その3 錬金術です!

私は今、リーゼさんの紹介で職人ギルドにいます。

この職人ギルド、様々な職人さんを育成するための場所になってて、

鍛冶屋、縫製、彫刻、絵画、そして薬剤や錬金術を訓練する事ができる。

もちろん材料費は実費。

だけど、作成するための器材なんかは自由に使える。

そして完成したものはそのまま職人ギルドで買い取ってもらえるので、

うまくいけば材料費を差し引いても儲けが出るという、

まさに初心者職人には最高の環境なんだよね。


もちろん失敗続きだと赤字にしかならないけどね・・・。


さて、私がここにくる経緯となったのは、

もちろん先日のあの調合結果からなのだけど。


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「ご、500ですか・・・」


私が完成させたマナポーションを満足そうに手に取り、販売棚に並べるリーゼさん。

確かに価格500の場所だった。


「かなり出来が良かったわね。

 これなら儲けを出す事も出来るんじゃないかしら」


1本で500ゼニドもの稼ぎ・・・材料費なんかを抜いたって400以上は稼げるんだから、

これで野宿生活しなくてすむ!


けど・・・。


問題は、そんな作成環境が私には無いって事。

器材だって購入しなければ錬金はできない。

調剤や錬金の基礎となる蒸留水を作成するのにも機器なしでは簡単にはいかない。


「それで」


「は、はい?」


「近くに職人ギルドがあるのだけど、

 そこで訓練してみたらどうかしら」


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というわけで、

リーゼさんに紹介されてやってきました。職人ギルド。

いきなりこわもてのおじさんが現れて悲鳴を上げたらすごく悲しそうな顔をされて平謝りしたりと

ちょっとしたことがあったけど・・・。


今私の前には、先日魔法師ギルドで使用したものより簡易的ではあるものの、

錬金術を行なうための器材がある。

ここでしばらくはマナポーションを作り続けて、

お金が溜まったら自分で器材を購入して自分の手で作り上げていくんだ。


職人ギルドでは確かにかけだし用に器材を無償で使用する事が出来る環境があるし、

素材も格安で提供してくれている。

そして出来上がったものをその場で買い取りもしてくれる。


逆を言えば、職人ギルドで出来上がったものは職人ギルドで買い取りしてもらわなければいけない。

そしてその買い取り価格も安めになっている。


安い代わりに環境を自力でそろえなくていいんだけど、

落ち着いたら自分で環境を整えて自分で売ったり、商人ギルドに卸したりしたほうがもうけは出る、らしい。


これは全部職人ギルドのギルドマスターであるハゲドールさんの説明。

本当にここはかけだし職人が一人前になるための場所なんだということだった。




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そうして、私は早速作成を開始する。

あの時、リーゼさんに作った時のように。


薬草をすりつぶして、蒸留水で混ぜて温めて濾して。

魔力草をぶつ切りにして溶液に浸して魔力を込める。


・・・


・・・


・・・


「・・・あれ」


同じ手順で同じように作り上げたんだけど・・・


「紫色にならない・・・?」


出来上がったのは濃い深緑色の青臭そうな飲み物だった。

一応ビンに詰めてフタをして、

買い取り査定窓口に持っていく。


「うん、残念ながらただの滋養強壮の青汁だね」


「うう、失敗ですかぁ・・・」


ちなみに、手間をかけるだけあって、

一応失敗でもそれなりの効能はあるので買い取りはしてくれる。

といっても材料費の2倍に届かない程度なので、

同じ時間をかけて素材を集めたほうが儲かるくらいなんだよね。


でもでも、買い取ってくれるだけでもヨシって思わなきゃ!


「よーし、やるぞぉ!」


こうして私の錬金生活が幕を開けるのです!


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「おい」


「ひゃ・・・え、はい?」


この世界に来て1週間ほど経過したころ。

錬金中、それも目を閉じて魔力を込めているときに、突然声を掛けられた。

うう、錬金中はそっとしてほしいのに。


声を掛けられたほうを見ると、金色の切り揃えられた短髪に、

まだあどけなさが少し残るけどもう少ししたらすごく格好いい人になること間違いなし、と思えるようなととのった顔立ちの男の人が、

私を若干睨むように指差していた。


え、え?

私この人になにかした・・・?


「貴様は召喚者だな?」


「え、えぇと・・・」


召喚者。

私含めて何十人かが元の世界で命を落とし、この世界に召喚され、

この世界で生きることになった人たちを指す言葉。


「なぜこんな所に居る」


「え・・・?」


「召喚者はこの世界の為に戦うことが役割のはずだ」


「え・・・え?」


えっと、いきなり何を言われてるんだろう・・・?


「だというのに貴様はなぜこんな所で何日も何日ものうのうとしている!」


「の、のうのう・・・って・・・」


え、何を言ってるのこの人。

というか誰なのこの人・・・。


「ちょっと、錬金作業場所で喚かないでよ!

 気が散るでしょうが!!」


「なんだと!?

 この私が正しき行いをしろとこの召喚者に指示を与えているのだぞ。

 それに文句をつけるというのか!!」


金髪の男の人の大声に黙っていられなくなったのか、

私と同じくらいの女の子が金髪の男の人を指差してそう怒鳴りつけるも、

男の人が更に私をびしっと指差して怒鳴り返していた。


「何が正しいよ!

 いいじゃない召喚者が錬金術の訓練したって!

 鍛冶屋の訓練してる召喚者も居たわよ!」


「煩い!

 この私がここで勉学に勤しんでいるのに目障りなのだ!!!」


「目障りはてめぇの声だッ!!!」


ごん!


「ぐうういおおおおお!?」


いつのまにかやって来ていたハゲドールさんが、

金髪の男の人に頭にげんこつを落としていた。

かなりいい音がしてたんだけど・・・大丈夫かな。陥没してないかな。


「き・・・きさま・・・」


「おう、王子さんよ、言ったよな?

 他の奴らの邪魔したら容赦なく追い出すってよ」


「貴様、俺を誰だと思っている!?」


ハゲドールさんが腕を組んで王子と呼んだ人の前に立ちはだかる・・・って王子?

え、この人王子様!?


「おい、そこの近衛」


「はい」


「言いつけを守らなかった以上ここまでだ。

 連れて帰れ」


「・・・はい」


「おいふざけるな!

 私はただ役割を全うしろと・・・おい!離せ!!」


いつのまに居たんだろう、室内だからか軽装だけど鎧を身に着けた男性が、

王子と呼ばれた人の腕を掴み、引きずるように退出していった。


「・・・」


「はぁ、やれやれだ」


他の人たちはまたか、みたいな顔をしながらも作業に戻って行った。

それよりも


「大丈夫か?何も手出しはされてねーか?嬢ちゃん」


「あ、はい、指差されただけで・・・

 そこの人にも助けられましたし。

 その、ありがとうございます」


「いいのよ気にしないで。

 あのバカ王子、週1で来ては騒ぎを起こして追い出されてるからある意味名物なんだけど、

 騒がれるこっちはいい迷惑なのよね。

 あ。私はシールスよ。あなたは?」


「ルミナです。

 その・・・召喚者の役割って言ってたんですけど、

 もしかしてしなければいけない事とかあるんですか・・・?」


「あー・・・えーと、私も詳しくは知らないんだけど・・・

 ハゲは知ってる?」


「誰がハゲだ!

 あーとだな、召喚者は近いうちに現れるっつー災厄に立ち向かう為に呼ばれているとは言われてんな」


「災厄・・・」


そういえば、世界を救う為に召喚されるみたいなことをどこかで言われた気がする。

けど、そんな大それたこと私にできるわけがない。


「まぁ気にしなくていいわよ。

 どう見たってルミナは戦えそうもないし」


「うん。無理」


「ま、別に俺たちも召喚者がそういうもんだと思ってるやつは殆どいねぇよ。

 むしろこの世界の都合で呼び出された犠牲者くらいの感覚ですらあるぜ」


「・・・」


そっか。

考えてみたら召喚されなかったらこんなふうに

明日を生きることに悩んだりもすることなかったんだ。


・・・ってその前に死んじゃってるわけだけど。


ともかく二人にお礼を言って、私は作業を再開するのでした。


なお、声を掛けられてしまった結果、やっぱり作業は失敗でした。しょぼーん。



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「成功しない・・・」


ここに来てから10日。

既に私はハンターズギルドの宿泊場を出て、

現在はこの職人ギルドの宿泊場をハゲドールさんの好意で使用させてもらっていた。

他にも何人か使用してる人が居て、うち半数は召喚者のようだった。

流石に広くないし、1つしか宿泊場がないので、男女で一緒になってるけど。


それはともかく。


「なんで初めての時は成功したんだろ・・・」


かれこれ何十本も作成してるんだけど、

1回も成功せずに滋養強壮薬にしかなっていない。

材料は同じ・・・まぁ、質はだいぶ低いものだけど。

作成環境も・・・まぁ器材の多少の違いはあっても同じ。

そして制作過程も同じなのに、成功しない。


「うう、やっぱり私錬金術とか無理なんじゃないかなぁ・・・」


ここに来てから1回くらい成功していれば違うんだろうけど、

ただの1度も成功していない現状に流石に肩を落としてしまう。


「どうしたの、ルミナ。

 なんか元気ないみたいだけど」


「しーちゃん・・・あのね」


しーちゃん、前に私を庇ってくれたシールスっていう女の子。

あれからちょくちょく話すようになって、今ではしーちゃんって呼ばせてもらってる。

はじめはもうちょっと大人っぽい呼び方で!って頼まれたんだけど、

なんだかしーちゃんがしっくりきてしまってそれ以外に思いつかず

2時間くらいずっと考えながら調合作業していたら手順間違えて思いっきり魔力草を焦がしてしまって、

もうしーちゃんでいいわよ!って怒られてしまった経緯が・・・。


「というか1回成功してるわけ?

 しかもはじめての1回目で!?」


「う、うん」


「凄いじゃない!

 マナポーションってけっこう難易度高いのよ?」


「え、え??そ、そうなの??」


え、マナポーションが難易度高い・・・?

でもリーゼさんはこれ私に作らせたんだけど・・・


「魔力を込めるっていう過程がすごく難易度高いんだって。

 たぶんそこで失敗してるんだと思うけど・・・」


「しーちゃんは作れないの?」


「無理無理無理。

 まだレシピ通りの傷薬とか軟膏とかしか作れないわよ」


傷薬というのは文字通り傷口にかけるもの。

ただ、これ怪我を治すというより、怪我の悪化を防ぐためのものらしく、

化膿したりしないように使うものらしい。

軟膏は薬草に油とかを混ぜた火傷や虫刺されで腫れた時の塗り薬だね。

どっちも錬金術ではなく調剤で創れるから、

レシピさえ分かって、ちゃんと手順通りに作ればだいたいの人はちゃんと作れる。らしい。


「といっても錬金術志向だから、

 近いうちに挑戦はしたいんだけどね」


挑戦はしたい、したいけど、

失敗し続けてしまうと材料費すら危ういかもしれない、と

軟膏とか傷薬などの確実にお金の手に入るものを優先的に作ってるみたい。

たまに挑戦しては私みたいに滋養強壮薬になっちゃうみたいだけど。


「1回でも成功してるなら、

 その時の感覚を思い出してモノにすれば必ずできるわよ。

 人によっては10年続けてても作れなくて諦めた人だっているんだから」


「じゅ、10年!?」


「錬金術って、ある程度の魔力操作も求められるからすごく難しいのよ。

 人によっては魔力がなくてそもそもなれない人も居るしね」


そっかぁ・・・

それに比べたら私は成功している実績がある。

あの時との違いをしっかりと検証しながら作っていけば、

いずれ成功する・・・かな?

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