第2話 タイトルのないお話(2)
積み重ねたものすべてが一瞬で残酷に砂の城のように壊れてしまう。
どれだけ相手を想っていても、どれだけ大切にしていても戻ることのない時間。
「置いて行かないで、一人にしないで」
自分の寝言で目が覚めた時、頬から涙が溢れていた。
夢であって欲しいと願っても、それは戻ることのない現実。
カーテンの隙間から日差しが差し込む。
眩しくて布団を頭から被ってギュッと目を閉じる。
何も見たくない、何も聞きたくない、できることならこの世界から消えてしまいたい。
涙ももう枯れた。
薄暗い部屋の中で、一人静かに世界の終わりを今か今かと待っている。
目を閉じ耳を塞いで。
天気予報を見て声をかける。
「今日すごく冷えると思ったら3度だって」返事はない。振り返ってみるとヘッドホンをしてモニターとにらめっこしてる。
あたしは板切れにでも話しかけてるような気がして虚しくなる。
これならぬいぐるみに話しかけてるほうがまだマシ。ほんとアホらし。
あなたの優しさは陽炎。確かに見えるのに触れることも近づくこともできない。
温度もなく、ただそこに見えるだけ。存在してるようで存在しない影のようなもの。
あなたの存在がきっと夢の中。あたしは優しい自分に都合のいいだけの夢に溺れていた。
気づいてしまったからおしまい。
声をあげて子供のように泣いた。
ずっと泣き方を忘れていた、ほんとはずっと泣きたかったんだ。
ぬいぐるみに顔を押し付けて、子供のように泣きじゃくった。
泣くことは乗り越えるための必要な儀式。
憑き物が落ちたようにスッキリとして顔をあげる。
にこっと笑ってみる、もう大丈夫。
あたしばかりが願望を口にして、あなたは否定も肯定も返してくれなかったね。
一方通行だったってやっと気づいた。
あなたの優しさは人を深く傷つける。優しさに見せかけたナイフだった。
やっと気づいた、痛みにやっと気づけた。
一人で歩けるから平気だよ、大丈夫。
今までありがとう。
空に飛び込んでどこまでも遠くに行きたい。
疲れたらふかふかの雲に包まれて休もう。
空の深い青に溶け込むことができたら、この空のどこかにいる大切な人ともう一度巡り合えるそんな気がして。
大切な思い出を胸に抱いて、この空を泳ぐ。
もう一度あの日に出会うために。
あっという間なようで、長かった10数年が肩に圧し掛かる。
心に開いた大きな穴を北風が通り抜ける。
「意外と大丈夫だと思ったんだけどなぁ」弱音とため息がこぼれ落ちる。
望むのは「君に幸あれ」それだけだ。
最後に少しぐらいは強がりは許されていいはず。
バイバイ、過去になった君。
言葉を毛布にできるのならあなたに何枚でも届けたい。
「いつも素敵をありがとう」恥ずかしくて伝えられないけど、いつもあなたがくれる素敵に元気をもらってる。
「心がじんわり温かいです」あなたがそう言ってくれるのなら、言葉で優しさで幾重にもあなたに届けたい。
貴女がいないこの世界に興味はない。
全てが生気を失い色褪せるだろう。
貴女という花が存在しないのだから。
私はそんな世界に興味もなければ未練もありません。
どうか貴女が逝く時には私も連れて行って下さい。私を一人この世に取り残して逝かないで。
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