連札劇
影も残さぬ程のランとリンドウの素早い剣捌きは見るものの目を奪う程美しく洗練され、それを見切り最小限の動きで躱すメタルの行動もまた洗練されていた。
実力者同士の戦いは見る者の心を熱くさせるだけの強さを秘めるのが伝わり、それに伴ってカラードもまた笑みを浮かべながらカードを切る。
「よく鍛えられてていいアセスだ! ツール使用魔獣の鎧!」
攻撃を躱しながらメタルの身体に漆黒の鎧が装着し始め、やがて全身を覆い狼を思わせる姿へ変わると鎧で剣を受け止めそのまま力で押し返しランとリンドウの体勢を崩す。
「スペル発動プロテクション!」
素早くリオがカードを切って薄い膜が二人のアセスを守るも、メタルはすぐに攻め込まずに俊敏に動いて背後側へと移動し、それに合わせカラードはさらなるカードを発動する。
「スペル発動フレアチェーン!」
空間を突き破り出現する炎の鎖が相手を拘束するスペルだが、それを向けられるのはランとリンドウではなくカラードのアセス・メタルに対してだった。
通常ならばあり得ない行動にエルクリッド達は驚くも、次の瞬間にメタルは炎の鎖に噛み付いて逆に引っ張り出してみせ、そのまま身体を回すように動いて鎖を武器としちょうどプロテクションが切れたランとリンドウをまとめて薙ぎ払う。
(まさかチェーンスペルを武器とするとは……!)
(この犬っころ、やりやがる……!)
間一髪剣で防ぎはしたが強い勢いでランとリンドウはリオの方へと飛ばされてしまい、何度か身体を打ち付けながらも立て直し片膝をつく状態で踏みとどまる。
「二人共、まだ戦えますか?」
「問題ない」
「へっ、ちっとはやるじゃねぇの」
リオに強気に答えた二人だが、黒の猟犬ヘルハウンドらしからぬ動きをしてみせるメタルに冷や汗を流す。それはリオも感じ取れ、また、カラードが既にある術を実行しているのを悟る。
(連札劇をこうも容易く仕掛けてくるとは……)
それはリスナーにおける戦闘技術の一つ。リオが思案してる事をちょうどタラゼドがノヴァに説明し始め、エルクリッドとシェダも耳を傾けていた。
「全てのカードには単純な属性や部類だけではなく、様々な情報が刻まれています。例えば火属性アセスにフレアフォースを使う場合でも、アセスによっては同じ効果を得られるバーンフォースを使う方が良い場合があります」
「刻まれている情報の違い、ですか?」
「その通りです。それを最大限活かす戦闘技術がカラードの使う連札劇……
バーンフォースからフレアバインド、魔獣の鎧、フレアチェーンとここまで振り返るとカラードが使ったスペルは全て火属性、ないしヘルハウンドと好相性のカードばかりである。
それらが相乗効果を生み出している上に絶え間なく行うというのをカラードは行い、今の状況へと繋いでいるという。無論、それで撃破まで持ち込めるかは別であり、カラードも不敵な笑みを浮かべながらも対応しきってみせた二人のアセスに感心する。
(流石に王国騎士相手じゃ簡単には決まらねぇな。それにまだ様子見で妨害はしてきてねぇ……連札劇はブレイク系スペルなんかで乱されると途切れちまうからな……)
自身の術をリオが分析し情報を集めているのを見極めたカラードはカードを引き抜き、姿勢を低くしたメタルもまたランとリンドウに向かって駆け出す。
剣を構える二人のアセスに自分ができる事、なすべき事、相手の戦術を崩して勝利へ繋ぐにはどうするかをリオは瞬時に考え、その意思が伝わるランとリンドウもまたメタルに向かって走り出した。
「スペル発動アサルトミラージュ! リンドウ!」
「おうよ!」
幻惑攻撃スペルのアサルトミラージュによりリンドウの姿が五つに増え、それにメタルは一瞬戸惑うもすぐに狙いをランにのみ絞って飛びかかり、剣を振り上げられようとも臆さずに向かい左足の鎧を破壊されながらもランの首筋を噛み砕く。
刹那にランががしっとメタルを掴んで拘束し、そこへ五つに分かれたリンドウがトドメを刺しにかかる。
「作戦としては上出来。が、まだ終わってねぇぜ! スペル……」
「スペル発動スペルブレイク!」
瞬時にリオが先手をかけてカラードが使用しかけたスペルを妨害し、一気に決着へと導く。
だが次の瞬間にカラードが持っていたカードが二枚というのに気づき、彼もまたすかさず妨害されなかったもう一枚のカードを切った。
「悠久の時を重ね大地に眠る紅蓮の炎よ、我が求めに応じ全てを焼き払え……! スペル発動、マグマストーム!」
大地が割れ噴き出す熱風と共に溢れ出る溶岩が逆巻きながらアセス達へ襲いかかる。
詠唱札解術を使ったカラードのスペル攻撃は自身のアセスをも巻き込むも、メタルは鎧を喪失しながらも溶岩の竜巻の中から飛び出して着地し、刹那に竜巻が収束し消滅すると共に落下するランとリンドウの焼けただれた姿を見下ろすように踏みつけた。
リオの策を予想し構えていたカラードの戦いぶりにエルクリッドとシェダは戦慄しつつ、十二星召とはいかなるものかを再認識させられる。
「師匠と一緒に旅してたってだけはある……すげぇよ……」
「うん……でも、リオさんはまだ折れてないよ」
アセスが受けた傷はリスナーにも襲いかかる。デュオサモンならば当然二体分となり、文字通り身を焼く痛みがリオを襲うもぐっと歯を食いしばりながら耐え抜き、ランとリンドウをカードへと戻す。
「よくやってくれました……ゆっくり休んでください」
色を失った二枚のカードに優しく声をかけつつカード入れへと戻し、深く息を吐いて集中力を取り戻すながら最後のアセスを引き抜き凛と構えた。
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