学園一のパーフェクト美少女が俺の正体を暴こうとグイグイくる件について
境界セン
第1話 平穏を愛する陰キャと完璧すぎる生徒会長
「――以上で、朝のHRを終了する。各自、一限の準備を始めろ」
担任の気だるい声が、俺の意識を現実へと引き戻した。
ふぁ、と誰にも気づかれないように小さなあくびを一つ。窓から差し込む朝日が目に痛い。
俺の名前は影山ケイト。国立最先端技術高等学校、通称「異能学園」に通う高校二年生。
この学園では、生まれ持った特殊能力――「スキル」のランクが、生徒の価値、いや、人生そのものを決めると言っても過言ではない。
俺の願いは、ただ一つ。
「目立たず、騒がず、空気のように3年間を過ごし、平穏なモブとして卒業する」
これに尽きる。
幸いなことに、俺の公式スキルランクは『G』。測定不能のゴミスキルだ。おかげでクラスでは常に空気。誰からも期待されず、話しかけられもせず、完璧なまでのステルス性能を発揮している。実に快適だ。
「ねえねえ、聞いた? 昨日B級ダンジョン『ゴブリンズネスト』の最深部ボスを、白金会長がまた一人で討伐したらしいわよ!」
「マジ!? さすが姫奈様! まさに学園の至宝だよね!」
教室の前方で、キラキラとした女子グループが興奮気味に噂話に花を咲かせている。
その中心にいる名前――白金姫奈(しろがね ひめな)。
彼女は、俺とはまさに対極に位置する存在だ。
肩まで流れる艶やかな銀髪。宝石のように輝く紫の瞳。寸分の狂いもなく着こなされた制服は、彼女がこの学園の生徒会長であることを示している。
スキルは当然、最高位のSSSランク【天剣解放(エクスカリバー)】。
二つ名を持つほどの有名人で、その上、容姿端麗、成績優秀、運動万能。まさに神が創りたもうた最高傑作。
ま、俺には関係のない世界の話だが。
俺は机に突っ伏して、次の授業までの貴重な休み時間を睡眠に充てることにした。最強だとか、生徒会長だとか、そういう面倒なポジションは、いつだって誰かがやってくれる。俺は、その他大勢の『モブA』でいい。
そう、俺がこの世界で最強のSSSランクスキル【絶対領域(ワールド・ルーラー)】の持ち主であることは、誰にも――そう、誰一人として知らない秘密なのだから。
*
「――会長、次期学園対抗戦の代表選手リストです。ご確認ください」
「ありがとう、副会長。……ふむ、順当な人選ね」
放課後の生徒会室。
白金姫奈は、副会長から渡された書類に素早く目を通していた。
彼女の一日は、常に多忙を極める。授業はもちろん、生徒会業務、風紀委員との連携、そして自身のスキルを磨くためのダンジョン攻略。
その全てを、彼女は完璧にこなしていた。
「ですが会長、最近学園周辺で未確認ゲートの発生が頻発しているとの報告が。念の為、警備レベルを上げるべきでは?」
「ええ、その件は私も懸念しているわ。すでに教師陣とは話を通してある。万が一の際は、私が出る」
きっぱりと言い放つ姫奈の瞳に、迷いは一切ない。
彼女は、選ばれた人間としての責任と誇りを誰よりも強く自覚していた。この学園の生徒たちを守ることが、自分の使命だと。
「それにしても……」
姫奈はふと、窓の外に視線を移した。中庭の隅にあるベンチで、一人の男子生徒が文庫本を読んでいる。
影山ケイト。
先日提出されたスキルレポートによれば、彼のスキルは『Gランク:消しゴムのカスを任意の場所に集める』。
実にくだらない、何の役にも立たないスキルだ。成績も平凡。クラスでの存在感も希薄。
だが、なぜだろうか。
時折、姫奈の研ぎ澄まされた直感が、彼に対して奇妙な警鐘を鳴らすことがあった。
まるで、分厚いベールの向こうに、計り知れない何かを隠しているような……。
「……気のせい、ね」
姫奈は小さく首を振り、思考を打ち消した。
くだらない。あり得ない。
世界の理は、スキルランクという絶対的な指標によって定められているのだ。Gランクの生徒が、自分に何かを感じさせるなど、あるはずがない。
彼女は再び書類に目を落とし、完璧な生徒会長の仮面を被り直した。
この時の彼女はまだ知らない。
その「あり得ない」はずのGランク男子生徒によって、自らの常識、そして運命が、根底から覆されることになるということを。
――キィィィィィンッ!
突如、学園全体に耳障りな警報音が鳴り響いた。
それは、本来であれば決して鳴るはずのない、最高レベルの緊急事態を告げるアラート。
「なんだ、この音は!?」
「会長! 大変です! 中庭に……中庭に、Sランクの……暴走ダンジョンゲートが出現しました!」
副会長の悲鳴のような報告に、姫奈は弾かれたように窓の外を見た。
先ほどまで影山ケイトが座っていたベンチのすぐそば。空間が禍々しい紫色に歪み、巨大な亀裂が広がっていく。
そこから溢れ出すのは、およそ学園内に出現するはずのない、絶望的なまでの瘴気とプレッシャーだった。
「総員、第一種戦闘態勢! 全生徒を校舎内へ避難させなさい! 急いで!」
姫奈は即座に指示を飛ばすと、自らの腰に提げた剣の柄に手をかけた。
銀色の髪が、決意に揺れる。
「――私が、食い止める」
紫の瞳が、Sランクの絶望をまっすぐに見据えた。
その視線の先にいる、のんびりと本から顔を上げたGランクの男子生徒の存在に、もはや彼女は気づいていなかった。
「……うわ、まじか。最悪だ」
俺、影山ケイトは、目の前で広がる非日常的な光景を前に、心底面倒くさそうに呟いた。
どうして、よりによって俺の目の前で発生するんだ。
せっかくの読書タイムが台無しじゃないか。
俺は静かに本を閉じると、深く、深ーいため息をついた。
平穏な日常が、また一つ遠のいていく音がした。
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