遊び星
桃源郷
第1話 目覚め
「眩しい…」
いつもの部屋、いつもの窓から朝日が差し込む。
少し目をあけるが、陽の光が眩しくて目に染みる。
「んん〜、もう朝か」
枕元に置いていたスマホの時間を見ると、セットした目覚ましアラームの5分前…。
「今日も体内時計は正確だねっと」
言いながらベッドから起き上がる。
雑貨屋で買ったお気に入りのテーブルミラーで自分の顔を覗き込む。
「ん〜クマはないね」
目の下を見ながら呟く。
最近変な夢を見るせいで睡眠不足気味だ。
でも目が覚めるとスッキリサッパリ内容を忘れてしまう。
一度だけなら「まぁ夢だし…」で終わる話だけど、こう何度も続くとちょっと不安。
実際寝不足気味だし。
でも別に身体の調子が悪いとかそういう事はない。
悪いとすれば頭のほうになるのだろうか?
(病院行くとすれば何科に行くんだっけ?心療内科?…でもそこまで深刻なはずないよね。身体は健康だし、夢は…最近頻度が多いけど…)
ストレッチで身体をほぐしながら考える。
(でも本当に何にも思い出せないんだよね。ただ…悲しい夢だったのはわかる。大体起きたら泣いてるんだもん)
自分の頬をそっと触れる。
「ティナちゃーん!早くしないと遅刻するよー」
一階から自分を呼ぶ声がする。
「あっ!はーい、すぐおりまーす」
鞄と制服を持って階段を駆け下りる。
「またティナちゃんったら女の子なんだからそんなバタバタしないの!」
「はーい」
母親が朝食を並べながらティナを見る。
「…また目が腫れてるわよ?大丈夫?」
心配そうな母親の顔を見て、
「全然大丈夫!…ちょっと寝付きが悪いだけだから、勉強で疲れてくるよ」
と笑顔で返すと、
「それならいいけど」
と言って目玉焼きを出してくれる。
「いただきまーす」
トーストと目玉焼きを上品に食べ終わると、玄関の姿見で全身をチェック。
「ん。今日もカワイイではないか」
自分で自分を褒め終わると玄関の扉を開けて
「行ってきまーす!」
母親の「行ってらっしゃーい」という声を後頭部で受けながらいつも通り高校へ向かう。
通学路を歩いていると、後ろから足音とともに
「ティナー!」
と自分を呼ぶ声が聞こえる。
「
「わかりましたよーティナセンパイ!」
「よろしい」
と言って笑いあう。
幼馴染でもある小夜はティナによく懐いていた。
同じ高校に入学してくると聞いた時は嬉しくて色々先輩風を吹かしてしまった。
入学当初はちょっと不安そうにしていたけど、今はもう学校にも慣れきって順風満帆そうだ。
小夜はティナよりも小柄で、それでいてよく見るととても整った顔をしている。
ショートカットがよく似合う可愛い後輩だ。
悪い虫がつかないように、せめて通学が一緒になったときくらいはよく見といてあげないと、と考えるティナ。
「い〜い小夜。私といる時はいいけど、そうじゃない時は誰か友だちと一緒に登下校するんだよ?」
と言うと、小夜は
「
と茶化す。
小夜はティナを茶化す時は名前でなく苗字呼びするからわかりやすい。
だがティナが心配するのには他にも理由がある。
最近人が突然居なくなるというニュースがひっきりなしに聞こえるからだ。
テレビやネットニュースでも人が居なくなった、という話題はほとんど毎日と言っていい程目にする。
最近では隣町でも人がいなくなったっていう噂がある。
それはこのあたりだけの話じゃない。
どうやら外国でも同じように頻繁に人が行方不明になっているらしい。
「本当に神隠しかもしれないんだから、気をつけないとダメよ!」
「ティナセンパイ、うち神社なんだけど」
「…もしかして小夜が…?」
「あっ、ひどーい。うちの神社はそんなことしませんよー」
からかうティナに頬を膨らませながら小夜が怒っている。
「ふふ。冗談冗談。でもほんとに気を付けないとね」
「そうだね」
そんな話をしていたら学校に着いた。
帰りは小夜はだいたい同級生と帰るので、朝一緒に登校して次会うのはまた翌朝といった感じだった。
門を通ると前には隣のクラスの吉秋がひとりで歩いていた。
「
ティナが吉秋に声をかけると、眠たそうに
「おはよぅ」
と返事をする。
この
体育の授業を見たことがあるが、それなりに…いやかなり運動神経はよさそうだが部活の勧誘も全部断っているみたい。
成績は…あまり気にして聞いたことはないけど、中の下?くらいと吉秋と同じクラスの友達から聞いたことがある。
「もうそろチャイムなるけど、急がなくていいの?」
「ん~まぁちょっとぐらい遅れてもいいよ」
急ぐ様子のない吉秋をティナと小夜は追い抜いてそれぞれの教室へ向かう。
「ティナってば吉秋先輩のこと結構気にしてるよね?名前呼びしてるのティナくらいしか聞かないよ」
「んなっ?!そんなことないっ。からかわないでよ!」
小夜はさっきのお返しとばかりに笑顔を作ったあと、一年の教室に入っていった。
(もう…小夜ったら)
ティナは別に吉秋に対してそういう感情があるわけではない。
だけど以前…ティナは暴漢に襲われたことがあった。
街をひとりで歩いていたらいきなり腕をひっぱられて路地裏に連れ込まれ、押し倒された。
男に口を塞がれ身体をまさぐられて、大声をだそうと思ったけど怖くて、泣くことしかできなかった。
下着に手が伸びそうなところで、偶然通りかかったであろう吉秋が息を切らして助けてくれた。
正直どうやって助けてくれたかまでは覚えていないけど、そのあと家まで吉秋が送ってくれた。
そこからティナは吉秋のことを名前で呼ぶようになったのだ。
それからは特に親しくしているわけでもないが、挨拶くらいはするようになったし、向こうも返してくれる。
確かに
だけどそれは、助けてくれた恩があるから、何かで恩返しできればな…という意味であって。
(そんなんじゃないけど…ん~、まぁ同級生としてちょっと心配?って感じかな。
もやもやとそんなことを考えながら教室に入る。
同時にチャイムが鳴ってクラスメイト達もぱらぱらと席に着き始める。
「あ!おはようティナ~」
「おはよう青海さん」
「ティナちゃん聞いてよ~彼氏がさ~」
「青海さん…今度カラオケ行かない?」
クラスメイトがティナを見るなり一斉に声をかけてくる。
クラスカーストという言葉があるが、例にもれずこの学校にもそのような風潮はある。
ティナは間違いなくクラスカーストの最上位に位置する人気ぶりだが、ティナの性格が良すぎてその枠組みから外れたようなポジションにいる。
成績優秀で皆に優しい。
スポーツは人並みだけど、クラスの誰とも分け隔てなく話す。
クラスカーストの上位であろうギャルたちとも仲が良くて話もするし遊びにも行く。
それでいてクラスのオタクたちとも普通にアニメの話もするし、何ならオタク連中とカラオケに行ったこともある。
さっき誘ってきたのはそのときのクラスのオタクくんだ。
「わかったけど、もう先生くるから休み時間になってからね」
皆に優しくしてもらうのは嬉しいけど、一斉に話しかけられすぎてちょっと苦笑いのティナだった。
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登校中のティナ
https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792438627802216
自宅神社の掃除中の小夜
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