玲奈への手紙

よぉ。元気してるか、お人好し。

いや、冗談じゃなくて。マジで、最近のあんた、顔に疲れ出てるって気づいてないだろ。

そのうち誰かに「頑張りすぎだよ」なんて言われて、泣くんじゃねぇかって心配してんだよ、俺が。


ま、俺に心配されるのもムカつくだろうけどさ。

だけどな――あの一件、まだあんたの中で終わってねぇよな。


覚えてるか? あの夜のこと。

美術室で、キャンバスの裏に貼られてた“アレ”。

最初に見つけたのは、俺だった。でも、触れなかった。

あんたが来て、目を見開いて、何も言わずにその場を立ち去ったのを見て……それが答えだと思った。


誰がやったかは、俺は言わねぇ。

ただ、アレを見た瞬間、あんたの表情が曇ったってことは覚えてる。

驚きとか、怒りじゃなくて――痛みだったな。

誰かに裏切られたような、そんな顔してた。


あれ、あんたが描いたもんだろ?

違うかもしれない。でも、俺にはそう見えた。

筆跡じゃねぇ、色の選び方でもない。

ただ、そのままの絵が、あんたの内側を映してるように感じた。


それが他人に勝手に晒されてた。

しかも、悪意のある形で。

誰がやったかなんて、もうどうでもいいんだよ。

でも、俺は――悔しかった。


俺が守るって言ったよな。あの時、あんた笑ってたじゃねぇか。

……冗談だと思った? いや、マジだよ。

俺、昔から口悪いし、喧嘩っぱやいし、正直うるさい。

けどな、好きなやつのことだけは、絶対に黙って見過ごさねぇ。


それでも、あんたは何も言わねぇんだよな。

「いいよ、気にしてないから」

「私なんて大したことないし」

……ああ、そうやって、自分を安く見積もって生きるのが、あんたの癖なんだろうな。


でもな、それ、もうやめろ。

あんたの価値を決めるのは、誰でもねぇ。

俺でもねぇ。……けど、少なくとも、目の前で苦しんでるやつを見て、何もできない自分を俺は許せねぇ。


だから書いてる。今さらだけどな。


この手紙、届くかどうかも分かんねぇ。

でも、もしあんたが読んでくれてるなら。

たまには「助けて」って言ってみろ。

俺がどうにかしてやるから。


……ったく、俺らしくもねぇ。

だいたい、こんな手紙なんか書く柄じゃねぇのに。


ま、たまにはいーだろ。

誰にも見せんなよ。見せたらマジで怒るからな。

じゃあな。

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