第3話 赤ちゃんがやってくる
皇妃殿下、ご懐妊――。
そのニュースが公表されたのは、フレディーと結ばれて半年後のことだった。
徐々にお腹が膨らんでいき、時折お腹を蹴ってくる赤ちゃんが愛おしくて、とても幸せなのだが……。
「脈が弱いわね」
「ここ数日、昼間は意識が朦朧とするんです」
毎日のように診察にきてくれるマリコさんにそう訴えた。
もともと俺が嫁にきた動機の中に、死亡率の高いオメガの妊娠がどういうものかを体験する、というものがあった。しかし、そんなに危険があるようには思えなかった。ここ数日を除いては。
ずっと順調だったのに、今は死にそうなくらい倦怠感が酷い。でも俺が死んでしまったらお腹の子も死んでしまう。踏ん張らなければ。
「お腹の子は元気よ。また蹴ってるわね」
「生きてるんだなぁって感じがしますね。俺、オメガで良かった。だって普通の男はこんな感覚ないでしょ?」
愛おしくて堪らない。お腹をなでなでしながら「元気に育てよ」と願いを込めた。
「それにしても、安定期に入ったのにどうしたのかしら」
「ここ二、三日は特に体調が悪いような気がします。ごはんがうまく食べられなくて。今も眠くて、落ちそ……」
すぅ……と意識が遠のく。永遠の眠りについてしまいそう。そんな時にドアがノックされた。
「マリコもいたのか」
入って来たのはフレディだった。彼は帝国直轄地の魔物討伐に出かけていた。まだ討伐用の鎧を身にまとったままこの部屋に入って来た。
「リアムの体調が悪いと聞いて」
フレディは俺の枕元にやってきてそっと頭を撫でた。
「顔色が悪い。大丈夫か」
その時ふと身体が軽くなったような気がした。マリコさんがさりげなく後ろを向くと、触れるようなキスを落とされた。熱い気が俺の身体を充満する。
「あ……わかりました」
急にひらめいて、マリコさんに声をかける。
「体調が悪くなったのは、フレディが留守にしたからです。あ、ノロケでもフレディを責めてるのでもなく」
ノアの考察によると、アルファは魔物。俺の身体で育んでいるのはおそらくアルファで魔物の子。
オメガはオメガ子宮の器官を除けばベータと変わらない。普通の人間が魔物の子を育んでいるわけだから、身体の負担は大きい。
「魔物――じゃなく、番のアルファの気……というか、愛情……をそそげばオメガも元気が補充されるんじゃないですかね」
マリコさんに愛情なんて口にするのは照れ臭いけど、これが医師としての考察だから。オメガ医療の前進のためなら恥ずかしさも我慢しないと。
「なるほど。言われてみれば、妊娠中に亡くなるオメガ妊夫さん達は、あまり旦那様に大切にされていない方達ばかりだったわ」
マリコさんは席を外そうと立ち上がった。
「やはりリアムくんの主治医は私じゃなく陛下ね。たくさん愛情を注いでもらってね」
マリコさんは笑顔でそう言って、部屋を出て行った。
「リアム……オメガとはなんと愛おしい存在だろう。愛が無限大にいるんだな」
フレディは俺の身体をギュッと抱きしめる。抱きしめられた肌からフレディの気持ちが伝わって、段々と身体に力が漲ってくる。
「フレディ、優しく、優しく抱いて。赤ちゃんがビックリしないくらい優しく」
「難しい注文するな……。お腹大丈夫か」
「今は張ってないから大丈夫。優しくだからね」
フレディは壊れものを扱うようにそっと肌を合わせてくれる。満たされていく。妊娠を安定して継続するには、アルファの愛情が必要だったんだ。
「フレディ、……俺の事も赤ちゃんの事も好きって……」
「好きだよ、リアム。もちろん子供も。男かな、女かな。そろそろ名前も決めたい」
フレディはなるべく泊まりの出張は入れずに俺の傍にいてくれるようになった。お腹の赤ちゃんも順調に育ち、いよいよ十ヶ月が経過した。
「い、いだ……っ……いたいって……」
「リアムくん、頑張って、意識保って!」
「フレディ……っ」
「リアム、ここにいるから。大丈夫だぞ」
マリコさんから励まされ、フレディーに手を握ってもらって。
「リアム先生、もうすぐ出てきますよ!」
「がんばって! 赤ちゃんに会えるよ!」
診療所の看護師さんにも励ましてもらって。
「リアム先生の赤ちゃん、楽しみですね、母上」
「そうですわね。いずれアルフィーもこうして出産するのね。わたくしもあなたの出産の時は大変だった……でも……あなただけがわたくしの宝物でしたのよ」
アルフレッド様や皇太后様にも応援してもらって。
いよいよ赤ちゃんがこの世にやってくる。気が遠くなるような痛みの後に「ホギャァ~」という産声が聞こえた。嬉しいというより安堵が先にきて、来てくれた赤ちゃんを抱きしめてお礼を言いたかった。
この子がアルファだとかベータだとか関係ない。ただ来てくれただけで本当に……。
「良かった……っ……ありがと……っ、君に会いたかった」
涙で視界がぐしょぐしょになった時に見た真っ赤な肌の赤ちゃんは、俺と同じストロベリーブロンドの産毛が生えた男の子だった。
「リアムにそっくり! 可愛い。可愛すぎる。小さなリアムだ……っ」
フレディも泣いていた。
「俺としては……フレディに似てほしいんだけど、な……」
どっちに似ても、俺達の子に変わりない。優しく、健やかに。元気で幸せな人生を歩んでほしい。俺がこの子に願うのはただそれだけだった。
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