140字小説まとめ
桜井真彩
第1話 タイトルないお話(1)
ここの家に来てから1年が経つ。
部屋の一部になったのかわからないけど、どうも家主に忘れられている気がする。
我を見たときはかわいいってはしゃいでいたのに、気が付いたらいつも何かが我の目の前にかかっているのだ。
「これカーテン止める奴?いつからあるんだっけ?」
家主に忘れられていた。
「うっわー。この子かわいい、お迎えしたい」SNSで流れてきたかわいいぬいぐるみ。
ネット通販してないかなぁって公式を確認してみる。
「うわ、個数限定。あ、こりゃ無理だ。ごめんね、お迎えできない」
現実(値段)を見てため息をつく。
見た目はかわいいんだけどね、現実は世知辛い。
ランドセルと鈴の音を鳴り響かせてかけていく子供たち、元気いっぱいでその瞳にはまだ翳りもなく、きっと嫌なこともすぐに楽しいことで書き換えられてしまうのだろう。
早く大人になりたいなんて思ってるのかもしれない、大人なんていいものじゃないぞ、と心の中で呟いた。
薄暗い部屋で大切な友達をギュッと抱きしめる。
何も言わないけど、あったかくてふわふわで悲しみも淋しさも痛みも全て引き受けてくれる。
抱きしめてるだけで眠たくなるぐらいの安心感に包まれる。
君は自力で動けないし、話せないけど大切な友達。
ずっと側にいてね。
意識がすっと遠のいていく。
あなたはまるで幽霊のよう。
熱はなく手を伸ばしても素通りしてしまう。
確かにそこにいるのにまるで実体がなくて、声は届くのに温度がない。
優しさもなにもかもが実体を伴わない幻で、それがただ虚しくさせる。
どれだけ言葉を並べてもあなたには届かない。
まるで空に溶けていくよう。
「好き」なんて言わないで。
遠くなっていく背中に縋りたくなる。
何も与えないで、お互いに傷つけ合うぐらいなら。
嘘でできた優しさなんていらない。
滑稽に誰もいない舞台で踊り続ける、糸の切れた操り人形みたいなあたしを笑うがいい。
誰も戻ってこない舞台でいつまでも踊り続ける。
孤独を選択するのは平気。孤独にされるのは嫌い。
真っ暗闇で音のない世界に突然取り残されたような気がする。
誰かに取り残されるぐらいなら、最初から誰とも関わらないほうが幸せだ。
誰かの温もりを知ってしまったら、知らなかった頃には戻れない。
最初から一人でいたほうが幸せだ。
どんどん視野が狭くなっていくのがわかる。
息苦しくて、淋しくて、悲しい仄暗いこの世界。
何のために生まれてきたの?何度も何度も問いかけるけど答えはわからない。
この手を必要としてくれる人がいたらその手に救われるだろう。
何もない空虚の中で何を信じたらいいの?
ポップなクリスマスソングが心の中も寒くする。北風だけで十分なのに。
今年はどんなケーキを買おうかな。あ、コンビニでチキンも買っちゃお。
なんとなくお祭り騒ぎに便乗してみるけどただの平日じゃん?
それに神様の誕生日なんて言われても関係ないし。
雪とか降らないといいなぁ、寒いし。
「当日券買っちゃった」嬉しそうな友達の声に涙が出るほど笑う。
「あたし、そんな大層なもんじゃないし、前売り券も当日券も必要ないよ?」
ただの一般人なのに話すだけでそんな券が存在してたまるか。
ただ予定が合わなかっただけなのに。
でも友達が嬉しそうに笑うから、今日は当日券発行記念日。
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