第28話
ハイベル主体の催し『バッタ狩り』。当初は三日から五日間での実施が予定されていたが、突如発生したイレギュラーにより中止となった。
稼ぐことを目的に参加している冒険者からは不満の声が出てもおかしくはない。だが特に混乱はなく閉会の運びとなっていた。仲間や同業者が命を落とす程の事態だったのだ。反対する者などいるはずがなかった。
「結局成果ゼロかぁ……とほほ」
「生きてるだけありがたいでしょ」
背中を丸めてマルタ平原を後にするアッシュと仲間達。他の冒険者同様に得られた報酬は想定を大きく下回っていた。稼ぐことが目的でないにしてもゼロという数字は中々に堪える。課外活動を継続するにも資金が必要なのだ。これからのことを考えればアッシュの反応も仕方ないだろう。
「次はどうするかなぁ……」
「ハイベルで休みましょ。ずっと硬い寝床は辛い」
テントは風を防げても地面の硬さを和らげることは出来ないのだ。良い寝具となればかさばり荷物になってしまう。必然的に質素な物となるのだ。
これからのことをアッシュとカリンが話しているが、口数が少なく最後尾を歩くグレイ。普段はチームのブレインとして導く上級生が思い詰めたように下を向いている。何が理由かは分からないが、きっかけは何となく理解しているアッシュとカリン。敢えて件の人物に触れないよう話題を提供していたのだが。
「……二人とも聞かないのか?」
「いや、だってなあ?」
「そんな暗い表情してたら誰も聞かないわよ。アッシュが空気を読むくらいなんだから相当ね」
「一言多いわ」
本人から直接触れられてしまえば避けようもない。話したくないことを無理に聞くつもりもないが、本人が言葉にすることで少しでも心が軽くなるならそれを否定するのは野暮である。ふざけるのをやめ真面目な空気に切り替え、発言を促す。
「俺の家は……王家と、シュヴァルツ王子と関わりがあったんだ」
今から十年以上前の話。グレイの実家は当時の王家、シュヴァルツ家に使える貴族家だった。国の重鎮とまではいかないが、王族に仕えることを許された名家として名の知れた家であった。
「……あったってことは今は」
「そうだ。十年前起きたヴァイス家の事件。それによって俺達ホットマン家は貴族の地位を剥奪されたんだ」
「そんな」
ヴァイス王家の裏切りにより王含めた王族全てが粛清された。幼かったシュヴァルツは
「貴族の立場を無くした平民。正直言って当時は子供ながらに大変だと思っていたよ。元からの平民よりも扱いは悪くなったから」
平民落ち。ヴァイス家の謀反にホットマン家が加担した事実はなく明確な証拠もなかったことから命までは取られなかった。――それでも世間から向けられる目は冷たく恐ろしかった。
「グレイはさ、あいつを、王家を恨んでるのか?」
「……分からない。俺は何を伝えたかったんだろう」
常時共に過ごしていたわけではないが、年齢が近いことから他の使用人よりも近くにいることは多かったとグレイは記憶している。さすがに忘れられているとは思えなかった。
「シュヴァルツ王子は、あんなにも
全てを拒絶した瞳。他者を蔑み自らが頂点だと疑わない傲慢さ。抜き身のナイフ。手負の獣。当時の印象とはまるで違ったいた。
「分からないことだらけってことか……」
「アッシュ的に言うとまた再会するってことなんでしょ? ならその時に分かればいいんじゃない」
「……会話はあんまりしたくないけどな」
げんなりするアッシュ。それを見て笑うカリン。結局のところ何も解決していないが、グレイの心は少しだけ晴れやかになっていた。
****
太陽が沈み月明かりが平原を照らす時間帯。
仮面とローブで身を隠すソレは闇夜に溶けているように映る。
ソレに感情はなく名前もない。目的から行動原理に存在理由の全てが作られた存在。刻まれた役割をただ機械的にこなすだけであった。結果は関係なく例え失敗しても問題はない。同じことをただ繰り返す。それだけである。
「……」
黒い靄を一体のプチバッタに浴びせる。夜になり活動を停止していた個体は靄の影響で急に活発になり、本来持ち得る生存本能を忘れ動き出す――はずであった。
「……」
「芸のない奴だな。同じ手に何度も煩わされてたまるか」
影から這い出た槍に貫かれ絶命したプチバッタ。黒い靄は霧散し何事もなかったかのように時間が流れる。
仮面は目にした。闇にも引けを取らない
「言語機能は有していないか。所詮お前も汎用品というわけか」
刻まれた指令通りに動いたソレ。だが結果は予定とは異なっていた。何故なら目の前の存在が阻んだからである。ソレよりも濃い黒を持つZが。
「……魔法の妨害、魔力の霧散。――そうか、お前はA番台だな?」
製造番号がどうこうとZは呟くがソレには何のことだか理解出来ない。あるのは刻まれた指令のみ。障害があるなら消す。行動原理に変わりはない。
身体に流れる黒を呼び起こし目前の敵に振るう。例え相手が格上であっても関係ない。役目を忠実に果たす。
――気付けばソレの胸を魔法の槍が貫いていた。
「何度も同じことを言わせるな。A番台の能力は既に掌握済みだ。多少の個体差があったところで影響はない」
流れ落ちる血。初めて見た赤は月光によって幻想的に照らされている。身体中の力が抜けソレは地面に倒れてしまう。
「A番台の
視界がぼやけ黒く染まってゆく。目的を達成したのかZは冷めた目で最後の言葉を残し立ち去る。
「じゃあな模造品。お前達が何をどう頑張ろうがオリジナルに届くことはない」
黒よりも濃い黒が闇夜に溶けて消える。
断罪王家の生き残り〜全方位敵だらけですが力で捩じ伏せます〜 塚上 @tsuka7226
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