ひかりがみえない時

sui

ひかりがみえない時

ある日、世界から色が消えた。

赤も、青も、金もなく、すべてが灰と白のまじる影となった。


人々は慌て、科学者たちは理由を探したが、誰にもわからなかった。

ただひとつ、色がまだ残っている場所があった——それは、眠っている人の夢の中だった。


眠りについた人々は、美しい色彩の世界を見た。

けれど目覚めれば、現実はまた、色のない静寂だった。


少女ノアは、夢の中で一人の青年と出会う。

彼は名を名乗らず、毎晩、彼女に一輪の花を手渡した。

それは、夜明けとともに必ず消えてしまう小さな青い花。


ある朝、ノアが目を覚ましても、手に花が残っていた。

そのとき、彼女の部屋に、はじめて色が戻った。


人々は気づいた——「誰かの夢が、現実を染めなおす」ことを。


ノアは今も、夢で花を受け取り続ける。

世界に、ひとつずつ、光と色を戻すために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひかりがみえない時 sui @uni003

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る