その3 帰宅かなぁ

「あ。お茶の味がする」


「あら。じゃあ普通に食べたり飲んだりは人のままのようね」


良い発見をしたじゃないと言わんばかりにお茶を注いでくるリーゼさん。

あの、あふれそうなんですけど!?


「ならこれも食べてみてください!」


「え、えぇ・・・?」


差し出されたのは・・・えーと、なにこれ?

粉薬?

いやこれ食べ物じゃないでしょ、なんていえばいいんだろう、飲むもの?


「ルミナちゃん、流石に粉薬を出すのはどうかと思うわよ?」


「うう、味がわかりそうなものをこれくらいしか持ってないから・・・」


何だろこの子、可愛いなぁ。あさっての方向にだけど。


「じゃあひとなめ」


ちょいっと指につけてひとなめ。


すごくニガかった。


顔をしかめてお茶を飲み、口の中の苦みを流し込む。


「うん、味覚は普通にあるようね」


「ならごはんも美味しく頂けそうですね」


ゴハンがちゃんと食べられそうなのは助かる。

もっとも栄養として吸収するのか、ただ消えてるだけなのか分からないけど。


「とりあえずどちらにしても、僕はダンジョンに戻ろうと思ってます」


「でも、私がマナポーションを作れば・・・」


「流石にずっと厄介にはなれないよ」


苦笑しながら手を振る。

いくらマナポーションで居座り続けられるとはいえ、

そんなのすぐに限界が来てしまう。

ルミナだって生活があるだろうし。


それにさっきと違って、僕にも心配してくれる人が出来た。

それだけでもここまで逃げて彷徨った甲斐があったというもの。


・・・あれ。

逃げて、彷徨って・・・?


・・・


・・・・・・・・


「ど、どうかしたかしら?突然顔色が悪くなったようだけど」


「レーンさん???」


「えーと・・・そのぉ」


もじもじしながら言葉を続ける。

これ、言うの勇気がいるなぁっ!


「えーと・・・あはは、帰るダンジョン、どこにあるかわかりません・・・」








そう。

僕は最低限ダンジョンとしての機能を作り上げただけで、

とっとと外に出て逃げ出してしまったのだ。

そしてあっちこっちに走り回って。


行き倒れになっていたところをルミナが拾ってくれたんだ。


つまり、迷子。


頭を抑えながらリーゼさんが外に出て行ってしまい、

ルミナはひとまずマナポーション補充するねと錬金術を開始。


やばい!いたたまれないっ!!!








翌日。

リーゼさんが男性をつれてやってきた。

すごくガタイのいい中年男性で、あの腕で殴られたら僕消し飛びそうなくらい。


「それで、リーゼ。

 その、なんだ。

 ダンジョンマスター、だっけか?がそこの坊主と?」


なんだか胡散臭そうに僕を見てるんだけど!

ていうか誰?この人。


「紹介するわね。こちらは統括ギルドマスターのゼナム。

 それと、この子がダンジョンマスター?のレーン君よ」


紹介されてよろしくお願いしますと返すも、

ゼナムマスターはしかめっ面のまま。

なんか、僕警戒されまくってる・・・?


「あー、でだ。

 早速なんだが。お前さんの目的は?

 何故ここに来た?こいつらに何をした?」


「え・・・え??」


警戒どころか危険視されてる!?


「こらゼナム。

 こんな若い子、それもか弱そうな子を威圧するんじゃありません」


「いやな?ダンジョンマスターなんて得体のしれない者を

 しれっと迎え入れている時点で論外だからな!?

 普通衛兵に突き出した上で身体調査や危険確認をするか、

 その場で斬り倒すのが普通だからな!?」


「き、きり・・・」


「そんな・・・ひどい・・・」


「こらゼナム!」


「うるせぇな、こちとらやる事いっぱいでそんなことに関わってる余裕なん


「ひどいですっ!!」


「うお」


突然ルミナがゼナムさんに向かって叫んだ。

あまりに突然の行動に思わず身をすくめるゼナムさん。


「レーンさんは私と同じ召喚者だったんですよ!

 それで召喚されてすぐに命落として!

 気が付いたら今度はダンジョンマスターにされてて一人ぼっちで!!

 それなのにそんな扱いされなきゃいけないんですか!?

 やっぱり召喚者ってそんなに邪魔者扱いなんですか!?」


「い、いや、まて、召喚者?」


「そうですっ!!」


ゼナムさんが僕とルミナを交互に見やり、頭をかしげる。


「嬢ちゃんは見覚え有るが・・・

 そいつは見覚えないぞ?」


「すぐ命を落としたって言ったじゃないですか」


「あ、あぁ・・・って、え?

 じゃあお前死者なのか?」


「え、どうなんだろう・・・」


なんだか話が混とんとしてきたような・・・。

パンパンっとリーゼさんが手を叩き、場を落ち着かせてくる。


「まず、レーン君のこれまでの経緯を一通り話すわ。

 その上で、ゼナムがさっき言ったようなことを撤回しないというなら、

 まぁ、それが統括ギルドの総意という事で受け止めるから」


「あ、あぁ」


「・・・」


ゼナムさんはとりあえず頷き、ルミナはむーっとそんなゼナムさんを睨み続けている。

なんかいつの間にか僕を背中に庇うような立ち位置に移動してるし。





リーゼさんは、僕やルミナよりもずっと丁寧に、

分かりやすく僕のこれまでの経緯を全部話してくれた。

途中でまたルミナが涙目になってたけど、そこまで感じ入ってくれるとかえって大丈夫かなこの子って思えてしまう。


ゼナムさんはずっと腕を組んで目を瞑りながらそれを聞いていた。


そして、全部聞き終えた後。


「悪い、さっきの言葉は全部取り消す。

 つかお前も被害者だったわけだな」


そう言ってぺこりと謝罪をしてきた。


「ま、まってください顔を上げてくださいお願いします」


慌てて僕がそう言うと、ゼナムさんは顔を上げてこちらを改めて真っ直ぐ見据えてくる。


「事情は理解したし、二人の行動は結果的にだが正しかったと理解した。

 で、お前さんはこれからどうするんだ?」


「一旦ダンジョンに帰ろうと思ってます。

 ただ・・・」


「帰るダンジョンがわからねぇと」


「はい・・・」


そう、問題はそこ。

僕が帰るべきダンジョンが分からない。

数日間くらい彷徨った程度でここに着いた以上、

そんなに遠い範囲ではないとは思うのだけど・・・


「ちなみにダンジョンの内部構造はわかるか?」


「あ、はい。変化していなければ・・・」


僕は、ダンジョンの構造を説明した。

逃げる前に行ったことを。

すると、ゼナムさんは「あぁ、あそこだな。間違いない」と手を打った。


「え、わかるんですか!?」


「あぁ、最近新しく発見されたダンジョンでな。

 ゼスミア平原にあるようだ」


「ゼスミア平原・・・?」


「あら、思った以上に近いわね。

 馬車で数時間程度で到着できるじゃない」


「あぁ、何日も彷徨ったとは言ってたが、

 まぁこの王都に真っ直ぐ向かってたわけじゃないだろうからな。

 距離的にも恐らく間違いないと思うぜ」


ゼスミア平原に僕のダンジョンが・・・


「ただ、あのダンジョン今は利用者が居るんだよ」


「利用者?」


「あぁ、戻るなら3日後にしとけ。

 じゃねぇと騎士団と鉢合わせになりかねねぇからな」


「き、騎士団!?」


え、騎士団が僕のダンジョンを利用してるの!?

もしかしてダンジョンを破壊するために・・・?


「あ、あの、もしかしてダンジョンを失くすためとかですか!?」


「ん?あぁ、それは心配しなくていい」


「え」


「基本的にダンジョンは攻略はしても破壊はしないっていうのが決め事なんだよ」


「そう、なんですか?」


ダンジョンは危険な存在だと認識されていると思ってたけど、違うのかな・・・?


「あぁ、それでも破壊しようとする馬鹿もいるけどな。

 基本的にコア系のダンジョンは攻略して終わりという感じだ。

 ダンジョンコアには決して手を出さない。

 そうハンターや冒険者になる奴らには必ず説明させてるからな」


コアには手出しをしない・・・、なら。

僕が壊されることは、ないって思っていいのかな。


「ま、俺が知ってる範囲でお前さんのダンジョンとなると、

 そこくらいしか思いつかん」


「いえ、ありがとうございます!

 その、3日後に早速帰ってみようと思います」


「わかった。

 だが一人で帰れるのか?」


「えーと・・・多分?」


「私も一緒にいきますっ!」


「えっ」


「ルミナちゃん?」


僕が帰る宣言をすると、

ルミナが手を挙げて僕のほうを見ながらそう言い切った。



----------------------------------------

 -??????-


<マナの獲得を確認。

 抽出量、適量。人種と判明。数、5>


また、聞こえたこの謎の声。

脳内に直接語りかけてくる・・・というより、ただの報告のように。

内容は前回と同じ。

けど、少しして・・・。


<マナの獲得を確認。

 抽出量、適量。人種と判明。数、3>


まただ。

なんなんだろう、この報告みたいなものは。


<攻略を確認。

 報酬を提出。マナ消費。運営に一切の問題なし>


!?

今度は違う言葉が出てきた!


攻略を、確認・・・?

報酬を提出?

そして、マナ消費?

え、どういう、こと?

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