『シアワセノカタチ』四話

鈴木 優

第1話

    『シアワセノカタチ』4話

                鈴木 優


 あの喫茶店を出てから、僕らはただ並んで歩いた。

 言葉はなかった。

 駅までの道すがら、信号機の点滅がやけに早く感じられた。


 彼女はベンチに腰を下ろすと、ようやくポツリと

 「東京、寒いね」と言った。

 季節の話なのか、心の話なのか、俺はわからなかった。


 そのとき、電車の発着音が遠くから響いた。

 行き先も決まっていない僕らに、その音は少しだけ勇気をくれた。


「…行ってみようか」

 彼女の言葉は、問いでもなく提案でもなく、決意にも似た静かな音だった。


 俺は、ただ黙って頷いた。

 そっとポケットに手を入れて、古い切符を握った。

 二年前、別れのその日に買ったまま使わなかった、あの切符。

 今日、それを使ってみようと思えた。

 

 電車の発車の合図が聞こえる

 俺達の新たな始まりのように感じながら

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『シアワセノカタチ』四話 鈴木 優 @Katsumi1209

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