魂継記
おふとん
第1話 契約
爺ちゃんが死んだ───。
優しくて大好きな爺ちゃんだった。
「お前は武田家の誇りだ。何があっても自分を曲げるんじゃないぞ。」って、誰よりも俺のことを褒めてくれた。
…なのに、葬式の記憶は曖昧で俺は空っぽになっていた。
「
家全体が揺れるような母の怒鳴り声が響く。
「今やろうとしてたとこ。あんまでかい声出さないでよ…」
暁斗は寝転がりながら気だるげに答える。
「口答えすんじゃないよ!ほらさっさと物置の整理でもしてきて!」
母が暁斗の顔面を踏みつける。
「わかったわかったって!暴力反対!」
暁斗は逃げるように物置へ向かう。
「ほんっと無駄に広いなこの物置…めんどくさいなぁ…」
長い間使っていなかったのだろうか、かなり古びていて埃っぽい。
異臭と不快感が顔にまとわりついてくる。
重くて汚い戸を開けると虫やらネズミやらが飛び出してくる。
「うわぁっ!!なんなんだよもう!!こんな汚ったないとこの整理なんてしたくないんだけど…」
顔をしかめながらも渋々物置の整理を始める。
真夏の太陽が照りつけていて汗が吹き出し続けている。
その時、古びた巨大な箱が視界に映る。
人でも入っているのかと思うほど大きく、酷く錆び付いている。
明らかに他の荷物とは違う、"異様"な雰囲気が漂っていた。
「なんだこれ…?気味悪いな…こんなでっけー箱に何が入ってんだよ…」
暁斗は興味津々な様子で箱を開けようとする。
「重っ…!」
箱は地面に根を張っているかのように重い。
ずっしりと重みのある蓋は非力な暁斗の力ではびくともしない。
「ほんとに何が入ってんだ…?ぜんっぜん開かないんだけど…!」
暁斗はイライラして箱を蹴り飛ばす。
ドンッ───
その瞬間。
『いってぇぇぇぇぇええええええ!!何すんだこんのバカタレぇ!!』
箱の中からは、信じられないほど図太く、怒気に満ちた怒声が聞こえる。
「うわぁぁぁぁぁあああ!!」
暁斗は腰を抜かしてひっくり返る。
半泣きになりながらも後ずさりする。
「な、なんなんだよこの箱ぉ!!まじで人間でも入ってんのかよぉ!?」
混乱する間もなく、あんなに重かった箱の蓋が吹き飛ぶ。。
その箱の中から現れたのは───宙に浮かぶ大剣だった。
『貴様かぁぁぁぁああ!!!この俺に無礼を働いておきながら生きて帰れると思うなよぉぉおお!!!』
宙に浮かんだ大剣から発された怒鳴り声が物置中に響き渡る。
大剣は酷く錆び付いていてボロボロだが、目に見えるほどの赤黒い殺意を放っている。
「ひぃぃぃぃいい!!ごめんなさいごめんなさい命だけはご勘弁をぉぉぉおお!!」
暁斗は泣き叫びながら、血が出るほど地に額を擦り付け土下座する。声は震え、呼吸は浅くなっている。
『問答無用!!!!八つ裂きにしてくれるわぁぁぁああ!!』
瞬時に刃先が暁斗の首元に向かってくる───
しかし刃先が触れる寸前で動きが止まる。
『おい小僧、貴様の名は何だ?』
重厚で威圧感のある声が暁斗に問いかける。
「な、名前…?た、武田…暁斗です…」
沈黙。
次の瞬間、先程までの刺すような殺気がふっと消える。
まるで何かが「確定した」かのように。
『そうか、やはり貴様が"継承者"か。見るからに貧弱だが…まぁ仕方あるまい。』
「け、継承者…?何の話をして…」
暁斗の声を遮るように大剣が語り始める。
『我が名は源晴信。かつて”武田信玄”と呼ばれていた者だ。そして──貴様は俺の血を引く者だ。』
大剣は暁斗に向かって堂々と言い放つ。
暁斗は一瞬のうちの情報量に圧倒され、開いた口が塞がらない。
『まぁ突然伝えられても困惑するだろうな。ならば俺の刀身に触れるがいい。』
「は、はい……?」
『俺の刀身に触れろ。さっさとするんだ。』
「な、なんで…怪我しちゃいますって…」
『口答えをするな。斬り殺すぞ。』
『ひぃっ…!わ、わかりましたからぁ!!』
暁斗は恐る恐る錆び付いた刀身に手を伸ばす。
彼の掌が刀身に触れた瞬間───
「っ………!」
鋭い痛みとともに、手のひらから血が溢れだす。
『おい暁斗。しっかりと見届けろ。』
「えっ…?」
暁斗の手のひらから流れ出した血液は、まるで意志を持つかのように錆び付いた刀身へと吸収されていく。
次第に刀身に付いていた錆が剥がれ落ちる。
刃は光を帯び、重厚で艶のある銀色へと蘇った。
同時に、左手の甲には黒い"武田菱"の紋様が浮かび上がる。
「な、何これ…何が起きてんの…?」
暁斗は手の甲の紋様を擦ってみるが消える気配はない。
『よし…契約成立だ。』
「は…?な、何の契約…!?承諾した覚えはないんだけど…!?」
『何だ?文句があるのか?』
暁斗の首元に巨大な刃先が突き立てられる。
「な、なんでもないです…で、でもこれ…一体何の契約なんなんですか!?」
ヒュッ──!
物置の壁を貫通し目の前を何かが通り過ぎる。壁には1本の弓矢が突き刺さっていた。
「ゆ、弓矢…!?」
『どうやら説明をしている暇はないらしい。
暁斗、俺を使え。』
「はぁっ!?いやいやムリムリムリムリ!!
こんな重いもん持てるわけないでしょ!?」
───足音が近づいてくる。
「だ、誰だ…?」
目の前に異様な甲冑を纏った男たちが現れる。
全員、日本刀を腰に帯び、顔は仮面で隠されている。
「一足遅れたか。まぁいい…武田暁斗だな?」
「そうですけど…何か御用でしょうか…?」
「あぁ、ここで死んでもらう。」
「…はい?」
暁斗が思考する間もなく男たちは刀を抜く。
「「「死ね。」」」
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