイルの様にいろんな角度で放たれた。


 ギュオォォンッ!!


 空気を裂く甲高い音と共に、青白い光をまとった複合弾は物凄い勢いでヅァ・ブークへと向かう。


 ドゴォォォォンッ!!


 着弾と同時に複合弾が炸裂し周囲に蒸気が立ちこめて、ヅァ・ブークの姿が見えなくなったので――

俺は、フラグを立てることにした。


「やったか?」


 多分、ゲスい顔をしていたかもしれない。


 そして――霧が晴れると!

ヅァ・ブークの金色の装甲には水滴が流れるだけで、傷一つついていなかった。


 そう、実はヅァ・ブークの装甲には、絶縁体の役割をした特殊加工がされた金属が使われているのだ。


「ば、馬鹿な……古代魔法が効かないだと……!? この【ウォーターボルト】が……!」


 オル爺は、かなり動揺していた。


(ようやく、わしTUEEE終了か?)


「仕方ない、こうなれば詠唱破棄だ!!」


「詠唱破棄できるんかい!」


 思わずツッコミを入れる俺を無視し、オル爺は魔法を連発し始める。


「【バイオレットサンダーッ!!】」


 オル爺の杖から雷光が放たれ、青い紫電がヅァ・ブークに突き刺さる。


 バリバリバリィィンッ!!


 金色の装甲が一瞬青白く光るが、すぐに煙を散らして元の状態に戻った。


「【かまいたちッ!!】」


 次いで、鋭い真空の刃が四方八方に飛んでいく。


(ヤ、ヤバい!)


 ズバババァァンッ!!


 すべてを切り裂くはずの斬撃が、ヅァ・ブークの装甲をかすめて白い火花を散らすだけに終わった。


(セーフ!)


 俺は、両手をクロスさせて払った。


「ならばこれは、どうだ!! 【津波ッ!!】」


 足元から巨大な水壁が押し寄せ、機体を飲み込む。


 ドドォォォォンッ!!


 しかし、ヅァ・ブークは膝すら折らず、濁流の中でただ悠然と立ち続けていた。


「まだ……終わらんぞ!! 【土石流ッ!!】」


 地面が隆起し、無数の土塊や石が濁流に混じって襲いかかる。


 ゴロゴロゴロゴロッ!!


 だが衝撃を受けても、ヅァ・ブークの装甲には小さな土埃がつくだけだった。


「ダメか……ならば……凍れぇぇ!! 【アイスランス!!】」


 鋭く尖った氷槍が次々と飛び、ヅァ・ブークの全身を貫かんとする。


「や、やめろ! これ以上、俺の出番を奪うな!」


 俺は思わず、そう声を上げていた。


 ドシュゥゥンッ!! ガキィィィィンッ!!


 氷は砕け散り、ただ破片が周囲に飛び散るだけだった。


「ゼェ…ハァ…ゼェ…ハァ…クッ! これが最後だ!! 【サンダーランスッMAX!!】」


 オル爺の杖が強烈に光り、薄暗い部屋が明るく照らされると極大の雷を纏った槍が空気を裂いていた。


「まだ、やるの? もう、やめて」


 俺は、もうウンザリしていた。


 ズガァァァァァンッ!!


装甲に直撃し、閃光が爆ぜる――しかし、ヅァ・ブークは無言でその場に立ち尽くしていた。


「ば、ばかな……こんなはずは……!? ま、まずい……」


 汗を滝のように流している、どうやらガス欠(魔力切れ)の様だ。

オル爺は後ずさりながらヨロヨロとおぼつかない足取りで逃げるが!

直ぐ近くにあった冒険者の遺体に足を引っかけてしまう。


「ぐおっ!? こんな所に……!」


 ドサッ!

派手に転んだ、その瞬間!


「クソッ!」


 後ろにいたヅァ・ブークの動きに気づいたオル爺は、すぐに巻物を取り出して使った。

だが、しかし、何も起こらない。


 そしてヅァ・ブークは、足で地面を二回蹴り、力を蓄えてオル爺と冒険者の遺体の所に無慈悲にも頭から突っ込んだ。


 ――ズガァァァァンッ!!


 ヅァ・ブークの巨大な頭突きが炸裂し、オル爺が壁に叩きつけられて、そのまま壁にめり込んでしまう。


(……はい! わしTUEEE完全終了!)


 俺は手を構えると、スキルを発動させる。


「【レーザービーム出力MAX】!!」


 光線が一直線にヅァ・ブークを貫き、轟音と共に爆発が起きる。

煙が晴れた時――


 そこには既にバラバラになったヅァ・ブークが転がっていた。


「やったー! 勝った!」


「やったぁー! って……え? なにがあったの?」


 起きたセリナが部屋に入って、驚いた様子で聞いてくる。

俺は思わず苦笑してしまった。

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