第21話 特別な宙域

 ◇◇◇◇◇◇◇


 ◇管理者シエナの視点◇

 凛夢が木花神社に訪れシエナの隕石によって記憶の最後のループへと向かった後―――――




(ようやくここまでやってこれました)


 シエナの落とした隕石はエデンの全てを吹き飛ばし、エデンは再起不能となった。


 そして管理者によって、新たにエデンは再生し、同じ宙域でもう一度その歴史を歩み始めた。

 エデン周辺宙域は特別な宙域で、その宙域だけ星系の原初から何度もやり直している。

 この宙域は他のあらゆる宇宙と繋がっており、そして繋がっていない。

 普通の方法ではこの宙域にたどり着くことはできず、特別な方法でのみこの宙域に入ることができる。

 その方法さえ知っていれば、どの宇宙からでもアクセス可能だが、方法を知らないとどの宇宙からもアクセスできない文字通り特別な宙域だった。

 エデン周辺は繰り返しているが、他の宇宙の時間は進んでいる。

 この特別な宙域を維持し、そして繰り返すことができるのは、管理者がO・Aオリジン・アーカーシャと呼ばれる【世界の記録】から一部その知識を借りることのできる権限があるからだ。

 【世界の記録】のそのすべてを見ることは何者にも叶わず、仮にその全てを見ることができる者がいたとするならばそれは【全能者】と呼ばれるだろう。

 しかし管理者たちは【世界の記録】の全てを見ることができないとはいえ、上位の者になれば宇宙の創造すら可能という神のような能力を有している。

 そんな者たちで運用管理されているエデン宙域、他の宇宙からは消えた宙域、【ロスト・エデン】宙域と呼ばれていた。



 ◇ 


 そんな特別な宙域の原初のときに、管理者たちは高位次元に集まっていた。



管理者イオド「しかしシエナ殿、いくらエデンの筆頭管理者とはいえいきなり隕石で終わらせるのはもったいないのではないか?」

管理者カーター「そうだ。独断で終わらせるのはいささか越権行為というもの」

管理者シエナ「それは…すみませんでした。以後気を付けます」

管理者カルト「別にどうせ繰り返すのだからどうやって終わらせようと一緒ではないか」

管理者イオド「そうは言うが、繰り返すとはいえ終末まで持ってくるのは長い時間がかかるのだぞ」

管理者カーター「そうだ。人類の終末こそ、大きな楽しみのひとつであるというのに」

管理者カルト「何回も繰り返しているだろ?いい加減飽きてこないか?」

管理者イオド「時間をかけて育てるからこそ終末が楽しみなのではないか?」

管理者カーター「それはそうと、A DELETEアデルどもを作ろうと思って魂を狩るのだが、一部刈り取れない魂があるようなのだ」


 ◇


 管理者たちの役目のひとつとして、A DELETEアデルの量産という使命があった。

 万が一、管理者たちに敵対する勢力が現れた場合、若しくは管理者の高みまで登ってきそうな勢力が現れた場合、A DELETEアデルの物量をもってそれを破壊し、宇宙の(自分たちの)安寧を図るためである。


 ◇


管理者イオド「何?何故魂が刈り取れない?」

管理者カーター「わからない…何度やっても刈り取れない魂があるのだ。繰り返す故のエラーなのか…原因がわからない。口惜しいがどうにもならない」

管理者カルト「気にしなくとも、他の魂を狩ればいいではないか。輪廻の輪をくぐり、エデンに舞い戻った際に絶望を見せてやればいい。魂を刈り取れないのであれば、繰り返し絶望を与えることが出来るのだから」


 ◇


 エデン宙域で肉体が死んだ魂は、輪廻の輪をくぐり再びエデンに戻ってくる。

 他の普通の宇宙であれば輪廻の輪をくぐった魂はどこに宿るかわからない。

 人に宿るかもしれないし、虫や植物に宿るかもしれない。

 同じ惑星に宿るかもしれないし、他星系の惑星に宿るかもしれない。

 次元を越えることはないにしろ、どこに宿るかはわからないのだ。

 しかしエデンにあっては、人の魂は再びエデンにて人として生をうける。

 その魂が管理者によって刈り取られない限り。

 刈り取られて減った魂は、エデンで再び新しい魂が生まれるので乱獲しない限りは、そして繰り返す限りは無限に増え続ける。

 これを利用して管理者たちはエデンの人間の魂を狩り、自分たちの手駒であるA DELETEアデルを量産しているのである。


 ◇


管理者イオド「それもそうか。原因が気になるところだが、こういうエラーが出ることもあるか」

管理者カーター「他と違い繰り返している宙域だ。確かにエラーがあってもおかしくはない」

管理者カルト(気になるのはエラーの魂がひとところに集中していることだな…明らかに何かの意思が介在している。だが、コイツらに言ったところでどうにもならんか……ただエデンを快楽の道具としてしか見ていないのだから。…管理者シエナ、裏で何か動いているようだが、まぁ私には関係のないことか)


 管理者たちの話を冷や汗をかきながら聞いていたシエナ。

 しかし、なんとか核心には触れさせずことが収まりそうだった。

(管理者カルトの言に助けられましたね、ともかく次が最後。凛夢やあの人の魂そのものは無理でも、その欠片はなんとか逃がしてみせる)



 ◇


 管理者たちは解散し、シエナは思う。


(しかし、本当に凛夢と出会えたのは幸運でした。凛夢は私と共謀して…なんて言っていましたが、アーカーシャシステムを独力で創ってしまいました)


 アーカーシャの構築は、管理者シエナが凛夢の魂をふたつに分け隠蔽し、その間凛夢は長い時間をかけて独力でシステムを構築した。

 創り方は「何となくこうだと思って創った」とだけしか答えなかった。


(凛夢は確かに人間です。エデンに囚われた哀れな魂です。しかし…凛夢は特別です。いえ、特別すぎます。独力でO・Aオリジン・アーカーシャと呼ばれる【世界の記録】とも比肩するほどの独自のシステムを構築してしまうなんて…)


 さらにシエナの思考は加速する。

(凛夢のアーカーシャシステムにはまだ未知の部分があります。それを凛夢は把握しているのでしょうか?それに、凛夢の使用するあのプレッシャー、我々管理者にとっても未知の力です。あの力はいったい…、もしかして凛夢は我々よりももっと古の時代に、もっと高位の次元から堕ちてきた存在なのでは?…考えすぎでしょうか)


 シエナの眼下には、創世されたエデンが美しくその光を放っていた。

(いずれにせよ、次が勝負です。無事にみんなを送り出せますように…)


 祈りを捧げるシエナ。

 その瞳は確固たる覚悟を宿していた。




 ◇◇◇◇◇◇◇

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