第2話 「チートスキル、発動。そして初めての殺意」
目が覚めたとき、俺は森の中にいた。木々が生い茂り、空はオレンジに染まりかけている。どうやら、こっちの世界の時間も夕方らしい。
「……マジで転生したのかよ」
ポケットに手を突っ込んだら、スマホも財布もなかった。代わりに、腰には布のポーチとナイフ、そして革製の服。服の下にプレートメイル的なものが入っていて、意外と装備は整っている。
何よりも、俺にはこの世界での最強スキル――《無限解析(インフィニット・リバース)》がある。
さっそく能力を試すべく、俺は周囲の気配に意識を集中させた。
「……いるな」
木の陰から、じりじりとこちらをうかがう気配。俺の方が先に気づいた。
その正体は、茶色い毛並みに鋭い牙を持つ――**森狼(フォレスト・ウルフ)**だ。
大型犬ほどの体躯。筋肉が浮き出た脚。目は血走り、唸り声が低く響く。
「よし……来いや」
次の瞬間、狼が飛びかかってきた。鋭い爪が俺の首を狙って振り下ろされる――
「《無限解析:対象認識》」
思考が加速する。
視界が一瞬だけ青白く染まり、狼の動き、攻撃範囲、弱点、体力、スキル構成――すべてが数字と文字で浮かび上がった。
敵スキル:《爪撃(ツメウチ)》
筋力C 敏捷C+ 防御力D
弱点:腹部、後脚関節部
時間が止まったように感じるほどの情報量。しかし、頭はまったく混乱しない。スッとすべてが染み込んでくる。
「模倣完了、《爪撃》」
俺の右手が光った。狼の攻撃と同じ動きで、俺の腕からも爪のような斬撃が飛び出す。
シュッ!
ガキィッ――!
空中で交差する爪と爪。火花が散り、狼の動きが一瞬止まる。
「次……《進化・爪撃》!」
俺の“爪”が、紫電を帯びた。狼の動きより速く、鋭く、強く――
ズバッ!
狼の胸元に深い裂け目が入り、鮮血が飛び散る。
倒れた狼は、苦しげに呻いた後、動かなくなった。
「……勝った」
手が震えている。自分が“殺した”という現実に、ほんのわずかな拒否反応が生まれたが――
「いや……これは、必要なことだ」
俺は異世界に来た。ここは、強くなければ生きていけない世界。誰かに守ってもらえるような、ぬるい世界じゃない。
「チート能力ってのは、使いこなせて初めて意味がある」
目を閉じて、スキル情報を呼び出す。
⸻
【スキルリスト】
《無限解析(インフィニット・リバース)》
▶対象認識:周囲の生物・物質を解析
▶スキル模倣:敵のスキルをそのままコピー
▶スキル進化:模倣したスキルを自動で上位互換に
【現在の習得スキル】
・爪撃(進化済)
・狼嗅覚(強化五感)
・夜目(暗視能力)
⸻
「……五感系スキルも使えるのか」
視界が少しクリアになり、遠くの音まで聞こえる。狼の匂いも鼻の奥に残っていた。自分の体が、まるで獣じみてきたような感覚すらある。
――そのときだった。
「……っく……たすけ……」
遠く、かすかな声。
解析スキルが即座に反応し、方向と距離を教えてくれる。
距離:約120m
対象:人間(女性)
状態:負傷/拘束/混乱
「女の子が襲われてる……!」
反射的に走り出していた。
スキルは、力を得るためにある。
だが、それをどう使うかは――俺自身が決める。
「やってやる……“こっち”の世界では、絶対に後悔なんかしない!」
最強の力を手に入れた少年は、森を駆ける。
次なる出会いが、運命を大きく動かそうとしていた。
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