第3話 都市との取り調べ
──青い空が、頭上に広がっていた。
視界の先に、金属とガラスで構成された巨大な建築物が見える。
空を走る軌道、その上を浮かぶ無人の乗り物。
見たこともないが、どこか懐かしい──そんな街並みが、眼前に広がっていた。
「……どこか、SFの世界みたいだな。まるで大好きだった映画のセットみたいだ」
ジョージは森の縁から、足元の苔を払うようにして一歩踏み出した。
さきほどの襲撃者との戦闘後、近くに人工的な箱の中に漆黒の金属を発見していた
──鑑定──
ブラックメタルと言う鉄の塊を拾い上げ、インベントリーに格納していた。
わずかに脈動するような質感と、異常な比重を持つその金属。
明らかに、ただの素材ではない。
(この素材、ただの金属じゃない。鉄の何倍もの重さなのに、驚くほどの衝撃吸収性……しかも振動が生きているようだった。)
襲撃者はこのブラックメタルを違法に採掘・取引している密輸者のようだ。
森林地帯でそんな行為が行われていたことに、ジョージは新たな警戒心を覚える。
彼は都市の方角へと足を向けた。
街の入り口に近づいたとき、不意に声が飛ぶ。
「そこの君、立ち止まりなさい」
青と白の制服を着た2人組の男女が姿を現す。
手にはタブレットのような端末。
顔には光学式のスキャンゴーグルが光っていた。
「その恰好は何なんだ。IDを確認したい」
「……IDは、持っていない。」
「ID無しで都市に入るのは違反行為だ。同行を願う」
抵抗する理由もない。
ジョージは素直に頷き、小型ドローン付きのパトカーへ乗り込んだ。
機体がふわりと浮かび、地面を離れる。
音もなく滑るように加速するその挙動に、ジョージはわずかに目を細めた。
(……空を飛ぶパトカー?。しかも無音……浮遊技術?
いや、まるで重力が存在しないような動きだ。どんな原理なんだ?)
空を走る軌道の上には、似たような乗り物がいくつも滑っていく。
まるで魔導機のような、不思議な乗り物だ。
(本当にファンタジー世界か?……それとも、どこか別の世界?とにかく常識じゃ測れない場所だ)
たどり着いた先は、都市中央区の巨大施設だった。
青と銀の金属で構成された円柱形の建造物。
その外壁にはホログラムの警告が浮かび、数多の監視カメラとドローンが忙しなく巡回していた。
入口には自動認証ゲートが並び、訪問者一人ひとりの全身を光でスキャンしている。
施設内部は冷たく静かだった。
床には淡く発光するラインが走り、来訪者の導線を誘導している。
天井には待機ドローン、壁面にはホログラムディスプレイ。
ジョージは、無言でひとつの小部屋へと案内された。
まるで尋問室のような空間。
「説明してくれ。装備の由来と、出身は?」
「……記憶が曖昧なんだ。気が付いたら森の中にいていきなり密輸者に襲われたが、応戦して……その場にあった金属を拾った。その後この都市が見えたので近づいて今に至るってわけだ」
「証明する手段はあるか?」
ジョージは無言で、右手を軽く掲げた。
──インベントリー:開示。
透明なウィンドウが浮かび上がり、そこから漆黒の金属──ブラックメタルの塊が空間に現れる。
「っ……!?今のは、瞬間転移か……?いや、異空間魔法?いやいや、そんな……」
「まさか、未登録系の魔法か……?」
周囲の警官がざわつく。
「それ……ブラックメタルか?本物なのか?」
「見間違いじゃなければ、コア掘削用の希少金属のはずだ。質量が……おい、これ一人で持ち運んだのか?」
「信じられん……これを拾っただと?ありえない……」
「異常な点は多いが……違法性は確認できない。IDを発行する。ランク:E。仮登録だ」
ジョージはカードを受け取りながら、短く尋ねた。
「ランク……?」
警官は少し表情を緩めて、丁寧に説明を始めた。
「この都市では、すべての市民はランクによって管理されている。
衣食住、医療、教育、施設の利用範囲まですべてランクによって決まる」
「最低ランクでも最低限の暮らしは保証されているが、アクセスできる施設は限られる。Eランクのままでは、市民権も仮の扱いになる」
「……なるほど」
「その格好も目立つ。服装についても改善が必要だ。ミラ通りの角に服屋がある。
出る時に教えておく」
警官は最後に軽く笑って、ジョージにIDカードを手渡した。
「何かあれば、登録端末で申請できる。しばらくは注意して行動するように」
ジョージは軽く頭を下げ、施設をあとにした。
警察署を出て、案内された服屋を探して歩く途中──ふと、大通りの一角に広がる巨大な建造物が目に留まる。
──『History Museum』。
入口に掲げられたホログラムには、こう記されていた。
『この惑星の7000年の歩みを、あなたに。』
(7000年……?なにか、嫌な予感がする)
ジョージは気が付くと足を踏み入れていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます