その2 私は薬剤師です!
「・・・・」
目の前には魔法師ギルドの入り口。
魔法師、っていうのは魔法を扱う人たちの事。
そんな魔法を扱える人たちのためのギルドがここ。
新しい魔法を覚える為の魔法石っていうのを売買していたり、
魔道具という魔力や魔石を使用して動く道具を売買していたりしている所。
他にも魔法師としての相談なども受け付けているらしくて、
それならここに相談してみてはどうか、と受付のフロリアさんに教えてもらった。
ここにいるリーゼさんなら親身になってきっと助言をくれるから、と。
けど、いざ入ろうとすると、緊張する・・・。
けど、生きる為、生きる為!
勇気を出してドアを開ける。
からからん という音と共に、いらっしゃいませ、という女性の声が私に向けられる。
「・・・あら、見慣れない子ね。
召喚者の子かしら?」
カウンター?から声をかけてきてくれたのは、40代くらいの女性。
たぶんこの人がリーゼさん、かな?
「あの、その・・・!」
「はい」
「あ・・・の・・・」
「・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
いざ対面して、はて何を言えばいいのだろうって言葉に詰まってしまう。
お金を稼ぐ手段を教えてください!なんて言っていいものか。
迷惑にしかならないんじゃないかなって、そう思うと何も言えなくって。
「・・・うう」
「え、ちょ、な、なんでいきなり涙目になるの!?」
どうすればいいのかわからず泣きそうになってしまう私に慌てて駆け寄って、
とにかくこっちへいらっしゃい、
とテーブルとイスのあるところに案内される私でした。
----------------------------------------
淹れてもらった紅茶を飲みながら、
私はここにきた顛末を話した。
このままでは宿に泊まる為のお金も稼げない事も一緒に。
「なるほど、それであの子はここにあなたを寄越したわけね」
「うう・・・ごめんなさい・・・お仕事中に・・・」
「いいのよ。
召喚者さんたちの支援も私たちの務めなんだから。
それより、現実問題としてお金を稼ぐ手段・・・ね」
「はい・・・」
今の野草や薬草などの採取する仕事では、
とてもではないけど生活できるほどの稼ぎになならない。
宿無しで生きていくならともかく・・・。
「それじゃあ、あなたに出来る事を確認していきましょうか」
「わ、私に出来る事・・・?」
「そう、こちらに召喚される前にあなたがしていたこととかあるかしら?」
「召喚される前・・・」
私が生まれた元の世界では、
私は薬剤師としておばあちゃんに調剤を教わりながらお店番をしていた。
そういったことを話すと、リーゼさんがぽんと手を打ち、
「それならちょっと試してみましょうか!」
と私を部屋の奥へと引っ張っていく。
試すってなにをだろう?
案内されたのは、小さな小部屋でビーカーとかフラスコとかがある調合部屋、かな?これは。
でもこの道具って・・・錬金術のかな。
「ちょっと試しにこれを手順通りに作ってみてもらっていいかしら?」
といってリーゼさんがレシピ?と材料らしいものを指差してきた。
レシピには『マナポーション』と書かれており、それの作り方が記載されていた。
「え、えぇと・・・?」
「試しに作ってみて。
薬剤師として勤めていたのなら、これらの器材の扱い方は分かるわよね?」
そう言われて器材を確認する。
フラスコにビーカー、蒸留水を作る為の加熱器。
それに乳鉢にすりこぎ。濾過装置と全部見覚えのあるものばかり。
ただ、火をつける方法が分からないけど・・・。
「ちょっとこれを持ってみて」
と、リーゼさんが水晶玉のような卵くらいのサイズの石を私に持たせる。
それはすぐに私の手のひらの中へと沈んでいく。
「え、な、なに!?」
「あら、良かった。使えそうね」
使えそうって、え、なにがですか!?
手のひらに沈んでいた玉が完全に手の平の中に入ってしまう。
・・・けど、不思議な事に異物感は感じない。
「い、今の何ですか!?」
「今のは魔法石。
フレイアっていうちょっとした火おこしが出来る魔法よ」
「え・・・えええ!?」
今のが魔法石!?
じゃあ今ので私、魔法覚えちゃった!?
「フレイアって言えば、手の平に火が灯せるわ。
しっかり使いこなせば着火できるようになるから便利よ?」
「便利よ・・・じゃなくて私そんなものかうお金ないんですけど!」
「それじゃ、早速調合してみて頂戴」
「あのぉ!?」
なんか流されてるけどこんな高価なもの頂くわけにはいかないんですけどぉ!?
しかもあとで値段見て気が遠くなっちゃったんだよ!?
私の1日の収入の100倍以上のお値段でした!!怖い!
「それじゃあこうしましょう。
調合に成功したら、その品を貰うわね。
失敗したらあなたに出来そうな別の仕事を頼みましょう。
それをこなしてくれれば今の魔法石の代金っていうことでいいわ」
「えぇぇ・・・・」
そんなもので事足りるのかなぁ・・・
とにもかくにもまずこの調剤・・・調合?をしてみなさいってことだよね・・・。
ううん、おばあちゃんに教わったヒールポーションより簡単に出来そうだから、出来ると思うけど・・・。
まず蒸留水を作る。
水を火にかけて、沸騰させて蒸気をもう1つのビーカーへと流し、冷やして液化させる。
こうすることで不純物が一切ない水、蒸留水が出来上がる。
井戸水や川の水には不純物が色々混じっているから、
こうやって沸騰させて水蒸気にしたあと、
別の器に冷やして液化させて水に戻すことで、不純物を取り除くことが出来る。
こうしないと、調剤するときに薬の効果がおかしくなる場合がある。
不純物が影響して効能が変化してしまう場合があるから。
次に材料をどう使用するのかが記載されている。
まずマナポーションに使用するのは2種の薬草。
1つはすり潰して傷口にぬりつけて治療に使用す弟切草・・・なんだけど、
私の知っている弟切草と違って葉っぱのとげとげが鋭い。
これ下手に掴んだら手がズタズタになりそう・・・。
2つ目は・・・私はまったく知らない草。魔力草というものだった。
ともかく、まずは蒸留水が出来るまでの間、弟切草を乳鉢ですりつぶす。
ある程度蒸留水が溜まったら、すりつぶした弟切草を入れて、混ぜる。
よく混ぜた後、3回ほど濾過させて綺麗な緑色になった液体のほうをビーカーに移して火にかける。
そして魔力草をぶつ切りにしてビーカーの水溶液に浸す。
あとは沸騰しないように調節しながら見る・・・のだけど、
魔力を込める必要があるみたい。
・・・あれ。
これって・・・!
私はここで作業を止めてしまう。
沸騰しない程度に温められ続けている薬品が時々ぽこりという音を立てる。
「どうしたのかしら?」
「あ、あの・・・これって・・・
その・・・魔導錬金術・・・では・・・?」
「まどー・・・?
調剤より錬金術よりなのは確かだけど、何かしら、魔導錬金術?」
え、知らない・・・?
「し、知らないんですか・・・?
これ禁忌とされた忌むべき手法の錬金術・・・ですよね!?」
「き、禁忌?」
震える私の声に、ただただ戸惑いながら返答するリーゼさん。
・・・あ。
「あ・・・そうだ、ここ私の世界じゃないんだ・・・」
私は召喚された召喚者。
ここは私の世界とは違う世界。
それならルールとかも違う・・・のかな。
私の世界では、錬金術は2種類存在していた。
学問的に解き明かしていく錬金術、化学錬金術と、
魔力を用いて本来接合しないもの同士を掛け合わせることも可能となる魔導錬金術。
ただ、魔導錬金術は本来のありし姿を歪めてしまうという神への冒涜行為であることから、禁忌として使用を固く禁じられていた。
そういえば・・・、おばあちゃんに使い方を教わってたけど、
絶対に人前では使うなって言われていたんだ。
普通に調剤するより完成する速度が速いから、いざっていう時に使えるようにって。
教わって入るけど、まだ扱いきれてないんだよね・・・できるかなぁ。
「えぇと・・・大丈夫?」
「あ、はい・・・あの、この調合方法って、魔導錬金術ですよね?」
「その魔導錬金術が分からないのだけど・・・」
「あー・・・えーと・・・。
錬金術、なんですよね?」
「え、えぇ、調剤よりの錬金術ね。
薬剤師も使う手法だから、錬金術師だけの手法ではないわ」
薬剤師も使用する・・・。
魔導錬金術が一般的に使われているって事・・・。
なら、使用して問題ないのかな・・・ないよね?
それなら、おばあちゃんに教わった方法でいいのかな。
この世界でもそれで出来上がるなら・・・えーと。
私は目を瞑り、目の前の薬品となろうとしているものに両手を左右に包むようにかざす。
実際に包んだら火にかけてるから火傷しちゃうので離してだけど。
そして、瞑った目の中にビーカーの薬品をイメージして瞑った目の中で視覚化させる。
その上で両手から魔力がじんわりとそのビーカーを包んでいくことをイメージしていく。
実際に見たところで魔力は可視化できないから、目を瞑ってイメージするのよ、
というおばあちゃんの言葉で、私はこうするようにしたんだ。
結局私は生前では魔導錬金術を用いて作れるヒールポーションを完成させたことは一度もないけど、
こうやって行なう事は何度も教えてもらっていた。
だから・・・。
こうして魔力で包み続けて1時間。
私は目を開いて火を止める。
目の前には魔力草が完全に溶け消えて紫色に変色した水溶液があった。
最後に濾過させてビンに詰め込み、完成。
問題は、ちゃんと完成してるかなんだけど・・・。
私はそのビンをリーゼさんに手渡した。
「お疲れ様。
あれがあなたのいう魔導錬金術、なのかしら」
「えぇと・・・、はい。
人前では絶対に使ってはいけないって言われてたんですけど・・・」
「確かに私の知ってる錬金術とは少し違ってるわね。
魔力の注ぎ方なんて初めて見たわ」
「え、えっと、それでどうでしょう?」
「まってね、えーと鑑定の魔道具・・・」
リーゼさんがなにやら壺のようなものを取り出し、
その中に私の作ったポーション?を置く。
少しして、リーゼさんが感嘆の声を上げていた。
「驚いたわ。
だいぶ効果の高い良質なマナポーションになってるわね」
「え、本当ですか!」
「えぇ、これなら材料費を差し引いても500ゼニドにはなるわね」
「ご、ごひゃく!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます