第2話『あおってみようか?』



「ね?(笑)おかしいって!あいつ(笑)」

ひとしきり笑った後、友人が私にだけ聞こえる声で囁いた。グラスを持つ手が、笑いのせいでまだ小刻みに震えている。

「次元の見た目でルパンの真似とか、意味わかんない!」

「ほんとそれ。でも、なんか面白くない?」

「面白い!ねぇ、ちょっとからかってみようか?」

友人の目が、いたずらっぽくキラリと光る。酔いも手伝って、私たちの悪ノリは加速していく。

「うんうん!」

私はコクコクと頷いた。


友人はひとつ咳払いをしてから、すっと姿勢を正し、隣の席の男性に声をかけた。


「あのぉ? 銭形さん? でしたっけ?(笑)」


わざとらしく首を傾げる友人。私も必死に笑いを堪えて、男性の反応を待つ。


すると男性は、ピタリと動きを止めた。

ゆっくりとこちらを向き、さっきよりも深く帽子を押し下げる。そして、低い声で唸った。


「ぬぅ……」


え? なにその反応?

私たちが戸惑っていると、彼はガタッと音を立てて勢いよく立ち上がった。


「ルパァーーーーン!今日という今日は年貢の納め時だぁっ!!逮捕だぁっ!!」


彼の声が、静かなバーに響き渡る。

何人かのお客さんが、驚いてこちらを振り返った。バーテンダーまでもが、一瞬、手を止めている。


私たちはあまりの迫力に一瞬固まったが、すぐにこらえきれずに噴き出した。

「ぶはっ!」「あはははは!」


しかし、男性はそんな私たちを気にも留めず、何事もなかったかのようにスッと席に座り直した。そして、ボソリとこう呟いた。


「…と、とっつぁんなら、そう言うだろうな」


「いや、あなたが言ったんでしょ!(笑)」

友人のツッコミが炸裂する。


もうめちゃくちゃだ。次元大介そっくりの男が、ルパン三世のモノマネをしたかと思えば、今度は銭形警部になりきる。そして、妙に客観的なコメントで締めくくる。


「もう……なんなの、あなた(笑)」


私が涙目になりながら言うと、彼はまたクールな表情に戻り、静かにグラスの酒を呷った。その横顔は、やはりどう見ても次元大介なのだった。

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