炎の爪ーFrameー

十二星召カラード

 ある者は全てを焼きつくされ、ある者はその姿に畏怖しながら心身を焦がし延々と苦しむ。


 人は彼を炎そのものと呼ぶ。人は彼を炎のリスナーと呼ぶ。人は彼を烈火と呼ぶ。


 一度火がつけばあとは燃え盛るだけ。燃え上がる程にその身に刻む焔の証は燦然と輝き、闘争本能の昂りは爆炎となり相対する者を焼き尽くす。


 それに立ち向かう者はいる。愚かとも取れる行為、しかし彼は全力でそれを受け止め完全燃焼を望み闘う。



ーー


 ある者は縛られて拘束され、ある者は見るも無残に焼き焦がれた姿で晒されるように一箇所に集められ、その隣で燃える黒炎の中に回収された密造カードが放り込まれ処分されていく。


「お頭ぁ、これで全部っす」


「ん、ご苦労さん。地の国の騎士団に身柄引き渡すから伝令しといて」


 傘召桜さんしょうおの活躍で密造カードの持ち主がアイゼンの街から一掃され、カードも処分されるというのを野次馬達が集まって見ている。無理もない話ではあるが、特に目を引くのはカラードが拘束したという者達の姿だ。


 全身を焼かれ息も絶え絶え、半殺しという表現も生温いと感じる程に痛めつけられ、それが十数人積み重ねられている。話せる者から尋問するリオもやりすぎとは思いつつ、今は自分も仕事を優先と割り切り任務を進めていく。


(まるで見せしめのように……あるいはそれが狙いなのか?)


 あえて人通りの多い広場を選んで捕縛した者達を粗雑に扱いカードも焼く。見せしめとも思えるそれはリオもカラードの狙いを考える。


 かたやカードの処分を受け持つエルクリッドらは幾度も自分達に襲いかかったリスナーバインドのカードを手に、それが既にかなりの枚数が出回っているのだと痛感しつつ黒炎の中へと投げ入れ、通常のカードと異なり燃え尽きていく様を見届ける。


「密造カードは一般のカードとは製造方法が異なるのもあってか、滅却の炎で処分可能なようですね」


「人工カードって、確か風の国の賢者様だけが作れるんでしたっけ?」


「はい。賢者ロッソ様がこの世界全ての人工カードの元となる素体のカードを製造し、それに魔法や道具等を封じる事でカードとして完成していますが……密造カードは違うようですね」


 黒き炎を掌に作ってそれをカード処分の炎へと追加しながらタラゼドが説明をし、エルクリッドも納得しつつ手持ちの密造カードを全て炎へ放り込む。


 この街だけで処分できたカードは百枚近くに上り、捕らえたリスナーや売人も合わせて数十人。唯一ヤーロンだけは取り逃がしてしまって大元を断つ事は失敗したが、一掃作戦としては成功と言えるだろう。

 作業が進む中で下駄を鳴らしながらカラードが野次馬達の前へ躍り出ると、傘を閉じて突き刺すように立てて言い放つ。


「オイラは十二星召のカラード。今回は巷で噂の密造カードやそれを扱う奴らを処分しにはるばるやって来た、今後、同じように他の十二星召とも協力しながらエタリラの大掃除するからそのつもりで」


 長として、十二星召の一人として、堂々と語るカラードの警告には野次馬達もざわめき、一方で自ら進み出て黒炎にカードを放り込む者達も現れ流れが完成されていく。

 十二星召はリスナーの頂点に立つ者達。その実力は言うまでもなく、名前を示すだけで逆らったり挑むよりはという判断をさせるだけの力を秘める。


 取り逃がしがないようにし目的を完遂するカラードの姿に旧知のタラゼドも微笑みをこぼし、ひとまずはアイゼンの街の大掃除の終わりを実感するのだった。



ーー


 夕方、ナーム国の首都より派遣されてきた騎士団に捕縛したリスナーらを引き渡し終え、灰となった密造カードも完全に処分しアイゼンの街での傘召桜さんしょうおの一掃作戦は完了する。

 だが元を断たねば意味はないという事は手伝ったエルクリッド達も傘召桜さんしょうおも理解しており、早めの夕食も兼ねた今後の方針会議をする中でカラードが切り出したある言葉にエルクリッドが身を乗り出し反発していた。


「手を引けって……どうしてですか!」


「そのままの意味だよ。この件に関わると流石にヤバそうな気がするし」


 酒を満たす盃を片手にカラードが鋭い目つきのエルクリッドに動じず返し、彼女を宥めるように肩に手を置きながらリオが間に入る。


「彼女達には私の任務遂行の手伝いを既に依頼受託済みです。それでも引けと?」


「水の国の騎士団にはオイラが直接侘びておくから問題ないよ」


 飄々としつつもこれ以上は危険という警告をしてるのだと覚りつつも、リオはエルクリッドと同じく凄みのある目線で返し退く気はないと示す。

 同席するシェダも頷きながら目を向け、ノヴァも張り詰めた空気に戸惑いすぐにタラゼドが間に入り話を進めていく。


「ではカラード、あなたの好きな戦いで力を確かめるというのでどうでしょうか。元々そのつもり、でしょうからね」


「まー半分はね。残りは本気で言ってるつもりなんだけど……」


 酒を飲みながらタラゼドの意見にカラードが思考を巡らせ、やがて盃を空にするとわかったとエルクリッド達の方を見て帯から漆箱を取り出し紐と蓋を器用に片手でとってカードを見せる。


「君らの消耗とかもあるから二日後にやろうか。ただオイラはいくつか不利な条件でやらせてもらうよ、どうせやるなら君らの力に合わせて楽しく戦いたいしね」


「上等です! あたしもやるんなら本気出させるくらいでやりますから!」


 不敵に笑みを見せながら戦いへ喜々するカラードに対しエルクリッドも強気に答え、ひとまずその場の話しがつくとすぐにカラードは漆箱のカード入れをしまいながら傘召桜さんしょうおへ声を飛ばす。


「お前達は先に火の国戻ってて。オイラはちょっと火遊びするから、何かあったときはアヤセを頼って」


「へい、わかりやした!」


 数十人息を揃えて同じ言葉を大きく返しながら深々と頭を下げ、一糸乱れぬ統率にはエルクリッド達も驚くしかない。


 とはいえ十二星召にしてバトラーたるカラードとの戦いは決して楽ではない事も、飄々たる振る舞いの裏に潜む烈火の如き闘争心の強さは伝わり、彼がそれに赴くままに動いてる部分を感じ取れた。

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