異言語デスゲーム:言葉を間違えれば死ぬ世界  ── 「理解できなければ終わり」

シリウス Sirius

第1章:目覚め、そして混乱

――冷たい。硬い。石の床の感触が、背中にじわりと広がっていく。

 まぶたの裏が、まだ熱を残していた。どこかで強い光を見た記憶がある。


 目を開ける。すぐには何も見えなかった。天井が、妙に高い。

 ぶら下がるランタンのような物体が、ゆっくりと揺れている。見慣れない造形。金属でもなく、ガラスでもない。魔法のような光が、部屋全体を淡く照らしていた。


「……どこ、だよ……ここ」


 掠れた声が口からこぼれる。返事はない。代わりに――


「⸺ヴァ・トゥメル=ラオゥ、ハゥ?」


 背後から、不明瞭な発音が飛んできた。男の声。

 振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。異国の軍人のような服。見た目もアジア系ではない。彼の隣には、少女。茶色い巻き毛と長いマント。


 その場には十数人が集まっていた。男も女も、年齢も体格もバラバラだった。

 まるで国際空港のロビーで突然目を覚ましたような、そんな感覚。


「……ハ、ハゥ? アゥ、イ、イラ?」


 少女がこちらを覗き込みながら話しかけてくる。しかし、全く意味がわからない。

 英語でもフランス語でも中国語でもない。文法も発音も、どの言語体系にも似ていない。


 嫌な汗が額をつたった。


 そのときだった。


 ――ゴォォォン……!


 重低音の鐘のような音が、石造りの部屋全体に響き渡った。


 全員の視線が、一斉に前方へと向く。


 そこに、“それ”がいた。


 巨大な扉が開き、奥から現れたのは、人のような、人でないような存在だった。

 青黒い肌。三本の腕。顔は仮面のように無機質で、目がない。ただ、その存在そのものが、“権威”を放っていた。


 「……!」


 誰かが悲鳴を上げかけた瞬間――

 その場に光が走った。直後、声を上げた若い男が、そのまま床に崩れ落ちる。


 動かない。目は虚ろに開いたまま。明らかに“死んで”いた。


 部屋に、静寂が戻る。否、戻ったのではない。

 全員が“喋ること”を恐れたのだ。


 それだけで、理解した。


 「言葉を間違えれば、死ぬ」


 言語も、ルールも、ここでは“命に直結する”。



 高梨ユウトは、誰にも助けを求められず、ただ――観察を始めた。

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