〖代償讐結〗~妖や妖怪がいる世界で異能を持たない俺は、できうる手段全て使って妖を狩る~

ミタケ

プロローグ

彼らは望む──

 

 ──を

 

 

 彼らは奪う──

 

 ──を

 

 彼らは見る──

 

 

 ──を

 

 何故なら

 

 何故なら

 

 ──なのだから

 

 

 ^^^

 

 

「……はぁ! ……はぁ!」

 

 私は暗い路地裏の中、逃げるために走っていた。

 

「はぁ……! なんでこんな目に……!」

 

 上手くいっていたはずなのに……! 。あと一押しであいつを倒せた……。それなのに……! 

 

『ぐがああああああ!!』

 

 背後から言葉にならない声が聞こえる……まずい! 

 

 声の方向へと振り返る……そこにいたのは。

 

 

 ──額から生えた一対の角

 

 ──人間では考えられないあろう、その体からはちきれんばかりの筋肉

 

 鬼だ。

 

 

 

 ^^^

 この世界には異形の怪物がいる。暴力の化身である鬼。空の王である天狗。

 

 他にも様々な怪物がいる。そんな怪物たちが表れてから数百……数千年が経つが、現れた原因やその目的など未だ解明されないことばかりの理外の怪物。

 

 だがそんな多様な怪物達も共通点はある。……その姿は全身が影に包まれたように黒く、破壊衝動のままあたりを壊しつくす事。

 

 さながら……当たり前に持つものを持たざる生まれたように。手に入らないものはいらないとばかりに……

 

 そんな理外の怪物の事を、この世界では……妖と呼んでいた。

 

 

 ^^^

 

 マズイ、マズイマズイマズイ……! 。

 

 目の前には、自分の力では太刀打ちできない妖の存在。助けを呼ぼうにも周りには人が居らず、眼前に鬼がいる状況で学園に連絡なんて余裕はない。……もしできたとしても増援が来るまで持ちこたえれるのか……。

 

 嗚呼……これは終わったかもしれない。

 

 諦観からか、目の前の絶望的な状況の中……。私は周囲の状況を冷静に見ることができた。

 

 いつの間にか手を伸ばせば触れれるような距離でそいつは、その手に持つ金棒を上に掲げる……! 。

 

 死の間際だからだろうか、迫ってくる死の景色はゆっくりと感じて。

 

 振り下ろされた金棒は段々と私に迫ってくる……。

 

 視界いっぱいに広がる金棒の姿。

 

 スローモーションのようになっている世界で私は目を閉じて。

 

 

 そして。

 

 そしてそしてそして。

 

 私を死に追いやっていたそれは……振り下ろされることはなかった。

 

 代わりに来たのは一つの銃声。それに私は目を見開く。

 

 そこにあったのは一つの背中。目の前の彼は、その体を大きく動かして……! 。

 

 気づいた時には、ぼんやりとその背中を目で追ってしまっていた……。

 

 私を先程まで追いつめてきた、鬼と戦っている彼……。

 

 その特徴的な白髪の色が鮮明に私の目に焼き付いてしまって……。

 

 

 ^^^

 

 夕日があともう少しで完全に静まるころ、俺はその道を走っていた。

 

 手に持っている情報端末に記されているのは、”ランクB鬼”の文字。情報通りならここで目撃情報はとぎれている。

 

 目の前には路地裏へと続く道。そこには戦闘の痕跡があり、その度合いからも激しい戦いだったと窺える。

 

 討伐されたことが報告されていない状況を見るに逃げたのだろう……。この先には路地裏があり、そこを少し進めば行き止まりがある。

 

 もし……この先にそいつが逃げたのなら。思ったよりマズイ状況になっているようで頭を抱える。

 

 そして再び足に力を込め、走り出す。

 

 

 ^^^

 

 

 それから数分くらいだろうか……。走り続けていたところに遠目に妖の姿が見えた……。

 

 そいつは手に持っている金棒を振り上げていて……! 。

 

「間に合え!」

 

 腰につけているホルダーから拳銃を取り出して片手で構える。指をトリガーにかけて。

 

 そして

 

 

 "撃つ! "

 

 

 鳴り響く銃声に妖──鬼は振り返る。……だが、もう遅い。

 

 銃口から発射された弾丸は真っ直ぐに進み。その射線上にある鬼……その右肩に命中した。

 

 チッ、逸れた……! 。鬼は痛みに悶えながら、大きく飛び退く。鬼がいた場所には一人の少女がいた。先程の戦闘跡の主だろう。

 

 その少女を背にしながら、俺は鬼を見る。視線の先にいる鬼は、右腕を垂れさせ左手で金棒を構える。

 

 さて……相手はBランクの鬼。注意すべきはその金棒による打撃。銃による傷がふさがり始めてることから、再生能力も確認。金棒による大振りはこの狭い空間ではあまり気にしなくていい。

 

 そんなこと確認しながら俺は、これからの動きを決めていく。

 

 直線に走り抜け鬼のすぐそばにまで行く。そして銃による攻撃……。三回発砲音がなり鬼の、右肩、右わき腹、頭部に目掛けて銃弾が発射される……! 。

 

 ──右肩命中。傷の再生が止まり鬼が苦しそうにうめき声をあげる。

 

 ──右わき腹命中。鬼が体勢を崩し金棒を支えに持ちこたえる。

 

 ──頭部外れ。

 

 追撃として背中に背負っていた錆びた剣を構え、その首を切ろうとするが……。

 

『うがああああああああ!!』

 

 鬼が雄たけびを上げ、立ち上がる。そして左手の金棒を大きく振りかぶり──

 

 ──下す……! 

 

「……ぐっ!?」

 

 まずい、やられた……建物ごと金棒を振り下ろしやがったな……! 。

 

 奴の攻撃をまともに食らった俺は、激しく吹っ飛ぶ。建物を突き破って路地裏の外に出た俺は、その勢いでまた建物にぶつかり勢いが落ちる。そのまま地面に倒れた俺は血を吐きながら立ちなおす。

 

「はぁ……。はぁ……」

 

 激しく息を吐きながら俺は、どすん……! 。どすん……! 。と足音が聞こえる方向を見る。

 

 表に出てきた鬼は黒塗りのせいでうまく表情は見えないが、もし見えていたら憤怒の表情で俺を見ていただろう。

 

『がああああああああ!!!』

 

 鬼が今まで以上に怒りの感情がこもった雄たけびを上げる。鬼が地面を蹴り、俺の方に迫ってくる。

 

「ふぅぅ……!」

 

 息を大きく吐く。銃を弾切れまで撃つ……が弾は当たることがなく、金棒ではじかれる。

 

 マガジンの中身が空になった銃を捨てる。奴はスピードを落とさず金棒振り上げる。

 

 対して俺は錆びた剣を上段に構える。

 

 両方各々の武器をその手で力強く握り……振り下ろす。

 

 そして。

 

 

 二つの武器が衝突する……! 。

 

 かたや鬼の怪力に耐えうる鋼鉄の金棒。

 

 

 もうかたやろくに手入れされていない、古い文様の錆びた剣。

 

 

 かたや暴力の化身……鬼。

 

 

 もうかたや体中から血が出て、満身創痍の人間。

 

 

 どちらが勝つなんて明白なことだろう……。

 

 

 そして。

 

 

 

 そしてそしてそして……! 。

 

 

 

 ^^^

 

 民家やショッピングモールなど、さきほどまでは健在であっただろう建物群。

 

 ……だが、今ではそれらが完全に破壊され瓦礫の山となっていた。

 

 地面にもクレーターができておりそこは先程までは健在だったとは思えないほど荒れ果てていた。

 

 その場所には土煙が立ち込めていた。

 

 段々と土煙がはれていき、未だよく見えないがその場所には二つの人影が見える。

 

 一つはフラフラになりながらも立ち上がる影。

 

 もう一つは地面に倒れ伏せ動かない影。

 

 時間が経ち、土煙が完全にはれる。人影の正体が明らかになっていく……。

 

 立ち上がった人影の主は──

 

 

「はぁ……! 。はぁ……! 。今回もハズレだ……!」

 

 

 ──この作品の主人公【月下 彼方】である。

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