第十一話 仲間 (中編)
「立て、カイ!このままじゃ、俺たちも死ぬ!!」
災厄獣を抑えているフォルスの猛禽類のような鋭い瞳とカイの涙の流れ出るオッドアイの瞳が交差する。
「……僕のせいだ」
(あの牛の災厄獣が現れた時、倒していれば、あの時、もっと早く手を掴んでいれば、ケンが死ぬ事はなかった……)
カイは下を向く。手に抱えたケンの死体はただ上を見上げている。
その顔は、カイの涙によって濡れている。
(けど……もう、過去には戻れない)
「立て!仇を討つために!その人は大切な仲間何だろう!?」
フォルスは必死にカイに呼びかける。
「仲間……仇……」
(そうだ……ケンは大切な仲間だ……あのリベルディア人よりも……)
リクトの言葉を思い出す。
「……好き放題言いやがって」
カイはそっとケンを地面に置き、魔銃を取り出して立ち上がる。
「ごめん……フォルスさん、クヨクヨしてて」
(……でも、あれは受け入れなくちゃならない言葉だ。全て受け止めて、全て背負って、進まなきゃならないんだ)
カイはそっとケンを地面に置き、魔銃を取り出して立ち上がる。
「カイ……」
フォルスは災厄獣を押し返して、後退し、憎悪に満ちた瞳のカイの隣に並ぶ。
「あの災厄獣を、ぶち殺す!手を貸してください!あいつは、絶対許さない!」
(あれもこれも、今はどうでもいい。ただ、こいつを殺す。それが僕の出来る、ケンへの償いだ)
「……ああ、任せろ」
フォルスは頷き、前に出る。
「モォォォォォォ……!」
牛の災厄獣が姿勢を低くし、後ろ足で地面を思いっきり蹴って目の前のフォルスに突撃する。
「鷹爪流し!」
フォルスは、その突進の勢いを真正面から受け止めるのではなく、横に受け流し、そのまま横腹を斬りつける。
「モォォォ!?」
災厄獣は、勢いそのまま木に衝突して動きを止める。
「カイ!」
「分かってます!形態変化『審判』!」
魔銃に魔力を込められ、銃口に一点集中して行く。カイは牛の災厄獣の目に狙いを定める。
「死ね!」
魔力によって形成された電気の弾丸は、そのまま右目を貫いた。
「モォォォ!!モォォォ!!」
牛の災厄獣はその場で頭を振り回し、今に悶える。
「よくやった、カイ!」
フォルスは、右目を失った事で死角となった、右側面から接近する。
「鷹爪斬!」
フォルスは、暴れ狂う災厄獣の右の前脚を、翡翠色に輝く大剣で正確に捉え、斬り飛ばした。
「モォォォォォォ!!」
牛の災厄獣は咆哮を上げて、バランスを崩し、地面に倒れ伏す。
ビチャッ!という音を立てて斬り飛ばされた足が液状になって落ちる。
その液体は、音を立てながら生い茂る草を腐らせていく。
(畳み掛けるなら……殺すなら今だ!)
カイは災厄獣に接近する。
「
魔銃はその声を認証し、変形する。そして、雷光を帯びた幾多の魔力の弾丸が、空気を裂いて災厄獣の顔面に浴びせられ、顔を形成していた黒い泥のようなモノは飛び散り、原型を失う。
「ぁぁぁぁぁぁぁ……ρολοδ……ςηγαcοηρuc……」
倒れ伏す災厄獣は痛みに悶えているのか、か細い鳴き声を発している。
「フォルスさん!追撃を!」
カイは、再び魔銃を災厄獣に狙いを定める。
「……ああ」
フォルスは、頭を抑えていた手を剣に戻して、カイと共に災厄獣に肉薄する。
「ολοβ……μαεμ……μuναμ!!」
「ッ……!離れろ!カイ!」
フォルスがカイを突き飛ばして、突然動き出した牛の災厄獣の角の振り上げを大剣で防ぐ。
「大丈夫ですかフォルスさん!」
「あまり声を出すな!奴はもう目が見えない、音で俺達を捕捉してる!」
「モォォォァァァ……!」
右前脚を失った筈の災厄獣が、再び立ち上がる。
「なっ!?腕が生えてる……!?」
覚束ない足で立ち上がり、体勢を整えた牛の災厄獣の欠損した筈の右前脚の部分からは、蹄ではなく、確かに人間の腕のような形をしたようなモノが生えていた。
「グァァァぁぁぁぁ!!!」
牛の災厄獣が、カイに向かって角を向け、バランスを崩しかけながらも突進してくる。
「……往生際が悪いんだよ」
カイはギリッと、歯を噛み締める。
(ケンを殺したくせに、いつまで生きてるんだよ…….!)
カイはぐちゃぐちゃになった、災厄獣の目があった場所に狙いを定める。
「
魔銃がカイの声を認証し、より巨大となった銃口が、災厄獣に向く。
魔力をカイから休止し、熱を吐き出しながら、魔力のエネルギーが、一点に集中していく。
「…………死ね」
引き金を引いたと同時に、カイはその反動で転倒する。その転ぶ刹那、カイの目は弾道を追った。
放たれた光線は、一瞬で災厄獣まで到達し、脳天を貫き、災厄獣の核を貫き、破壊した。
「グォォォァァァァァ!!!」
「ッ……!」
しかし、勢いは殺される事なく、災厄獣は最期の足掻きのように、銃の反動で倒れ込んでいるカイにそのまま突撃してきた。
「鷹爪穿ち!」
その災厄獣とカイの間にフォルスが入り込み、翡翠色のオーラを纏った大剣で災厄獣の体を受け止めた。
「……ウラァ!!」
フォルスは災厄獣の体を力を振り絞って押し返した。
災厄獣は、もう声を上げる事もなく、地面に倒れ伏した。
フォルスは尻餅をついているカイに手を伸ばす。
「よくやった、カイ」
「……ありがとう、フォルスさん」
カイは静かに手をとって、立ち上がった。
「プギィィィィ!!!」
その時、カイの背後から巨大な咆哮が聞こえた。
「……ッ!カイ!あの2人の所に災厄獣がいる!行くぞ!」
カイは、ケンの死体を見て迷う。
(せめてケンを丁寧に弔ってからでも……いや、)
「わかりました、行きましょう」
(
カイはフォルスと共に走り出す。カイは後ろを向く。
「……ごめん、ケン。後で絶対戻ってくるから」
カイは前に向き直り、もう振り向く事は無かった。
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