第13話

 翌朝。

 ホテルのロビーで一人ソファに腰をかけるシュヴァルツ。スタッフから出された紅茶を嗜んでいた。


「シュヴァルツ! アンタ騙したわね!」


 エミリアが昇降機から降りてズカズカとエントランスに入ってくる。その様子を真似ているのか少女もズカズカと足音を立てながら後に続く。


「……朝から品のない奴め。ハーフエルフは皆こうなのか?」


「アンタがそうさせてるんでしょ!」


 フンフンと怒っていますとアピールするエミリアに対して煩わしそうに顔を顰めるシュヴァルツ。ホテルの騒がしい朝は久しぶりなのか支配人やスタッフ達も目を丸くしていた。


「この子ホントに何も出来ないじゃない!」


「だから言った。面倒を見ろと。一晩寝て忘れたか?」


 水は飲めない。食べ物の食べ方も分からない。シャワーにトイレ、着替えに睡眠と全てを補助しなければ日常生活が成り立たないレベルだったと話すエミリア。


「……まあ、一回教えたら直ぐに覚えたんだけどね」


「ヴァイスの血が流れているなら当然だ」


 ただ、まだ言葉は出ていない。頷いたり欲しい物に手を伸ばす仕草はあることから自我はしっかりと存在するのだろう。少なくともゴーレムではない。


「ふん、どうでもいいがな」


 ソファから腰を上げるシュヴァルツ。受付に鍵を投げ渡しそのままホテルを出ていく。エミリアも鍵を返してその後を追う。


「いってらっしゃいませ」


 彼らの背中に支配人達の声が届く。




****




 朝のハイベルを三人連れ立って歩く。比較的早い時間帯ではあるが行き交う人々の姿が目に入る。

 朝一で協会に向かう冒険者。その冒険者相手に商いをする商人。住民向けに食材を売る市場の者達。朝から活気に溢れていた。


「いつも賑やかよね。アンタはこの街長いの?」


「ハーフエルフの老いぼれと一緒にしないでもらおうか」


「⁉︎ 見た目通りの年齢よ私達は!」


 エルフやその血を引く者は人間よりも長く生きる。数倍単位の時を刻むエルフ族は見た目と年齢が大きく乖離することも多い。長く生き様々な知識を持つエルフは、それを理由に他種族をナチュラルに見下すこともあり時折トラブルに発展することもあるのだ。


「ハーフエルフはね、成人くらいまでは人間と成長スピードは変わらないのよ」


 流れる人間の血がそうさせているのか、ある程度の年齢までなら人間として生きることも難しくはない。問題なのは一定のラインを超えたタイミングである。

 そろそろ引退かと話をする人間の傍ら、肉体的な衰えがなく、寧ろ魔力が増え相対的に強くなるハーフエルフ。そんな彼らを見て違和感を抱く人間。――そのタイミングで姿を消し、新たな環境で一から始めるのがハーフエルフの冒険者なのだ。


「身バレしたからハイベルから出ていかないといけないんだけどね……」


 ハーフエルフは人間と真の意味で共存は出来ない。それがクロム王国に住む人々の一般的な考えである。エルフ族が人間を見下すように人間もまたハーフエルフを嫌悪している。過去の歴史を振り返れば、悪魔狩りとしてハーフエルフが大量虐殺されたこともあったのだ。そして、それに反抗したハーフエルフの武闘派集団。戦争レベルの争いは両陣営に甚大な被害を齎した。


「この子、どうしようかしら……」


 フラフラとおぼつかない足取りの少女の手を引きながら歩くエミリア。最初は得体の知れなさに少し恐怖も感じていたが、今は放っておけない気持ちが強くなっている。

 少女の現状は大きな赤子といったところだろうか。このまま一人世界に放り込まれたら確実に良くない未来が待っていることだろう。――人工生命体の問題もある。


「煮るなり焼くなり好きにしろ。誰も強要はしていない」


「アンタね……ここまで関わってサヨナラはないでしょ」


「ハイベルを出ていくと言ったのはお前だ。……この先赤の他人の視線を気にしながら生きていくのか。使えない奴め」


 シュヴァルツの言い分にイラッとくるエミリア。正論だからこそ時に人を傷付けることがあるのだと説教したい気分になる。


「連れて行きたければ好きにしろ。放置したいなら捨てておけ。どうするかはお前が決めろ」


 エミリアと少女の視線が重なる。初めは認識されなかったが今ではエミリア個人をしっかりと見ている少女。……餌付けの側面が強いのは若干引っかかるが。


「ハーフエルフの連中は見ていてイライラする」


 自然に口から出てくる罵倒。

 これまで見てきたハーフエルフは皆何かを恐れオドオドしていた。必要以上に周囲の目を気にして適度な距離を保とうとする。シュヴァルツからしてみれば、その姿は滑稽で情けなく欺瞞に満ちていた。


「後ろめたさをがないなら堂々としていればいい」


「⁉︎ ……みんなアンタみたいに強くはないのよ」


「当然だ。俺がナンバーワンだ」


「……ふふっ何よそれ」


 突然笑みを浮かべたエミリアを見て不思議そうにする少女。シュヴァルツは気にせずどんどん先に進んで行く。

 元王族にハーフエルフ、そして人工生命体。纏まりのない三人が冒険者協会に到着する。

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