第9話 タイトルのないお話(6)
雲の隙間から青空がのぞいているけど、ちらちらと小雪が舞っている。
一人取り残された公園でついた大きなため息が冬の青空に溶けて消えた。
「他に好きな人ができた」
その一言で恋があっけなく終わった。バレンタインの準備もこっそりしていたのに全部台無し。
苦い想いだけが残った。
二人でいろんな夢を見ていたかった。
君が語ることが虚言だとしても、キラキラ輝いて眩しかったし、一緒にいるととても楽しかった。
恋バナで盛り上がったし、人生について真面目に語ったりもしたね。
最強の二人だと思ってたんだ、君がいれば強くなれるってあの頃の私は思っていたんだ。
カップの中身をスプーンでくるくるとかき混ぜる。
大きな渦を描いて砂糖が溶けていく。
悩みも重たいため息も一緒にこの渦に飲み込まれて溶けてしまえばと願う。
ぐるぐる回っている渦の中にミルクを落とすと、一瞬で優しい色に変わるけど、飲み込んだらほんの少しだけ苦くて涙がこぼれた。
他の子とあってなかったことにホッとすると同時に、小さなことで一喜一憂してしまう自分が嫌になる。
神様、どうしたらこの気持ちを消すことができますか?
ただの友達なのに、友達以上の何かを求めてしまう自分が嫌。
友達のままでいたい、ずっと側にいたいと願うたびに胸が焼けるように痛い。
こんな気持ち、知りたくなかった。
友達としてずっと君の隣にいたかった、ただそれだけでよかった。
暴れだす想いを必死で押さえつけて、いつもと同じように君の隣で笑うことが辛すぎて泣きそうになる。
君がとても素敵な人だったから好きになってしまったけど、このまま君の隣にずっといたいよ。
チクチク刺さる棘に気づかないふりをして微笑む裏で涙を流す。
そんなの知ってたよ、だけど聞きたくなかった。君の好きな人の話なんて。
嬉しそうに話すから笑顔を張り付けてうなずいているけど、今すぐ耳を塞いでここから走り去りたい。
どうしてきみの好きな人はボクじゃないんだろう。
編み物をしてるあたしに付き合ってお母さんが夜遅くまで一緒に起きていて、たわいのない話をしていたあの夜が恋しくなる。
もっぱらお母さんの職場の話を聞いてるだけだったけど、それがなんだか楽しかったし早く大人になりたいと思った。
寒い日のあたたかな思い出。
巨大な冷蔵庫の中に入るとエレベーターになっていた。
とりあえず上に行くボタンを押してみる。普通のエレベーターみたいに静かに上に登っていく。
音も鳴らず到着すると、静かにドアが開いて雲の上についた。
どこまでも続く青の中を歩いていたら、空に溶けた。
もう二度と人を好きになるつもりはなかった。
一人静かに人生の終焉を迎えるその日をただひたすら待っていたけど、あなたと出会って恋をしてしまった。
最後の恋と決めて気持ちを告げるつもりもなかったのに。
今はいつかこの想いが星が消えるように自然に空に還るのをただ待ち続けている。
もし、君と話すことができたら君はどんなことをいうのだろう?
いつも穏やかに笑っているけど、寝相が悪くて夜中に投げられるとか言われたりするのかな?
そんな話でも君と話せるのはきっと楽しいと思う。
1日だけの魔法が使えるなら、君とおしゃべりしてみたいな。
「一緒にチョコ作ろう」チョコを貰いたい相手から誘われて一緒に作ることになってしまった。
誰に君は手作りチョコをあげるんだろうと上の空で手伝っているうちに作業が終わっていた。
「君に一番にあげたかったの、ちなみに本命だから」
お皿に乗ったチョコレートケーキを真っ赤な顔の君が差し出す。
冷たい北風とともに戻ってきた手編みのマフラー。
あなたの好きな色の毛糸で睡眠時間を削って一目一目丁寧に編んだのに。あなたの笑顔が脳裏をよぎる。
行き場をなくしたマフラーに私の上に冷たくきれいな花が降り積もる。
六花がすべてを覆い隠すから少しだけ泣いた。
何気ないLINEのやり取りが嬉しくて、君の悪ふざけにふふって笑ったりして。
そんな時間がいつまでも続けばいいのにと願うけど、いつかは終わってしまうのかなって寂しくなったりして。
気づかれないようにさりげなく話題を変えた。
季節が何度巡っても君と笑い合えたらいいのに。
短い文字に隠した君への恋心、どうか君は気づかないでいて。
今もまだ消せずにいるこの想いを文字にしたためて電子の海に流すから、君にどうか届きませんように。
君の前では友達として笑うからどうか抑えきれない想いを流すことに一生気づかないでいて欲しい。
ちゃんと向き合えるようになる日まで。
やらかしには叱ったけど、すっかりしょげかえってる旦那を見てかわいそうになって、ずっと食べたいって言っていたお菓子を作ることにした。
これで少しは元気になるといいんだけど…。
苦笑いを浮かべながらお菓子を作る。たくさん作ったから喜んでくれるといいな。
誰もいない広い家に成り行きで飼い始めて今はすっかり老猫になった彼と老いた母。
北風が吹きすさぶ寒い夜に、一体何を想うのだろう。
遠い昔を懐かしく思い出したりすることがあるのだろうか。
きっと今頃こたつの中でお茶を飲みつつテレビを見ているんだろうな。
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