第十章：希望の歌と秘密の足跡

愛を誓い合い「あまがみ」と「アッシュ」の二人の唇が触れた瞬間それは絶望の空に射す暁のように脆く

しかし揺るぎなく彼女の心を照らす戦火に焼かれ血と泥にまみれ硝煙に満ち沈むこの荒野の地獄で愛は

ただ幻であるはずだったが現実に直面する彼女の胸には確かな唯一無二の

ひと筋の希望の光が差し込んでいる互いの存在は二人が正気を保ち生き延びる理由を与えていた

しかし戦場の現実は、その愛をも容赦なく試すのである歌い尽くしすぎて意識が朦朧と霞むたびに「あまがみ」は最後の力を振り絞り【セイクリッド・カンティクル聖歌 】を紡ぐ

その旋律は傷口を閉じ砕けた心を結び直し瓦礫の影で震える兵士たちに一瞬の安息を与える「あまがみ」の体を「アッシュ」は迷わず抱きかかえ安全な瓦礫の物陰へと運び込んだ彼の剣は「あまがみ」に容赦なく降り注ぐ矢の雨を裂き剣と槍の波を

「【シャドウ・リーパー影狩り】」

影の如き速さで間合いを詰め、ことごとく断ち切り弾き返す、あらゆる脅威を払い時に兵士が倒れた死地へ躊躇なく自らも飛び込んでいく

まるで戦場そのものを拒むかのごとく荒々しくも美しかった

「あの人は……まるで何かに取り憑かれているみたい……」

その剣さばきは圧倒的で異様なまでに鋭く強さ動きは兵士の中でも群を抜いており兵士たちを震え上がらせるほどだった、まるで阿修羅のごとき敵を打ち倒していく

彼の黒剣は血と泥に汚れていたが、その刃先に燃えるような紅蓮の光が宿る

「【アグニ・ヴァラール黒炎剣】」

黒炎剣は大地を裂いて迫り来る敵の影を彼は焔を纏った一閃で焼き払う

その残火は守るべき「あまがみ」の周囲に炎の障壁を築く

その姿は、まさに戦場に舞い降りた天空の守り人

「あまがみ」は彼の戦う姿を見るたび彼の背負う重さを感じて「あまがみ」は血煙の中で戦う彼の背中を見つめるたびに思う常に彼女を庇い守り抜こうとする揺るぎない意思と

その存在は「あまがみ」にとっては深い安堵と

そして今まで感じたことのない強い希望を、もたらしている事を

ひしひしと感じている戦場で多くの命が散っていく中で彼女の歌声が

かすかな安らぎをもたらし「アッシュ」の有り様がその歌声を守り続けていた

それは単なる癒しを超え、この終わりの見えない戦いに新たな意味を与えている

だが、その希望は何度も身体に深い傷を刻み込み

そして彼が負傷するたび「あまがみ」の心は引き裂かれる彼の傷を癒すたび自身の力が失われることを承知で彼女は全力で歌った

だが、ある日の激戦のさなか「アッシュ」は深手を負い腹部を深く裂く刃が走る大きく斬られ赤黒い血が溢れ染まりながら膝をつき「あまがみ」は叫び声を上げて駆け寄る

「「アッシュ」！ しっかりして！」

彼の視線は遠のき意識は朦朧としており「あまがみ」は彼の傍らに駆け寄り

かすかに震える声で歌い始めた、しかし疲弊しきった「あまがみ」の声は

か細く、いつものように強い光を放たない焦燥感に駆られ涙が溢れる「あまがみ」に「アッシュ」は苦しげに顔を上げ薄く瞼を開き

かすれた、か細い声で血泡を噛みながら震え呟く

「……俺は……生き残らなければ……ならない……あの子のために……」

「あの子……？」

「あまがみ」は戸惑い声を漏らして問い返すが

その言葉は宙に入り混じり答えは返らなかった「アッシュ」の意識は再び遠のいて瞼はすぐに閉じられていく「あまがみ」は彼を失うかも

しれないという強烈な恐怖に襲われ、その思いだけで胸が張り裂けそうだった彼女は己の限界を超えて涙に濡れながら残された全ての力を振り絞り悲痛な祈りを込めて歌い魂を削る

かすれた歌声が夜の空気に溶け込み滲んでいく

「……お願い「アッシュ」を奪わないで！……時が止まるまで～君を忘れない～【ドーン・リュード黎明歌】……」

その歌声はもはや祈り、そのもので、やがて奇跡的に淡い光が舞い降り最後の光芒を放ち「アッシュ」の傷口を覆いゆっくりと塞がって徐々に血が止まっていく、そして彼の呼吸が安定すると同時に彼が危機を脱したことに安堵し限界を迎えた「あまがみ」の瞳は闇に沈み

そのまま意識を失い彼の傍らに崩れ落ち倒れ込んだ

数日後に回復した「アッシュ」は無言で「あまがみ」の手を取り心から感謝を示しつつも同時に

あの時の自身の言葉を悔いるように、どこか苦しげに顔を伏せ深い影を帯びた声で言った

「……過去のことだ……話すほどのものじゃない……」

彼がそう言うたびに「あまがみ」は小さく頷きながらも彼の心の奥深くに潜む

まだ触れられない影の領域があることを感じていた

それでも戦場という極限の状況は彼らの間に新たな秘密と

それを乗り越えようとする深い絆をより固く結び直す切っ掛けをもたらす「あまがみ」は「アッシュ」が抱える「あの子」という謎の言葉が胸に刺さり未来への不安を拭いきれない感情を感じながらも彼を信じたい彼と共に生き抜く

その想いが決意を新たにする、ある日、激しい攻防戦の合間に奇跡的に訪れた

たまゆらの、ごとく空しく無常であり短く、はかない静寂の中

二人は並んで腰を下ろし「アッシュ」は珍しく口を開いき彼の瞳は遠く星のない夜空を見上げ過去の記憶を辿るようにぽつりと言葉を低い声で紡ぐ

「……俺は……多くの死を見てきた戦場で意味のない死も誰かの希望を灯す死も……だが君の歌声は違う……たとえ命が尽きようとも……その歌声は彼らの魂を慰め安らぎを与え残された者たちに明日への希望を繋いでいる……」

「アッシュ」のその言葉に「あまがみ」の胸に衝撃が走り震え

はっと息を呑んだ自分はただ願っていたのは目の前の苦しみを和らげたい一心で歌ってきただけだった

だがしかし「アッシュ」は彼女の力が持つ真の意味を遥か先の未来に橋を架け見通していたのだ彼の言葉は「あまがみ」の心に深く染み渡り疲弊しきっていた彼女の心に光が宿り新たな泉のような力が湧き上がるのを感じさせた

「……私の歌が……そんな力を……私……もっと歌いたい……この歌声でできる限り少しでも多くの人の心を救いたい……たとえ戦場がどれほど過酷でも……「アッシュ」あなたがそばにいてくれるなら……」

「必ずいる」

「あまがみ」の言葉に「アッシュ」は力強く答えて静かに頷き彼女の手を固く握りしめ

その力は言葉よりも雄弁で彼のその眼差しには闇の底に灯る炎のように燃え「あまがみ」への深い愛情と共に未来を切り拓こうとする確固たる決意が込められているのであった

この戦乱は、まだ終わらない、だがしかし彼らの間には互いを支え困難を乗り越える歌と剣と愛は確かな絆で結ばれ

その歌声が世界に、もたらすで、あろう新たな黎明の種が芽生えつつあり

それは、やがて訪れる更なる、より大きな戦いの嵐をも乗り越えるための確かな兆しのように希望の足跡が刻まれたように感じられた