【短編小説】まっすぐな長い廊下
よーすけ
まっすぐな長い廊下
「おじちゃん!」
僕は、ペタペタとスリッパの音を鳴らしながら歩くおじちゃんの背中を見つめ、その後ろを慌てて追いかける。
長く、真っ直ぐに奥へと続く、木の温もりが感じられるその道を、ふたりは歩いていく。
母方の祖父を、僕は"おじちゃん"と呼んでいた。祖母はおばちゃんである。
これは、どれだけおじちゃん、おばちゃんの年齢を重ねようが、変わらなかった。
その廊下は、母方の祖父母が住んでいた家の、あの長い廊下だった。
玄関を入ると、細く長い廊下が、家の奥へと伸びている。
その廊下は、僕の記憶の中でずっと「まっすぐ」だった。
小さな頃、里帰りするたびに、おじちゃんの背中を追いかけて歩いた廊下だ。
おじちゃんは、いつもスリッパの音を鳴らしながら歩く。
ガッガッ、ギシギシと鳴る床板の音と一緒に。
玄関の「店」と呼ばれる作業場で、器用に木を削っては作品を作り、
時折、畑へ行っては様子を眺め、また廊下へ戻って来ては、居間に座ってのんびり煙草を吸う。
そんな背中を、幼い僕はずっと追いかけていた。
台所では、おばちゃんが洗濯物を畳んだり、ごはんを作ったりしていた。
夏はいつも暑く、冬の朝の廊下は冷たく、窓のカーテンを開ける音が響くと共に、廊下に光が差し込んで、白く明るく光っていた。
「なんやあ、来たんか」
久々に泊まりに行くと、そんな言葉をいつも投げかけてくる。それ以上の言葉はない。
僕は玄関を開けて、店を眺め回す。
そのまま、まっすぐな長い廊下を歩きながら、窓越しに庭を眺めた。
そして、奥の居間へと入る。
そこから、いつもおじちゃんが座る大きな窓際の椅子とテーブルに座り、カーテンと窓を開けて、奥の畑を眺めるのも好きだった。
僕が来ても、おじちゃんはあちこち動き回っている人だった。
玄関にある店へ行き、木材や道具のチェックをしながら煙草を吹かしていた。
かと思えば、庭の畑へ出向き、農作物やお花、道具のチェックをし、そこでも煙草を吹かしていることもあった。
どこに行くにしても、その廊下を通る。
僕は、そんな動き回るおじちゃんに強く惹かれていた。
どこかへ行こうとするとき、スリッパの音、歩く軋む音が聞こえてくるとき、
僕は、行くんだな⁉︎と感じて追いかけた。
一緒にいて、何かするわけでもない。
ただ、そばにいて眺めていたかった。
そして、その廊下もいつもそばにあった。
成長して青年になってからも、僕の心情は変わらなかった。
落ち着いた雰囲気で、おじちゃんの様子を伺う。
行ったり来たりしながら、
「おじちゃん、何してるの?」
それだけの言葉を投げかけ、静かにそこにいた。
そして、スッと戻って来た。
変わらぬ習慣、変わらぬ思いがあった。
そんなおじちゃん、おばちゃん。
僕もいい年齢になったいま、ふたりはいなくなってしまった。
それでも、あの廊下は、僕の中でずっと「ながくまっすぐ」で、
今でも、たまに訪れるとそう強く感じている。
廊下を歩く姿が強く心に残っているからこそ、今も人生に安心感を与えてくれているのだと思う。
そして、おじちゃんは遠いけれど、いつも身近にいてくれる存在だった。
おじちゃん、僕はあの時のまま、あなたの背中を追いかけているよ。
僕は、この短編小説を書き始めたとき、急に泣き出してしまった。
思い出を振り返るから悲しくなるのは当然だろう。
お葬式でも泣かなかったし、健やかで安心感を感じていた僕だったのに…
僕のそばからいなくなることは、やっぱり悲しかったんだ。
【短編小説】まっすぐな長い廊下 よーすけ @yousow0527
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