生成AI作・掌編小説集
卯月 幾哉
猫語翻訳機、ときどき嘘★
「にゃーん」
腹の上に乗った三毛猫のミケが、重々しくそう鳴いた。すかさず、スマホの画面にポップアップが表示される。
『訳:おい、人間。そろそろ朝飯の時間だぞ。最高級のカリカリを用意しろ』
これが、俺が昨日三千円をはたいて買った「猫語翻訳マスター」の実力だった。まあ、大体そんなことだろうとは思っていたけれど。
アプリの評価は散々だったが、一つだけ「時々、真実を語る」というレビューが妙に気になったのだ。しかし、翻訳されるのは「撫でろ」「寝る」「そこをどけ」といった、猫らしいといえば猫らしい、素っ気ない要求ばかり。期待した俺が馬鹿だった。
その日は、仕事で大きなミスをして、部長にこっぴどく叱られた。疲れ果ててソファに沈み込んでいると、ミケがそろりと隣にやってきて、膝の上にちょこんと座った。そして、俺の顔をじっと見つめて、優しく鳴いた。
「……にゃあ」
スマホが、静かに振動する。どうせまた「撫でろ」だろう。そう思いながら画面に目をやった俺は、息を呑んだ。
『訳:ずっと、そばにいてくれてありがとう』
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。なんだよ、これ。偶然か? だが、タイミングがあまりにも完璧すぎる。俺の目から、ぽろりと涙がこぼれた。ミケは逃げるでもなく、ただ静かに俺の涙を受け止めていた。
その直後、スマホが再び震え、非情な通知が表示された。
『お知らせ:本アプリはジョークアプリです。表示される翻訳は、内蔵辞書からランダムに選ばれたものです』
……だよな。やっぱり、そうだよな。一瞬でも信じかけた自分が、途端に馬鹿馬鹿しく思えてくる。俺は自嘲気味に笑いながら、涙を乱暴に拭った。
すると、ミケがすっくと立ち上がり、おもむろに前足で俺の頬を、ぽふ、と優しく叩いた。そして、もう一度だけ、まっすぐ俺の目を見て鳴いた。
「にゃーん」
何気なく、もう期待もせずにスマホの画面を見た。そこに表示されていた言葉に、俺は全ての思考を停止させた。
『訳:信じたい言葉を信じればいいじゃないか、人間』
(了)
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