第17話
「それではこれよりハイベル主催の『バッタ狩り』を開催致します!」
ハイベル市長の開会宣言と共に盛り上がりを見せる参加者達。町を挙げて企画された催しを前に高揚感を感じる。熱気と緊張に独特の空気。学園とは異なる雰囲気に少し戸惑いつつもこの期間中頑張ろうと思う。
「凄い元気ね。これみんな冒険者なの?」
「みんなじゃないけど、大半はそのはずさ」
今年入学したばかりのカリンに上級生のグレイが説明している。話によるとグレイは過去にこの『バッタ狩り』に参加したことがあるらしい。カリンと同じ一年生の課外活動のタイミングで出場したとのことだ。
「アッシュも初めてなんだろう? 良い経験になるといいな」
「ああ。学園の外での経験、楽しまないとな」
毎年恒例の課外活動。何をするかは自由。学生の主体性に委ねられている。崇高な魔術師に弟子入りする者がいれば、学園に籠って勉学に励む者もいる。国内を旅行気分で回る学生や、アッシュ達のように冒険者活動に挑戦することもある。
「私の故郷では冒険者は人気じゃなかったけど」
「俺もだな。去年ビックリしたなぁ」
「お国柄というのもあるけど、ハイベルは冒険者の街なんだよ」
クロム王国の外から来た留学生であるアッシュとカリン。国を跨げばどうしても文化の違いに触れることになる。学園内でもそれを感じるのだ。外に出れば顕著になるのも仕方ないだろう。
「そうなんだ……ところでアッシュは去年の課外活動何してたんだっけ?」
「う、それはだな……」
ニヤニヤしながらアッシュに尋ねるカリン。全員学年はバラバラだが彼らに遠慮はない。留学生二人と平民。これが国内貴族ならまた違ったのだろうが、わだかまりのない三人は自然と仲良くなった。
「私初めてだからよく分からないんだぁ」
「もうその話はしただろ! はい、終わり、お終い! バッタゲットに集中するぞ」
「はは、捕獲じゃなくて討伐なんだけどな」
去年のアッシュの課外活動。端的に言えば中々に酷い内容だった。留学一年目ということもあり気負っていたのも理由だが、勘違いと無鉄砲が重なり黒歴史になっていた。活動中に上級生のグレイとの出会いがなければ、アッシュの不名誉なあだ名は学園内だけではなく、国中に広がっていたことだろう。
「……聞いたかよ。例の奴が参加してるらしいぜ?」
「聞いた聞いた。なんでもハーフエルフとパーティを組んで乗り込んできたらしいな」
三人がアッシュイジりで盛り上がるところに耳に届く声。近くにいた冒険者達が何やらヒソヒソ話をしている。
「元王族がハーフエルフと組むのか。落ちるところまで落ちたもんだ」
「裏切り者なんだから当然だ。ハーフエルフに縋るしかなかったんだろうよ」
会話の内容は聞いてて気分が良くなるものではなかった。悪意や憎悪、マイナス感情を強く感じる。
アッシュとカリンの疑問符を見てグレイは移動を促す。
「ねぇ、さっきのあれって?」
「うん。何か嫌な感じだな」
学園でも偶に聞くことのある内容。表立って話せる内容でもないのか、外国人である二人はクロム王国の実情を深くは知らないし、聞くことも憚られる。学園の外ではそういう面では色々とやりやすい。
「クロム王国の前身、それは二人も知っているだろう?」
「うん、十年前だよねたしか」
当時の王、そして王家の裏切り。宿敵であり敵対国だったとある国と秘密裏に繋がっていたとされ、粛清されたヴァイス。一族もろとも王都で斬首されたのだが、何故か一人だけ処刑を免れた王子がいた。
「その王子様が参加してるってことか」
「……年齢は俺達と近いはずだ。本来なら学園にも通ってたんだろうね」
黒髪の大悪党。旧王家であるヴァイス家の家紋が刺繍された衣服を今も尚堂々と身に纏うその異常性。国民からすればヴァイスは嫌悪の対象である。それを誇示するかのような振る舞いは一種の挑戦と捉えられ、余計に感情が逆撫でされるのだ。
「詳しいことは知らないけど、今も生きてるなら許されたってことじゃないの?」
「俺達と歳が近いなら当時は子供だったってことだもんな」
当時五歳程度なら国の裏切り行為とやらに関与していた可能性は低い。だからこそ生かされたのなら、ここまでの憎悪を向けるのはお門違いではないかと外国出身のアッシュとカリンは思うのだ。
「旧ヴァイス家と
深い愛情の裏返しは憎悪となる。もしかしたらそれに似ているのかもしれない。
「まぁ、俺達が気にしても仕方ない問題だ。プチバッタの討伐、そして冒険者活動を知る。俺達の目標達成を頑張ればいいさ」
討伐作戦はスタートしている。我先にと冒険者達はすでに動き出しているのだ。彼らに負けぬようにアッシュ達も行動を開始するのだった。
****
『バッタ狩り』が始まり一時間程経過していた。今頃好スタートを切ったパーティ達は討伐に勤しんでいることだろう。初日は開会宣言もあり、本来なら横並びのスタートになるはずなのだが、やっと野営地から出たパーティが一つ。周囲には当たり前のように誰もいない。物静かなマルタ平原にポツンといる四人。――エミリア達臨時パーティである。
「……すみません。私のせいです」
「アナタが悪いわけじゃないわよ」
本来の予定なら開会宣言に間に合うように移動を開始するはずだった――否、実際そうしたのだ。馬車は使わず自分達の足で移動していたのだが、何故か冒険者達の姿がなかった。
「まさか、開始時間を早めて私達にだけ伝えないとか。用意周到すぎるでしょ」
野営地の最先端に拠点があったのも災いした。他の参加者達の動きが分からないくらい離れているのだ。これで察するのは色々と無理がある。
「荷車はない。移動距離もハンデ。……これ厳しいんじゃないかしら」
「一時間以上遅れてます……」
歩きながら実情を確認するがネガティブな情報しかない。プチバッタのコロニーを叩く名目なのだがそれが一匹もいない。狩り尽くされたわけではないのだろうが、中々に堪える状況である。のどかな光景が余計に虚しく感じてしまう。
「せめて四人分はしっかり稼がないとね」
「頑張ります! プチバッタなら私でも倒せると思います」
「……」
拳を握るクリンを真似ているのか少女も同じようなポーズを取る。
クリンが言うようにプチバッタは討伐難易度の下層に位置する。つまりは弱い。今回の依頼のように五体満足での納品の方が難しいくらいだろう。……そもそも現状だとその影も形もないのだが。
「シュヴァルツもそれでいいわよね?」
「問題ない。お前達の存在がハンデだからな」
何一つ期待していないと罵り歩を進めるシュヴァルツ。昨日に続き感情を乱すことのない様子に少しだけ違和感を感じるエミリア。本人の性格からして'仕方ない'で済ますとは思えないのだが。
「……あれ? あちら側から誰か来ますね」
「本当ね。トラブルかしら?」
荷車を引きながらこちらに向かってくる三人の影。エミリア達とは進行方向が逆。引き返してきた形である。
何となく嫌な空気を感じるクリン。エミリアも同意見なのか顔を見合わせる。――ただ一人、シュヴァルツだけは不敵な笑みを浮かべていた。
「……掛かったな」
****
互いの姿がはっきりと認知可能な距離まで近付く。通常ならすれ違って終わりなのだが、案の定ともでも言うべきか、三人の男性冒険者と思われる者達が絡んできた。
「ん? 見ろよZがいるぞ」
「マジかよ。元王族がバッタ狩りに参加してやがるぜ」
「惨めだな。そんなに生活が苦しいのか?」
ゲラゲラと笑う冒険者。あたかも偶然出会ったかのような言い分だが、明らかにこちら目掛けて進んできていた。遠くからでも目立つシュヴァルツの黒髪を見たからか、出遅れていたエミリア達に絡むことが目的だったのか。どちらにしてもタチが悪い。
「ハーフエルフの女に拾ってもらったらしいな」
「情けねえ。誰にも相手にされないから混ざり者と群れるのか?」
「……なんか変な女がいるな。こいつもハーフエルフか?」
好き勝手に騒ぐ冒険者達。少女は不思議そうな顔をして彼らを見ている。その様子がおかしかったのかハーフエルフ呼ばわりしてくる……ハーフエルフよりも異端である人工生命体であることも知らずに。
「……私達はプチバッタの討伐に向かう最中よ。邪魔しないでくれるかしら」
「もう一時間以上経ってるぜ。しかも荷車無しに? 手で運ぶつもりかよ」
「どんだけ金が無えんだよ。受付でレンタル出来るはずだけどな?」
こちらの事情を知っている。分かった上で馬鹿にしているのだ。荷車に積まれた大量のプチバッタを見せつけ嫌な笑みを浮かべる。
「アナタ達には関係ないでしょ。……さあみんな行くわよ」
少女の手を引きながら避けて進もうとするエミリア。だが冒険者にその気はないのか、剣を地面に突き刺し道を塞ぐ。
「……どういうつもりよ?」
「――目障りなんだよ。Zだか何だか知らねえが、結局は売国奴の犯罪者だろ」
杖に籠手、絡んできた冒険者達はそれぞれが武器を構える。
「ハーフエルフが何で人間様の国に混ざってんだよ? 大人しく森に帰れ半端者が」
憎悪に敵意。明らかな敵対行動と殺伐とした空気を前にクリンは震え上がる。少女は無反応、エミリアも毅然とした態度で相手を睨むが内心は不安だった。自分よりも体格の良い男の冒険者。ハーフエルフを差別する人間に対して少なからず恐怖心を抱いてしまう。
「そんな法律はこの国にはないはずよ」
「暗黙の了解なんだよ。――分からねえなら今ここで理解させてやるよ」
振り上げる拳。ただの一発ではない。魔力を纏わせた強化された一撃である。小競り合いになったとしても、ここまではっきりした武力行使に出るとは想定していなかった。魔法使いのエミリアに杖無しに応戦する力はない。せめて背後にいる少女だけでも守らなければという想いから歯を食いしばる。――恐怖から目を開けることは出来なかった。
――鈍い音が聞こえる。
エミリアが殴られた音かと思ったが痛みはない。目を開くと黒髪の嫌われ者がエミリアの前に泰然と佇んでいた。
「随分と軽い拳だな」
「⁉︎」
目を見開く冒険者。拳がシュヴァルツの顔を捉えているが、顔色一つ変えることなく煽る。何故か拳を振るった側の冒険者の方が拳から血を流している状況に目を丸くする。
「お前、ハイベルの冒険者じゃないな?」
「だ、だったら何だよッ!」
更に二発三発と殴るがシュヴァルツは微動だにしない。対照的に冒険者が流す血は増えてゆく。
「最近はカモが消えてな。退屈していたところだ」
「な、何なんだこいつは⁉︎」
殴るのやめ距離を取り地面に刺していた剣を握る男。先程までの勢いはなくなり、目には恐怖の色が浮かんでいる。他の二人も同じように手が出せないでいた。
「何やってんだよッ⁉︎ こんな餓鬼、三人でかかれば直ぐにやれるだろ……」
「な、ならお前がやれよ! 魔法で薙ぎ払え!」
拳から滴り落ちる血を見て手を出した本人と周りは動揺を隠せない。
「そう悲観することはない。本能で理解しているんだろうな。――王の威光にひれ伏す愚民共め」
――初動は誰にも見えなかった。
ブレるようにシュヴァルツの姿が一瞬消えると同時に件の冒険者は
「「……は?」」
残された二人は呆けたまま。エミリアは遅れて気付くが、シュヴァルツがやったことは単純。手を出してきた冒険者をただ殴ったのだ。拳を振り上げ上空へと。
「お前も舞うか?」
どさっと地面に落ちてきた冒険者は気を失っている。顔面は酷い有様である。
「ま、待て……ちょっとした冗談だ」
「冗談だと? ジョークでお前らは他人を殴るのか? だったら俺もその冗談とやらをやってやろう。笑えるだろ?」
魔術師は杖を握ったまま空を舞う。シュヴァルツの一発を防御無しでまともに喰らったのだ。同じように上空へと向かう。
「目には目を……先に手を出したのはお前達だ。これは正当防衛だよな?」
「お、俺達が悪かった。だから……」
「許せと? ――バカが、お前らみたいなゴミは二度と歯向かえないよう躾が必要なんだよ」
二人目が地面に落下すると同時に鈍い嫌な音が響く。三人目は宙を舞うことなく大地に叩きつけられていた。一番ダメージが強かったのか血と泡を口から流している。意識は飛んでいるのか他含めて誰も動かない。
――決着は一瞬、勝負にすらならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます