第4話 わしTUEEE!!

「……ここが古代遺跡か」


 目の前にそびえるのは、一見ただのごく普通の山。

だが、その輪郭はピラミッド型に整った稜線。

明らかに人工物のそれだった。


 しかし、まるで、自然が長い年月をかけて“遺跡を隠そうとした”かのようにも見える。


 (どう見ても、ただの山じゃないよな……)


 入り口前にはすでに大勢の冒険者たちがいた。

そして、少数の冒険者は装備がボロボロで、血を流しながら入り口から出てきた。


「くそっ……奥のボス、化け物だぞ……!」


「仲間が……仲間がまだ中に……!」


 鎧がひしゃげた男が肩で息をし、杖を握った女魔法使いが震える手で回復薬をこぼしながら飲んでいる。

その光景を見ただけで、この遺跡がいかに危険かが伝わってくる。


「人、多くない?」


 俺は思わずそう声に出していた。


「う、うん……多いね。でも……だ、大丈夫だよ!」


 セリナは無邪気に笑おうとするが、その声は明らかに震えていた。




 順番が回ってきたので、いよいよ入り口へ向かう。

風化して黒ずんだ洞窟のような穴がぽっかりと口を開けていた。近づくだけでひんやりとした冷気が肌に伝わる。


 (……寒いな。だいたい十度ぐらいか?)


 周囲の冒険者が厚着している理由がすぐにわかった。だが、俺には――

スキル【創造】があるから問題ない!


 体がほんのり温まってきた所、隣からくしゃみが聞こえてきた。


「はっ、くしゅんっ!……さ、寒い……」


 セリナが体をブルブルと震わせている。


「大丈夫? ちょっと待ってて、今温めるよ」


 俺はスキルでセリナの体温を適温に調整してあげた。


「ありがとう! すごく温かいよ!」


 笑顔を見せるセリナに、胸が少しだけ温かくなる。


「オル爺もスキルかけてあげよっか?」


「大丈夫だ! わしは全然平気だ!」


 オル爺は、赤い瞳をギラリと光らせると!


「ここには重要な古代の情報が眠っているはずだ!」


 そう言いながら、体をブルブルと震わせていた。


 (……オル爺、今日も完全にキマってるな)


 奥へ進むにつれ、壁は段々、赤レンガのような材質に変わっていく。

どうやら、外側に近い方から風化が進み、内側へ行けば行くほど、より当時のままキレイに残っているようだ。


 通路の端には、前の冒険者が倒した魔物の死骸が積まれていた。

更に通路の真ん中には、緑色の血が水溜まりの様になっていて、異様な匂いが立ちこめている。


ズルッ!


「うわぁっ?!」


 セリナが水溜まりに足を滑らせて転んだ。


「大丈夫?」


 俺は手を差し出してセリナを起こすと、すぐにスキル【創造】でクリーン魔法を作り出し、汚れを落としてあげた。


「ありがとう……大丈夫だよ!」


 セリナは照れくさそうに笑う。




 そして、しばらく進むと!

通路の先から巨大な影がヌルリと動いた。


 それがひょっこりと顔を見せると見覚えのある顔をしていた。

その顔は、絵文字の顔(^_^)をしている。

色は、半透明の緑で形が真四角でとにかくデカい!

しかも、かなりハードなスライムだ!


「ビックハードスライム(大真四角スライム)か……」


「ちょ、ちょっとデカすぎない?!」


 セリナが目を見開く。

だが、そのスライムは通路の幅に阻まれてボヨンボヨンとバウンドして進めず、こちらを睨んでプルプル震えていた。


(やっぱり、現実でもこうなるのか)


 ゲーム時代もコイツは、いつもこうだったからな、と懐かしいことを思い出していた。


「……まあ、攻撃しなきゃ、そのうち諦めるはず――」


 ところがそう思っていた矢先に――

オル爺が唐突に杖を構えて、魔法の詠唱の様なものをし始めた。


「マグヌスヅァーピシツーテ…ステッラ ミラ――」


「ちょ、ちょっと待って!」


 俺は、止めようとするが――


「テラ メエリタ…アルス・マグナ…アマデウス=ゼノ――」


 ダメだ、キマってて聞こえてない。

オル爺の杖の先端に青白い魔力が集まり、鋭い氷の槍が形成される。


「【アイスランス】ッ!!」


 氷槍が高速に動いて空気を裂き、白い霧を引きながら一直線に進む。


 ビシュッ――!


 ビックハードスライムの半透明の体に突き刺さると、冷気が一瞬で広がり、白く凍りつく。

しかし次の瞬間、

バラバラになるように崩れると!


 案の定、ビックハードスライムは分裂してしまった。

分裂したビックハードスライムは、たくさんのスモールハードスライム(小真四角スライム)に変化してオル爺に襲いかかろうとしている。


「オル爺、大丈夫かな……頭」


 とセリナが軽蔑した顔で言う。


 俺が助けようとスキルを使おうとした瞬間――


「フンッ、見ていろ! これぞ! わしの力!」


 オル爺が杖を横に構え、詠唱を開始する。


「マグヌスヅァーピシツーテ…ステッラ ミラ…テラ メエリタ…アルス・マグナ…アマデウスゼノ――」


 赤い瞳をギラリと光らせた瞬間――突風が生まれたかのように、空気が一瞬でうねり始めた。

近づいていたスモールハードスライムが気づき、一斉に逃げ始める。


「【かまいたち】ッ!!」


 ブワァァァッ――!

鋭い風の刃が複数生まれ、スモールハードスライムを容赦なく切り裂いていく。


 ビシュッ、シュバァッバババ!


 切断されたスモールハードスライムの体が次々と溶けて飛び散り、壁に張り付いてはドロリと崩れ落ちた。

あの一撃で、すべてのスモールハードスライムが一掃され、残ったのは半透明の緑色のゼリー状の残骸だけだった。


(なんかオル爺、わしTUEEEしてない?)


「フフンッ! どうだ! わしは、最強だ! わし思うゆえにわし最強!」


 完全に調子に乗ったオル爺は得意げに胸を張っているが近くで、それを見ていたセリナがゴミを見るような目で見ていた。




 さらに奥へ進むと、冒険者たちが続々と引き返してきた。


「ボスが……強すぎる……しかも最初のパーティーは全滅したぞ……!」


「マジかよ! 疾風雷会のパーティーでもダメなのか」


「おい、俺たちも戻ろうぜ!」


「ああ、そうだな」


「クソッ! もう、回復薬が無くなった。」




 そして、ついに巨大な大扉の前にたどり着くと!

その扉は、人間の数倍はある巨人サイズで、精緻な幾何学模様が刻まれていた。


「おお……この模様は旧神が好んだ幾何学紋様だ! 旧神の建造物だぞ! そしてこの扉の大きさ……間違いない巨人がいたんだ! すごい、これはすごい歴史的発見だ!」


 オル爺の赤い瞳の瞳孔は開き切り、息が荒く、体が震えていて、まるで禁断症状が出ているようだった。


(……オル爺、寒くないのかな?)


 俺はそんなことをぼんやりと考えつつ――この先にはテンプレ的にボスしかありえないと確信していた。

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