またね、約束。
彩音
哀しみの向こう
彩音ちゃんへ
私の小説をあなたに贈ります。これから書くのは、哀しみの物語。だけど私は、これまでもこれからもずっと、あなたの幸せを願ってる。だからこれは、あなたの物語。あなたがいつか言ってた言葉を思い出しながら、私があなたに伝えるお別れの言葉。お別れの言葉を言うのはこれで最後にするね。だって私たち、いつだってまた会える。あなたはいつでも、あの晴れ渡る空にいるから。
そうでしょ?彩音ちゃん。
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(無題)
私たちがたどり着いたのは、どこまでも青く透明な哀しみの空だった。この場所ですべての記憶は透き通った一つの光のようになって、私たちの上で永遠に澄み渡っていた。その光はなぜか私たちの中にもあるような気がした。「私たち夜空で輝く星になれたんだよ」と彩音が言って、笑った。
ただ一つの私たちの空では、私たちが地上に残してきたすべての苦しみがゆっくりと遠のいていくようだった。そこにはかつて繋がっていた時、別々に見上げた二つの空のように甘い感傷が、僅かに淡い痛みとともに残されているだけだった。「行こうか」と彩音が言った。私たちは気づくと、ゆっくりと駆け出していた。
「雨だね」と私は言った。「哀しみの雨だよ」とあなたは言った。私たちは走るのをやめて、温かな雨が私達の身体を濡らしていくのを待った。目を閉じると花の匂いがした。もう戻れない、けれど苦しみではない私たちの過去が、あなたの大好きなアーティストの曲、だけどあなたがあまり好きではなかったあの曲になって、私の頭の中で流れ続けていた。私はやっぱり、この曲が好きだと思った。
戻れないよ、昔のようには
煌めいて見えたとしても
明日へと歩き出さなきゃ
雪が降りしきろうとも
雨が止むと、彩音はゆっくりと微笑んで私を見た。「哀しみの向こう側へ行くよ」と彼女は言った。「行ってらっしゃい」と私は言った。「じゃあね」と彼女が言った。
この別れには、少しの寂しさも辛さもなかった。私たちは、すぐにまた会えることを知っていた。私と彩音がした約束、いつでもそばにいるよという約束を、私たちは二人ともちゃんと覚えていたから。
「大好きだよ葉月ちゃん。誰よりも強く生きて!小説での夢叶えてね!今までありがとう。」
うん、と私は言った。大好きだよ、と伝えた。彼女が透明になって遠ざかっていく。それを私は、泣きながら笑顔で見送った。
大好きだよ彩音ちゃん。誰よりも幸せでいてね。小説での夢、叶えるよ。これからもずっとそばにいてね。
「またね!絶対だよ!」
うん、という声が聞こえたような気がした。
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