Space Family:〜異世界転生チートスキルでSF世界を無双します〜
パリジャン
父・ジョージ編
第1話 異世界転生
リビングに漂う、醤油と出汁の香り。
それはどこか懐かしく、遠い日の記憶をも呼び起こすような匂いだった。
玄関の扉がきしむ音と共に、瀬戸ジョージが帰ってきた。
「ただいま……っと。ふぅ……」彼はネクタイを緩めながら、革靴を器用に脱ぎ、玄関マットの端に足を滑らせてスリッパに履き替える。
スーツの上着を脱ぐと、内ポケットから取り出したスマートフォンを、玄関脇の充電機に差し込んだ。
それは彼にとって、仕事と家庭を分ける“儀式”のようなものだった。
「お父さん、おかえりなさい!」キッチンから飛んでくる明るい声――小柄で可愛らしい妻・実佐の声だ。
「ただいま、実佐。……ああ、これは……」リビングに入ると、テーブルの上には湯気の立ち上る夕食が並んでいた。
木目の温もりが心地よいテーブルには、鯖の味噌煮、ほうれん草のおひたし、味噌汁、炊きたての白米、そして香の物。
すべて、彼の好物だ。
「今日は鯖の味噌煮か……これは嬉しいな」
「煮込みのタイミング、バッチリだったの。ちゃんとあなたの好み、覚えてるんだから」
「さすが実佐、料理の腕前だけは世界最強だな」
「“だけ”って言った?今、“だけ”って言ったわよね?」
「いやいや、“だけ”じゃなくて“特に”って意味だよ、もちろん」ジョージは笑いながら、妻の頭にそっと手を乗せた。
彼女はむくれて見せたが、頬はほんのりと赤い。
──その光景は、彼にとって戦場で勝利した後に戻る“安全な拠点”のようなものだった。
二階の自室では、長女・美姫がタブレットでイラストの資料を見ながら、読みかけのライトノベルに夢中になっていた。
「……ふふ、やっぱり魔法少女はこうじゃなきゃ……」時折、ふとした空想に頬を染め、指先で空中に魔法陣を描くような仕草をする。
まるで、自分が魔法使いになったかのように。
一方、リビングのソファでは長男・刃がヘッドセットを装着し、VRゴーグル越しに何かのステルスゲームをプレイ中だった。
「……裏取り完了。よし、ノイズで釣ってからの……バックスタブ」指先の動きは素早く、目の前の映像世界に完全に没入している。
父譲りの反応速度とゲーマー気質。将来の夢はプロになる事だった。
「おーい、ごはんできたよー!」母の声に呼ばれて、家族四人が食卓に集う。
ジョージが手を合わせた。
「いただきます」その瞬間だった。
──床に、光の魔法陣が浮かび上がった。
「え?」唖然とする間もなく、家族全員が眩い光に包まれ、視界が一瞬で白に染まる。
……気づけば、真っ白な空間。
上下左右の概念すら曖昧なその場所に、四人は浮かんでいた。
いや、浮かんでいるというよりも、重力の存在しない空間に“置かれている”という感覚だった。
「ここ……どこだ……?」ジョージが声を発した瞬間、正面に浮かぶ“何か”がぬるりと現れる。
それは、少年の姿をした誰かだった。
年は十代前半、青白い肌と銀色の目を持ち、空間に無数のホログラムウィンドウとコントローラが浮いている。
「よっ、初めまして」少年は片手を挙げて言った。
「僕は君たちの言う神だよ。正確には、マルチバースを管理している存在の一柱だよ。君たちの世界に割り込みがあったから、確認してるとこ」
「……割り込み?」
「うん、別の神がね。君たちを転送させたんだ。で、僕が代わりに処理してる」
ジョージは即座に察した。
これはラノベ、いや、異世界転生ものの定番のパターン……!
「ってことは……スキルとかもらえるとか?」
「察しがいいね。その通り。君たちは別の“世界”へ転送される。そのとき、いくつかスキルを付与するから、楽しんできて」
「どんな世界だ?やっぱり王道の剣と魔法?」
「うーん、ファンタジーってことになってるな……そこも楽しみにしてて」
「家族はどうなるんだ?」
「同じ惑星に送るよ。ただし、最初はバラバラの場所にランダム転送する事になっている」
「なんだと!……」
「地球の半分くらいの大きさしかないから、すぐ会えるって。大丈夫」
ジョージは眉をひそめた。だが、抵抗しても仕方がないと悟る。
「……わかった。で、俺にはどんなスキルが?」
「一家の大黒柱として家族を守って来た君にはタンク系スキルと、今まで君自身が培ってきた経験から格闘術スキルをセットでされるみたいだね。他に基本スキルとして鑑定、インベントリーとマップ。そして今回は君たち一家には迷惑をかけているからおまけに経験値アップボーナスもあげるよ。正直チート級だね」
「タンクと格闘……いい組み合わせだ」彼の脳裏に過去の戦いがよぎる──スラム街の日々、血塗れのストリートに立つ若かりし自分。
だが次の瞬間。
──画面が、赤く染まった。
「えっ……なにこれ?」神の表情が凍りつく。
「ちょっと待っ──」バチバチバチバチッ!
赤い雷のようなノイズが空間を引き裂き、ジョージの意識が一気に暗転していく──……そして目覚めた時、そこは森だった。
深緑の樹々、澄んだ空気、どこか懐かしい地球のようでいて、どこか違う。
遠くに何かの構造物が見えたが、それが何かはまだ分からない。
「……ここが、“異世界”?いや、なんだこの違和感……」
状況も、家族の所在も分からない。
だが、ジョージの直感は告げていた。
──これはただのファンタジーではない。
彼の物語は、今始まったばかりだった。
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